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天人伝承  作者: 安芸
第三章 誰もがひとりでは生きられないということ
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ノーヴァ戦争・四

 だらだらと書いているわけではありません、ええ、決して。

 天人は情景描写が結構多いので、ちょっと短めに掲載しています。

 キルヴァを中心に守りを固め、七名は一糸乱れなく戦闘の最中に分け入った。腰に下げた青角灯の鈍い小さな明かりのみを頼りに、かかってきた敵兵を行儀よく片づけていく。

 だが、「派手にいこう」というキルヴァの指示のもと、六名に異存はなかった。

「退け、退け――!」

 ダリーは問答無用で斬りかかってくる白刃を一閃し、馬上から強烈な蹴りを繰り出して前にいた兵士二人を斃し、道をあけると、声高に名乗りを上げた。

「我が名はイシュリー国第四領地領主直属近衛兵長ダリー・スエンディー! “戦場の黄姫”とは俺のことだ。名を上げたい奴はかかってこい」

「同じくイシュリー国第四領地領主直属近衛兵副長ミシカ・オブライエン! “不屈不抜のミシカ”とは私のことだ。かかってくるなら女と思って甘く見るな」

「同じくイシュリー国第四領地領主直属近衛兵エディニィ・ローパス! “隠し武器使い”もしくは“鉤裂きのエディニィ”とは私よ!さあ、美人に葬られたい男はだあれ?」

「えー、同じくイシュリー国第四領地領主直属近衛兵クレイ・シュナルツァー! あんまり嬉しくないですけどねぇ、恰好よくないんですよねぇ、“百変化の影法師”とは私のことです。手加減は得意じゃないので心置きなく死にたい方のみかかってきてください」

「同じくイシュリー国第四領地領主直属近衛兵カズス・クライシス! 誰がつけたか知らないが“潰乱の疾風”は俺だ! みんなまとめてかかってきやがれ!」

「同じくイシュリー国第四領地領主直属近衛兵アズガル・フェイド。“屍を積む男”或いは“黒き死神”、“戦渦の申し子”、いずれも俺だ。来るなら来い、容赦はせん」

 闇夜に響いた声明は劇的なざわめきをあちこちにもたらした。

「オウキ、センジョウノオウキ、って、あの“戦場の黄姫”か? 嘘だろ? 奴はもう十年以上前に北の戦場で死んだって聞いたぜ」

「……ミシカ、って“難攻不落のミシカ”じゃないか? 滅法強くて誰にも落ちないって噂の」

「“黒き死神”だと? 冗談じゃない! あんな化け物の相手なんてできるわけがねぇっ」

「ちょっと待てよ、カズスってフェスタルザ――“宿命者”じゃねぇの?」

「エディニィ! 会いたかったぜ! あんた美人で強くて激しいんだってな! ぜひ俺様のお相手を願おうか!」

「“百変化の影法師”って聞いたことがあるぜ。神出鬼没、変装の名人で、隠密の達人。名うての賞金首じゃねぇか。って、まさか本物? え、顔見せろ、顔! 誰か、灯りを寄こせ!」

 谷間は新たな混乱に満ちた。

 脱兎の如く逃げる者、こそこそ避難する者、果敢に挑む者、報告に急ぐ者、手当たり次第にかかってくる者、大慌てで行く手を阻む者、それらを貪り食うように蹴散らしていく。

 力技で攻めるとみせかけて多種多様な攻撃を仕掛けるダリーに、変幻自在の剣筋で相手を翻弄するミシカ、眼潰し、喉潰し、針指輪、全身武器で戦う小技のエディニィとのらりくらり緩慢な動きに徹しながらも確実にあらゆる人体の急所を攻めるクレイ、力で捩じ伏せ、技で勝り、誰よりも素早い身のこなしのカズス、その一切の行動を音もなく実行しあとに屍の山を築くアズガル、彼らが一丸となった突撃を阻める者などいなかった。

「押し通る!」

 キルヴァが一喝する。

 悲鳴がこだまし、血飛沫が四散する。逼迫する鬨の声、重なる絶叫。弧を描く白刃、突き出される切っ先、振り下ろされる剣、受け止め、薙ぎ払われる小さな盾、乱れる馬蹄、足音、繰り返される怒号、風は血を含み、ぬかるんだ土にどうと倒れてゆく兵士たち。

 凄絶な展開だった。

 功名心を巧みに煽りたてながらの戦術は功を制した。自らの力量を見誤った兵士は熱狂的に参戦し、そして散った。

 そこへ、味方の制止の手を振り切って、アレンジー・ルドルとゲオルグ・イーゼンの二騎が破竹の勢いで現れた。ずぶ濡れであろうに、その甲冑に包まれた身体からは白い熱気の湯気が噴き上がっているのが闇の中でもうっすらと見て取れた。

 並みの胆力ではその風格に気押されて思わず平伏するところであろうが、名乗りを上げた六名は並ではなかった。ようやく骨のありそうな武人の登場にいっそう戦意を高めるくらいだった。

「灯りを持てーい!」

 ゲオルグ・ニーゼンが命じると次々に青角灯が掲げられた。

 その中に浮かび上がった不敵な面々を眺め、睥睨し、血気に逸る馬を抑えながら、中央の人物に眼を据えた。

「そちらにおわすはどなたか」

 キルヴァはすぐに切り返した。

「私から名乗るつもりはない」

「なるほど。ではこちらから。我が名はスザン国第二部隊指揮官ゲオルグ・ニーゼン」

「スザン国第一部隊指揮官アレンジー・ルドル」

「勇名は聞いております」

 キルヴァはひとつ頷き、二人に比べては静かに名乗りを上げた。

「私はイシュリー国第四領地領主並びにイシュリー国次期王位継承者キルヴァ・ダルトワ・イシュリー」

「王子殿か!」

「いかにも」

「ずいぶん手練を揃えているなと思えば……なぁるほどねぇ……イシュリー国の後継ぎは噂に名高い人たらしと聞いたが、満更誇張でもなかったわけだー」

「よしよし、相手に不足なし、と。では参る!」

 やにわに、アレンジー・ルドルは攻撃に出た。前へ踏み込むと同時に無造作に構えていた幅広の剣を捩じるように突き出す。

 まっすぐにキルヴァの首を狙った一撃は、だが、前に躍り出たダリー・スエンディーの剣にて一蹴された。

 斜めに受け止めた刃を横に流すように撥ねのけて、ダリー・スエンディーはアレンジー・ルドルと相対した。

「貴殿の相手は俺だ」

「そうか。では、お相手願おうか!」

 ミシカ・オブライエンはゲオルグ・ニーゼンの前に進み出た。

「貴殿の相手はこちらだ」

「……女傑と、あと王子殿にお取り巻き方々、か。多勢に無勢、ありがたいねぇ。それだけ俺の首が高くつく、とわかっているということにしておくか」

 ひゅっ、と鋭い唸りが生じると同時に繰り出された斬撃を難なくかわして、ミシカ・オブライエンは反撃に出た。

 夜明けまで、あと三十ハイト。


 さて、見せ場。というところで、ぶつぎる私……続きはまた明日にでも。

 この地味で決して軽いとは言えない物語におつきあいくださる皆様に、感謝をこめて。ありがとうございます。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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