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天人伝承  作者: 安芸
第三章 誰もがひとりでは生きられないということ
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ノーヴァ戦争・八

 次話より、新しい章の開始です。

 十二翼天はひとつ目配せをして、上空の六翼天のもとへいった。

「退け」

「なぜだ。一族を裏切るのか」

「彼の者に敵対する者は許さぬ。それだけさ」

「一族を敵に回すというのか」

「彼の者のためならばそれも仕方ない」

「考え直せ」

「断る。おまえこそ、身の程を知れ。私の相手になると思うのか」

 六翼天は苦痛と悲しみに顔を歪め、十二翼天に言った。

「おまえは俺の親友だと思っていたのに」

「親友だ。だが彼の者は私の命の恩人だ。知っているだろう。掟に則り、私は彼の者に就く」

「このままでは済まされないぞ。おまえは一族の次期長候補だ。勝手が許される身ではない」

「知ったことか。私は彼の者のために十二翼となったんだ。他の都合など私のかまうところじゃない。もしどうしても私を阻止したいのであれば命懸けで来いと長に伝えてくれ」

「行くな、ステラ」

「さらば、エライオン」

 物哀しくも甘い微笑を最後に向けて、十二翼天ステラは身を翻した。白い翼が朝日に透けて一際白く輝く。

 颯爽と去る後ろ姿を六翼天エライオンは溜め息をついて見送った。

 黒ずんだ血溜まりと無残な最期を遂げた屍があちこちに転がる戦場に、光り輝く尊き姿で天人が降臨する。それはあまりにも現実離れした光景だった。

 キルヴァのもとに音もなく舞い降りて、白い翼を次々と閉じる。

 それから十二翼天ステラは、天人が嫌がってしないことのひとつをやってのけた。大地に足をつけたのだ。

 天より地へ。天の者より地の者へ。そういう意味合いを込めた振る舞いである。

 そして頭を垂れて跪いた。白い衣が泥にまみれる。長い髪が流れて先端が泥水に浸る。

 十年の空白の時を経ての邂逅だった。

「ようやく会えた」

 天人の言葉で、キルヴァはぽつりと言った。

「顔を上げてくれ」

 ステラは従い、ちょっとはにかんだように笑った。

「おまえがいつまでも私を呼んでくれないから勝手に来た。ああいう窮地のときにこそ、私を呼べばいいのだよ」

「まさか。そなたを呼ぶなんて私にできるはずもない」

「なぜ。私の羽をやったろう。あれはどうした。ジアから受け取っていないのか」

「羽は受け取った」

 ジアの鍛えた短刀を納めた箱は二重底になっていて、羽は秘密裏に隠されていた。短刀共々嬉しい贈り物だった。

 いまも、あの羽をみつけたときの気持ちは、忘れられない。

「……大切に持っているよ。でも、あの羽でそなたを呼ぶことができるなんて知らなかった」

「ジアだな。わざと教えなかったんだ。羽を火に炙ればどこにいようと私は来ると伝えておけとあれほど言ったのに。道理で放っておかれっぱなしだと思ったよ。おまえのこと、冷たい奴だと散々罵っていたんだが、そうか、知らなかったのか。いや、あんまり知らんふりするからな、私のことを忘れたいのか、それともなかったことにしたいのか、関わり合いになりたくないのか、どれかだろうと思っていたんだ。それならば呼ばれるまで出ていってなどやるものかと臍を曲げていたんだが――あーあ、十年損したな」

「うん」

「まあその分、これから共にいればよいか」

「私の傍にいてくれるのか」

「おまえがそれを望むなら」

「いて欲しい。ずっと会いたかった。忘れたことなど一度もない。いつか会えると信じて待っていたのだ」

「いまがそのときだ」

 ステラは真顔で告げた。

「私はおまえに命を救われた。これからおまえが天寿を全うするそのときまで私はおまえの傍にいよう。おまえの声を聞き、おまえのために働き、おまえゆえに心を尽くそう。私の名はステラ。おまえによって新たなる名を授けられし者。火を司り、火を糧とする者。いまここにおまえのものとなることを誓う」

 キルヴァは頷いて、そっとステラの手を押し戴いた。

「私の名はキルヴァ・ダルトワ・イシュリー。その誓い、申し受ける」

 

 リアストン暦九百九十三年、トゥーラの月、第一日目、イシュリー国第五領地スザン国国境ノーヴァ付近で起こったこの小規模の戦いは、後にノーヴァ戦争と呼ばれ、第二次天人戦争の引き金になった一戦として史実に残ることになる。




 ノーヴァ戦争、終了です。

 はーあ、やれやれ。どうにか第一戦の方がつきました。

 ま、前哨戦というところですね。

 とにかく、ステラのセリフや描写に気を遣いました。おかげでかっこいい、名セリフ連発です。キルヴァを完全にくっているくらいです。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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