スザン戦争・一
お久しぶりでございます。
いよいよ開戦しました。再びの戦場です。
戦闘場面はいくつ書いても胃がいたい……。
自分の未熟さを痛感せざるを得ないワケです。けど好き。
キルヴァの三倍俸禄作戦は劇的な成果を見せた。
漆黒の闇の中の強行軍であるにもかかわらず脱落者は一兵も出なかった。尖兵隊の綿密な調査による誘導の甲斐あって、翌朝には全軍エズガシアの地に到着した。
度肝を抜かれたのはスザン軍である。夜明けと共に忽然と出現したイシュリー軍にすっかり機先を制された形となってしまい、全軍浮足立つようにあたふたと右往左往した。
折しも、雨が降りはじめた。湿度の高いこの地域では日に何度か猛烈な集中豪雨に見舞われる。それこそ視界など利かぬくらいの雨量である。
この土砂降りの雨の中、一騎、イシュリー軍の布陣より僅かに進み出た。
「天は我に味方せり」
と朗々と響く声もて言って、キルヴァは高く拳を突き上げた。
「いまこそ好機。戦闘用意!」
「戦闘用意!」
傍らに立つ次軍師セグランが大音声を上げて繰り返す。
イシュリー軍、大将軍キルヴァ・ダルトワ・イシュリーの手に握られた笏丈が一気に振り下ろされる。
キルヴァは叫んだ。
「全軍突撃!」
スザン軍は斥候の報告によるセグランの読み通り前面に六万の軽歩兵、その後方に八万の重歩兵を三段に構え、側面の左翼右翼に三万ずつの騎兵を置いた、地形上横幅よりも縦深をとった突撃力重視の布陣で展開していた。
一方イシュリー軍は前面に二万の重歩兵、後方に二万の軽歩兵を凸形の広陣に配備し、右翼にキルヴァ直属の軽装騎兵一万、左翼にナジーヴァ・ゲルトミーチェの重装騎兵二万、右翼後に弓矢隊一万、左翼後に弓矢隊一万、そして別動部隊にカイネシュタルク・フッディの精鋭隊一万を配属した。
戦闘開始の両軍の角笛が雨天の中重らかに響き渡り、鬨の声が激しく上がる。
スザン軍はイシュリー軍の突撃開始より僅かに後れをとったものの、まず軽歩兵六万が長槍を身体の正面に構え、ほぼ態勢を乱すことなく、イシュリー軍の半月型中央に楔状に突進した。紛れもない、中央突破である。
六万の猛然たる足音が向かってくる中、“鉄壁”の異名を誇るイシュリー軍重装歩兵隊将軍ソル・リーテイラーは一歩も退く気配なく、騎乗で指令を出した。
「総員、盾用意!」
迎え撃ったのはイシュリー軍の二万の重歩兵で、絶対数では劣るものの、重装備に加え各個大盾を翳して腰を低く、重心を低くして進撃した。
まもなく両軍が激突し、雄叫びが轟いた。
キルヴァは中央の危機を放置した恰好で前線の戦いを見守っていた。
軽歩兵に対し重歩兵をぶつけるとは、本来あるべき兵の配備とは趣の異なる布陣であり、各部隊の将軍より様々な意見があった。だが、
「兵力の差が大きくある以上、従来の戦略では勝てません」
と、参謀職に就く次軍師セグランが作戦の全容を説明した。
「まず、数で圧倒的に劣る我が軍が軽歩兵に軽歩兵をあてたところで劣勢であることは明らかです。そこで、軽歩兵には重歩兵を、六万の攻勢に対し三分の一の兵ではじめの一手をしのぎます。ここで重要なのは、押し負けないこと。前線を下げないことです。撃破の必要はありませんので、ソル将軍は深入りしすぎないよう統制をとっていただきたいのです」
ソル・リーテイラーの懸念は他にもあった。
「もし、天人兵が出撃してきた場合は?」
「天人兵の出撃がない条件下にて戦いたいと思います」
「つまり?」
「雨天を狙います」
セグランの答えは簡潔だった。
「天人は水に弱い。雷・火・風のいずれも雨の中では飛べないはず。彼らは翼が濡れるのを嫌がります。飛べたとしても、発揮する力は極端に落ちます。水の天人はそもそも争いを好まないので攻撃部隊には相応しくありません。雨の中での天人兵の出兵はまずないとみてよいでしょう。さいわい、いまの季節この地方は局地的集中豪雨に見舞われます。天候が我らの勝利の鍵を握るでしょう」
キルヴァは訊ねた。
「前線を下げず、力の拮抗で引き分けたそのあとは?」
「敵は主力部隊である重歩兵を投じてきます。我が軍は軽歩兵で応戦します」
「八万の重歩兵に二万の軽歩兵で迎え撃つのか!」
「はい。とはいえ、まともにやりあっては勝てませんので、ここは一計を講じたいと思います」
区切りがいいので、短いですが、この辺で。
戦記ものは会話がなくて、辛いですねー。
そうだ、一応、書いておこうかな。
天人は、強い順に、雷の天人・火の天人・風の天人・水の天人です。
翼の数は、十三翼が長、その下に十二翼天、以下偶数です。翼の数が多い方が強いですが、十翼天以上は非常に数が少ないです。ですからステラは長以外では最強の天人の部類に入ります。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。