表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天人伝承  作者: 安芸
第四章 苦しみを見出すということ
30/82

真夜中の密会

 次話に続きます。一度にまとめるには長かったので、二分割です。

 ほどなく、頭上で大きな羽ばたきが聞こえた。

 月光が遮られ、不穏な影に覆われる。瞬間、キルヴァは囲われた。セグランと、彼のあとからひょっこりついて来たジェミスを除いたダリーら六名が所定の位置に守護に就く。それぞれ武器を備えて殺気を放っている。

 ゆっくりと降りてきて、白い十二翼を広げたまま少し離れたところにふわりと浮く。片一方の手を腰にあて、もう一方の手では長い髪を掻きあげて、ステラは憮然として言った。

「……なぜ私は敵視されねばならんのだ」

「すまぬ。まだ皆、そなたのことを信用していないのだ」

「私はおまえ以外になんと思われようと構わん。で、なんの用だ」

「私は構うのだ。そなたには皆とも仲良くしてほしい。皆、私の大事な輩だ。きちんと紹介したくて、だからこんな夜分だが呼んだのだ」

「仲良く、だと? なぜだ」

「私はどちらも大事だからだ」

 ステラは面白そうにくすっと笑った。闇の中でもその微笑はたとえようもないほど美しい。

「おまえは私が大事なのか。なぜだ」

「なぜって……」

 改めて訊かれるとキルヴァは答えに窮した。確かな答えが見当たらない。だが。

「……そなたはずっと私の憧れだったから……」

 記憶にあるよりも遥かに美しいステラにキルヴァの胸は脈動を速めた。

 言葉を失ってしまい、黙りこんだとき、横からセグランの声がした。

「王子、天人語では皆にわかりませんよ。紹介するのでしょう?」

 キルヴァははっとした。迂闊にも見惚れてしまっていた。

 気恥ずかしさにややしどろもどろになりながら、キルヴァは皆の武装を解かせ、向き合って言った。

「紹介しよう。火の天人ラーク・シャーサのステラだ。さっきは私の秘密の友人と言ったが、本当のところはまだ友人ではない……だが大切なひとだ。私の……いや、よそう。とにかく、今後ステラに警戒の必要はない。すぐには無理だろうが、ゆっくりでいい、どうか皆にも信用してほしいのだ……」

 だが、次々に上がったのは反発の声だった。

「……信用? 天人を? まさか本気ですか」

 クレイがびっくりしたように大袈裟に手をひろげる。

「大切なひとだなどと、お戯れを。あまり軽々しくそんなことをおっしゃいますな。余計な誤解を招きます。我々の前とはいえ、迂闊な物言いは控えた方がよろしいのでは」

 厳しい口調で窘めたのはミシカで、視線はさりげなく新参者で素性の知れぬジェミス・ウィルゴーに向けられている。

 キルヴァを遮るように、エディニィがちょっと押しの強い調子で口をひらいた。

「いったいどうして、王子が天人とお知り合いなのですか? いつどこで会ったのです? どういった関係なのです?王子の――王子のなんなのです」

「まあ落ち着け」

 興奮するエディニィをおさえるしぐさをして、ダリーがキルヴァとステラを見比べる。

「あー。確かに。この前の戦場でいっぺんお目にかかった顔だなぁ。あのときは命拾いした。なあ、皆そうだろう」

 話の矛先を振られて、カズスが相槌を打つ。

「ああ、うん、そうだ。火のつぶてが頭の上から飛んできて――もうだめだと思ったな」

 不承不承といった面持ちで、アズガルも頷く。

 ダリーはおもむろにステラに向き直り、頭を垂れ、両手を胸において、そのまま掌を下にしたまま肘を伸ばし、脇へゆっくりと下ろし、左足を浅く引いてお辞儀した。

「遅くなったが、礼を申し上げる」

 義を重んじるダリーの振る舞いに、はじめぐずっていた他の者も折れて、次々に彼に倣って頭を下げてゆく。

 キルヴァはほっとした心地でこの旨をステラに通訳した。

 だが、返答は素っ気ないものだった。

「あれは、おまえを助けたのだ」

「しかし皆も助かったのは事実だ。素直に彼らの感謝を受け取って欲しい」

 ステラ曰く、

「ひとは、妙な生き物だな」

 キルヴァは、むっとして返す。

「天人は、へそ曲がりなものの見方をするのだな」

 二つの視線がぶつかり合う。

 と、不意にステラが大口を開けて、大声で高く笑った。

「ははははは! この私に意見するとは、なんとも豪胆に育ったものよ! 気にいった、その強気な気性は気に入ったぞ、キルヴァ。どのみちおまえに仕える身だが、どうせ傍にいるならば気が合うに越したことはない。よかろう、おまえの輩だと言ったな。紹介してもらおうか」

 ステラは空中で身を丸めた。片足は無造作に前に投げ出し、もう一方の足は抱え込み、膝頭に顎を乗せて斜めにキルヴァを見上げている。

 とても人の話を真面目に聞く姿勢ではないが、天人の礼儀作法はひとのそれとはまた異なるのだろう、と正すことをキルヴァはこの場は諦めることにした。

 薄い笑みを浮かべながら、ステラが左の手を伸ばし、カズスの持つ青角灯に向かい、軽く手首を捻る。すると中の炎が揺らめいて火力を増した。

「さあこれで顔が見える。いつでもはじめていいぞ」


 続きをすぐにあげますので、ぜひ連続してどうぞ。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ