旧友への謝意
ちょっと短め。区切りがいいので。
それからキルヴァは手持無沙汰に控えるダリーとミシカを振り向いて、
「君たち二人は休息の続きだ。と言っても、私の周りをこれ以上手薄にするわけにはいかないから、すまぬがここにいてほしい。私はステラと少し話してくる。セグラン、ダリーとミシカの相手をしてくれるか」
「はい。そうですね、体力測定の様子を見ながら三人で雑談でもしていましょう」
キルヴァがステラのもとに行ってしまうと、ダリーがその後ろ姿を眺めながら言った。
「要するに、邪魔をせず近くにいろ、というわけだな」
「強かでいいじゃないか。あれぐらい気丈でないと困るだろう」
セグランは感心したように言った。
「なかなかどうして、怖い一面もありますね。それに鞭も飴もお上手だ。思った以上に剣筋も冴えているし、出陣には縁がなかったはずなのに戦場慣れしていらした。兵法はまあ学ぶ機会は多いでしょうが、机上の空論と実践ではまるで違います。ところが見事に采配してのけた……あんなことは素人では無理です。ではどこでどうしてあのような技術を身につけたのでしょうか……?」
ダリーとミシカは顔を見合わせた。
ダリーは言いにくそうに眼を泳がせ、いったんは口をひらく。
「あー、それはだな」
「はい」
「いや、だから、その」
「はい?」
後が続かない。
口ごもる兵長に嘆息して、ミシカは助け船を出した。
「王子に直接訊くがいい。セグランなら教えてくれるさ」
ダリーはぱっと顔を明るくしながら、手を打った。
「そうだな、うん、それがいい」
セグランは怪訝そうに二人を見やったが、追及はよしておいた。
「……そうですか。では、そうしましょう」
目の前では五名の男たちが腕立て伏せの速さと回数を競っている。
限界で倒れたものから面接をはじめるということで、クレイは様子伺いに余念がない。
セグランは、そういえば、と切り出した。
「……ミシカ、弟さんの容体は……?」
途端に、ミシカの形相が険しいものになった。
まずいことを訊いたようだ、とすぐに察して、セグランが話の矛先を変えようとしたとき、ミシカは取り繕った表情で薄く微笑した。
「……ん、まあ、変わらないよ。つまり全然良くならないってことだけどね……」
半端な同情を示さぬよう、セグランは苦心した。
次にダリーに訊ねる。
「……ダリーは? 報復の目処はまだ立たないのですか……?」
「……捜しちゃあいるけどな。相手が相手だ、そう容易には尻尾も掴めんだろう」
セグランは押し黙った。
この十年は旧友にとっても決して平穏無事な十年ではなかったらしい。
それでも、誠心誠意、自分との約束を守り、王子を護ってくれたのだ。
セグランは旧友二人に頭を下げた。
「私にできることがあったら、どうか遠慮なく言ってください。いつでも、なんでもいい。次は私があなた方の力になる番です」
思わせぶりな会話の断片がちらほらと。のちほど、のちほど。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。