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天人伝承  作者: 安芸
第四章 苦しみを見出すということ
32/82

久しぶりに

 こういう他愛のない話をもっと書けたらと思います。

 

 国境線に特に動きは見られず、戦線基地は迎撃態勢を崩さないまでも、一応は平穏の中にあった。

 それが束の間の休息であることは兵の多くが知るところであったが、ここ数日は交代制で訓練し、各隊別に見張りや見回りの任に就き、身体が空いた者は思い思いに過ごしていた。

 昨夜キルヴァの計らいで、ステラと二度目の遭遇を果たした翌日である。

「セグラン、いるか」

 言って無造作に天幕に入ってきたのはダリー・スエンディーとミシカ・オブライエンだった。

 セグランは二人の次軍師補佐官といくつかの懸案事項を検討していたのだが、二人の姿を見て一時中断した。

「続きは午後にしましょう。食事が済んだらまた私の許へ来てください」

「はい。では失礼いたします」

 補佐官二人が退出する。

 セグランはダリーとミシカに適当に腰かけるように言い、秘蔵の果実酒を用意して杯に注ぎ、勧めた。

「なんです、二人で珍しい」

「王子に追い出されたんだ。若い奴らだけを集めてなにか企んでいるみたいでな、俺とミシカは邪魔なんだと。な?」

「人聞きの悪い。今日は特に出かける用事もないから少し休息してくればいいと、王子は我々に気を使ってくださったんだ。おかしな勘繰りをするものじゃない」

「俺とおまえだけ暇を出されたんだ、なにかあるだろう」

「私とおまえだけ暇を出されたのは、懐かしき知己との再会のひとときをわざわざ設けてくれたんじゃないか。それぐらい察しろ」

「あれ、そうだったのか」

「……もういい。おまえ、いなくともかまわんから帰れ」

「まあそりゃあ俺はお邪魔だろうが、少しくらいの邪魔はかえって燃えるだろうから邪魔させてくれ。いいところでの邪魔はしないから邪魔と思わず、ひとつ頼む」

「わけがわからんこと言うな!」

 セグランは二人の進歩のない掛け合いに苦笑した。

「二人とも相変わらずですね。私の知っている友のままだ――変わらずにいてくれて、嬉しいよ」

「十年やそこらじゃ人間なんてそうそう簡単には変わらんよ。おまえだって変っちゃいない。まあ、この顔ぶれでの酒は久し振りだ。乾杯といこうや」

 三人は杯を掲げた。

「無事に再会できたことに」

 そして一気に呷る。

「――うまい! こりゃ極上の代物だ」

「あと一杯だけ差し上げます。酔っ払って任務に支障が出ては困りますからね、あと一杯だけです」

「このぐらいで酔うかよ」

「だめです。あなた方は底なしに飲むでしょう。憶えていますよ。アーゲルとあなた方二人の三人で酒問屋に押し入って店の酒すべてを買い占めて酒盛りをしたでしょう。それを一晩で飲みきって武勇伝になったこと――まあ、昔の話ですけど」

 セグランは、いまは亡き友の名を口走ったことに遅ればせながら気がついて、すぐに口を噤んだ。話題を変えることにする。

「王子は、とてもいい青年になりましたね」

「どう思った?」

 お代わりを要求するダリーに二杯目の果実酒を注ぎながら、セグランは少し考えて言った。

「……見た目の繊細さにそぐわぬ大胆さがありますね。作戦の組み立てや人員の振り分け、戦闘配置、兵士の掌握、指揮の采配、流れの読み方、戦い方――まったく申し分ない。我々の助言があったにせよ、判断、決断、英断、行動、どれも迷いなく速かった。そしてひとの助言を素直に聞き入れる度量がある。また、助力を自ら請うことができる。これは優れた資質です。高い地位にある者はなかなかできません」

「そうだ。まっすぐで、素直で、澱みがない。真面目だが堅苦しくなく、回り道も寄り道もできる。肝っ玉が太いから多少のことでは揺るがない」

 あとを引き取ってミシカが続ける。

「人を信用するから、信用され、頼るから、頼られる。訊くから、答えを得られ、求めるから、求められる。優しさには優しさを、厳しさには厳しさを、規律を順守し、法規を正す。だめなものはだめで、いいものはいいとはっきり言い、過ちに私情を挟まない」

「で、給料をきちんと支払う、と」

 真面目くさって、ミシカは頷く。

「重要だな。人は情と同じくらい、金でも動く」

 セグランは違いないですね、と相槌を打ちながら、二人に改まって頭を下げた。

「……王子は苦難の十年を過ごしたようですね。でもあなた方がいたから乗り越えてこられたのでしょう。礼を言います。長きにわたり、王子を護ってくださり、ありがとうございました」

「おまえがいない間、おまえの代わりに王子は俺たちが守ると言った。約束は果たしたぞ」

「十二分に」

「これから先は、私たちは好きで王子にお仕えする。強制されたわけでも義務でもない。だから、セグランに止める権利はないからな」

「頼みます」

 セグランは険しい面持ちで、即座に言った。脳裏に、まだ王子にも誰にも告げていない、ある光景が過っていた。

「……王子はこれから先も大変なめに遭うでしょう。行く道は急勾配の狭い困難な道で、孤独との戦いが待ち受けているはずです。どうかお願いします。私と一緒に王子を支えてください」

 無言で、三人は二度目の杯を交わした。

 その直後だった。

 急に外が騒然となった。


 セグランとダリーとミシカは旧友です。もうひとり、名前だけアーゲルとでてきましたが、まあ、おいおいに。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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