表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天人伝承  作者: 安芸
第五章 戦場に咲き狂うということ
42/82

軍議

 いよいよ新章です。まず、軍事会議から。

 イシュリー国王ディレク出席のもと、軍議は紛糾の極みにあった。

 いわば、公然の秘密であった天人兵の存在がついに明らかにされ、その兵力を持ってライヒェン国を急襲し、従属させ、一気に属国化を計るという強攻案が軍師リューゲル・ダッファリーにより提出されたのだ。

 丸二日の討議を経ても採決には至らなかった。

 賛成派、反対派、ほとんど互角の言い分が軍議の進行を妨げ、停滞させていた。

「リューゲル軍師、あなたは天人兵が強い強いとおっしゃるが、私どもにしてみれば寝耳に水――その存在すらもいまはじめて知った次第なのですぞ。ましてや天人を隷属させ兵士に仕立てるなどと、一概には信じがたい事実です。そんな突拍子もないことをすぐに信じろ、信用しろ、と言われて納得できるわけがないではありませぬか」

「そうですとも。ただでさえ天人はひととは慣れ合わぬ種族です。意志の疎通すらままならぬ相手に、どうして服従などさせるのです。どうやって契約を結び、味方にしたのです。いえ、そもそも天人兵の種族は? 何翼で、何人構成で、どんな攻守をみせるのですか?」

「そんな細かいことはどうでもよかろう! 我らが軍師殿がやれるというのだ、やれるに決まっておる! なぜそうまで強弁に反対するのだ。別によいではないか。俺の部下は死なずに済む。天人兵でもなんでもいい、目障りなライヒェンとスザンをとっとと黙らせてほしいものだ」

「確かに。いまは目先の勝利を優先させたいな。長引く戦争で民が疲弊しきっている。徴兵制で若い労働力はみんなそっちに持っていかれて耕地は荒れてきたし、収入減で消費は低迷、国益も下がっている。一日も早い終戦は民の待ち望むところ、それも自分の旦那や息子が犠牲にならずに済むならば、言うことなしじゃないか」

「方々、お待ちなさい。問題はそれほどに単純なものではありませんぞ。あちらも天人兵を用意していないと断言できますのか? 万が一にも、こちらが先に手出しして、報復されたとて、あとで文句は言えますまい。第一兵力が僅差の場合はどうするつもりで? 軍を出動させる? 和平会談を設ける? その前にスザンが攻めてきたらどう迎え撃つと?」

「これこれ。皆、ちと喧しくはないか。王の御前であるぞ」

「思うになぜライヒェンだ? いま攻めるべきはスザンだろう。先の小競り合いでスザンの王子の首も取ったことだ、内政も乱れているに違いない。天人兵でも我軍でもなんでも、とにかく、相手にするならばライヒェンより先にスザンだ」

「スザンよりライヒェンだ! スザンとは国力が違う。我が国とあまり差が出ると手出しするのも困難になるだろう。とかくライヒェン王は曲者で知られている。いまはまだ静観の姿勢を崩していないが、我らがスザンの攻略にかかった途端に背後をつくというやり方は常套手段だ。叩くならば、やはりライヒェンが先決だろう」

 そこへ、ディレクのもとに伝達があった。

「……そうか、わかった。皆の者、一時休会とする。リューゲル、ついて参れ」

 そして、さっさと退席した。

 国王不在により議会は中断を余儀なくされ、出席者らはしばし解散した。

 ディレクは紫紺の長いマントをたなびかせながら、大股に回廊を渡っていく。あとにはリューゲルと専属護衛の近衛でジレフ・マリベスが続く。

 王宮でもごく限られた人間のみ出入りを許された居住区と国政の中枢である政務区の境にある中庭に出た。

 余計な技巧を施していない、緑も花もない、ただ四角く切り取られたかの如くぽっかりと口を開けた空間に、片膝をついて丁重に頭を垂れた人間が四人、黙して控えていた。

「面を上げよ」

 今年四十五になるディレクの顔が綻ぶ。亡き妃におもざしのよく似た息子は彼の掌中の珠であると同時に唯一の弱点でもあった。

「キルヴァ、息災だったか」

「はい。父上も思ったより随分とお加減が良さそうで安心いたしました」

「リューゲルが大袈裟に騒ぎすぎなのだ。私は平気だと申したのに――」

「なにが平気なものですか! 王のおっしゃる『平気』が平気であったためしなどございません。王子の前だからと言ってとぼけるのはよしてください。しばらく絶対安静の告知をされたほどの負傷でしたでしょう。もっとも、いまは本当に良くなりましたが。お久しぶりでございます、王子」

「ああ。そなたも元気そうでなによりだ」

「セグランはお役に立っておりますか?」

「無論だ。よく私を助けてくれている。そうだ、まだこの件では礼を言ってなかったな。遅くなったが――セグランを私のもとへ返してくれてありがとう、リューゲル」

「いえいえ。十年かかりましたが、なんとか形になりました。もうひとりの私の弟子――次軍師アニエル・オースターと共に、どちらを王子が選ばれるにせよ、私のあとを継ぐには相応しい次代の担い手です」

「そのような話はあとでよかろう。それで? 戦線を離れてまでわざわざ近衛の認定に足を運ぶとは、今度はどのような素性のものなのだ? ダリー、ミシカ、アズガル、そなたたちの眼にはかなったのか?」

 ディレクはダリー・スエンディーに口答を許した。

「十分に」

「ほう? それで、そのものはどこにおるのだ? 連れて参るがよい」

「ただちに」

 しかしキルヴァは天空を浅く仰いだきりで、動こうとしない。

 ディレクは息子を訝しげに見やり、キルヴァはやや間を溜めて微笑む。

「――ステラ」


 軍事会議。この頭の痛いもの。そして避けては通れないもの。会話力、センス、臨場感が問われるもの。あああ。自分で言っておきながら自爆。軍議はまだ続きます。精一杯の筆力でかかっていますので、生温い眼で見てください。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ