スザン戦争・四
カズスとジェミスの見せ場に続く、任務です。
スザン軍は二分割された。
前方に二万の重装兵と三万の騎兵、後方に六万の重装兵と三万の騎兵。どちらも両極に進軍するのでたちまち距離が開いてゆく。
「そろそろ頃合いでしょう」
セグランは入れ替わり立ち替わり参上する斥候の報告を受け、新たな指示を与えつつ、戦場の動向を見極めながらキルヴァに言った。
キルヴァは短く頷き、次なる号令をかけようとして、ふと思いとどまった。
「しかし、いったいどのような手段でああも計ったようにスザン兵を反転させたのだ?」
「鳥を放ったのです」
「この雨天に?」
「雨天だからこそです。少し機転が利くならば異変があれば察知します。ましてや相手はビョルセン・メオネス、音に聞く知略と剛の者です。さすがですね、一瞬にして看破された」
「看破されることを見越しての次の策だろう。思ったより雨足が緩まないが、大丈夫かな」
「いま一番手をジェミスに申しつけました。そうすれば失敗しても最低限の犠牲で済みますからね。ああ、王子がご心配なさるようなことはありませんよ。あの男、見た目よりずっとしぶといんです」
キルヴァは唇を横に引き結び、眉根を寄せて首を擡げた。視線の先には断崖絶壁が黒々と聳えている。
その任務に際して、はじめに名乗りを上げたのは、カズスだった。
「俺が行きます」
「行ってくれるか」
「はい! 俺、大角鹿にも乗ったことあるし、山羊を飼っていたから道に迷った奴らを崖っぷちから連れ戻したことも何度もありますよ。高所にも急斜面にも岩場にも慣れているし、俺にやらせてください」
「では頼む、カズス」
「はっ!」
苦渋の決断でキルヴァがカズスに危険な役目を負わせたのを見て、セグランは言った。
「ジェミス、あなたも行きなさい」
「はあ!? なんで俺が」
「あなた馬術だけは人より抜きんでて上手でしょう。いま役に立たないで、いつ役に立つんです。つべこべ言わず、四の五も言わず、文句を言わず、行くんです。いいですね」
問答無用で「はい」と言わせて、ついでにまとめ役も押しつけて、他にも体力と操馬術に自信のある者を百名ほど選抜し、五十名ずつの小隊を編成した。
かくて彼らはこの戦場において、最も過酷な役目を担うことになる。
久々に投稿~。短めだけど……。また次に戦場の模様が変わるので。
戦記は難しいですよね。こちら側と敵側の両方を描いてぶつける方が面白いので、そう試みてはいるのですが、配分がなかなか、なかなか、上手にできない。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。