近衛任命
キルヴァの決して型にはまっているわけではない、性格の一端ということで。
セグランは彼らの身が強張るのを見た。
なんとか減刑をお願いせねば、と口を切ろうとした矢先、キルヴァがなんとも嬉しげに微笑んだ。
「ここにいる皆を、いまこのときより我が次軍師セグラン・リージュの近衛に任ずる」
セグランは意表を突かれた。それは彼らも同じだったようで、皆一様にぽかんとしている。
キルヴァは屈託ない調子で続けた。
「昼食時でつい油断しているひとときに、素早く行動を起こした君たちを評価する。どうかその力をセグランのために貸してほしい。近衛兵長は一番の年長者に任せようと思う。皆、年齢を言いたまえ。そうか。うん、では君だ。名は?」
まだ面食らったまま、兵のひとりが答えた。
「ルゲル・エギーユです」
「ではルゲル・エギーユ、そなたを次軍師近衛兵長に任ずる。受けてくれるな」
「は……ははっ」
キルヴァは首肯し、次に眼を向けた。
「兵副長は私を護るため身を挺した君だ。名を聞こう」
いきなり視線をぶつけられ、若者は戸惑いした。
「お、俺は、ラージャ・ミクルスです。でもあの、近衛兵副長なんてそんな」
「嫌か?」
「まさか! 光栄です! ただ、俺はまだ入隊して日も浅いし――他にもっと相応しい人がいるのではと」
「相応しいか、相応しくないかは問題じゃない。不測の事態に遭ってもどのように行動できるのか、それが肝心なのだ。誰か、ラージャ・ミクルスが近衛兵副長で不満のある者がいるか?」
沈黙が返ってきた。
ほら、とキルヴァは笑い、
「君を近衛兵副長に任ずる。受けてくれるな」
「――は、はいっ! 謹んで拝命賜ります」
「というわけだ。セグラン、この九名の者たちが君の命を護ってくれる剣となり盾となろう。よく傍に置くように。よいな」
セグランは深々と身を二つに折った。キルヴァの自分の身を案じてくれる気持ちがただただ嬉しかった。
「ご厚意、感謝いたします」
「あのー、王子、俺の立場はどうなるんですかねぇ?」
横から口を出したのは思ってもみない展開に眼を白黒させていたジェミスで、セグランは彼に面と向かい、きっぱりと、用済みだ、と断言した。
「うわ、ひでぇ。ちょっと王子、そりゃないですよー」
「そんなわけがなかろう。君はそのままだ。セグランの補佐と護衛、しっかり頼む。近衛兵をつけるのは今後君ひとりでは対処に限界があると見込んでのことだ、ルゲル・エギーユと協力して、どうかセグランを護ってくれ」
それにしても、と苦渋の表情でいままで黙っていたミシカが抗議の声を上げる。
「私とダリーを除け者にすることはないでしょう」
「すまぬ。だが言ったら止められただろう。危ないことはするなって」
「それは、まあ。こぼれ矢があたらないとも限りませんし、どさくさにまぎれて不穏なことをやらかす者がいないとも限りませんからね、反対はしたでしょうけど――」
「まあいいさ。大事には至らなかったわけだし。でも王子、俺に黙ってこんなことはもう二度としないでくださいよ」
「わかった。しかしこれで、ステラを堂々陣中に置いておける。皆、はじめのうちは色々支障があるだろうがうまくやってくれ。よろしく頼む」
そう言ってにこやかに笑んだキルヴァが最後に自分に向けた一瞥を、セグランは見逃さなかった。
あとで話がある、とそのまなざしは告げていた。
そしてそのことがなんであるか、セグランには既に察しがついていた。
円満な雰囲気が漂う中、待ったをかけた者が出た。
昨日一日掲載お休みしてしまいました。えへ(寝ちゃったー)。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。