宣誓
誰かに命をかけて尽くされる、ということは、どういう感じなのでしょうね。
「私は軍師になります」
セグランは片膝をついてキルヴァと目線を合わせ、決然と言い切った。
「いずれあなたがこの国を統治なさるとき、私も微力ながらお手伝いをしたいのです。あなたとあなたの守るこの国を、私も守りたいのです。そのために、私は学ばなければなりません。何年も何年もかかるでしょう。ですが、次にお目にかかったときにはあなたのお役にたてるものとなり、あなたのために必要なものであるように、全力を尽くします。私のこの我儘を、お許し願えますか?」
セグランは押し黙るキルヴァの手を押し戴いた。
「……本当を申しますと、このままでは私は殺されます。お静かに。声を荒げてはなりません。どうぞそのままお聞きください。私についてはおそらくは湖の一件だとは思うのですが、他にも何人か、なにに対してかは不明ですが、憲兵に疑われて捕えられ、罰を受けたようなのです。疑わしきは始末せよ、と軍師リューゲル・ダッファリー殿から指令がおりているようで、既に処刑されたものもいると聞きます。私も今日のところは帰されましたが、私だけがこのまま無事に済むとは思えません。王子は大丈夫です。王子は他ならぬ王の御子、王が守ってくださいます。私は、まだ死にたくありません。あなたを残しては死にたくないのです。ですからいっそ、この秘密の渦中に飛び込もうかと思います」
セグランは血の気のない顔で微笑した。
「軍師殿は王命でしか動きません。なにが起きているのかはともかく、なににせよ、軍師殿が動いている以上、国家規模のなにかであることは間違いないのです。そしていずれはあなたにも関係のあることとなるでしょう。そのとき私ばかりがなにも知らない存在ではいたくないのです。いついかなるときも、あなたのお力になるためには、無知のままではいられない……たとえそれが、禍々しい、白日のもとにはさらされぬ悪逆の秘密であったとしても。あなたが負うものは私も負いたい……身の程知らずかもしれませんが、お許し願いたいのです。しばらくのお暇を、どうか。私は、リューゲル・ダッファリーのもとへ参ります」
セグランに向け、キルヴァは口を利いた。
「……私になにかできることは?」
「……余裕のあるひとに、おなりください。あなたはやがて王になられるお方。ですから目先のことにのみだけ、とらわれてはなりません。常に先を見て、常に先を読むように、常に先のことを考えるようにするのです。それには余裕が必要です。余裕のあるひとだけが、他者にも優しくできるのです。そうすれば、あなたは立派な王となられるでしょう。……もっとも、いまでもあなたはその心をお持ちです。あなたはお優しい。健やかで、明るい。どうかその心をいつまでも忘れないでください……いつの日にかまた必ず、お傍に参ります」
「誓うか?」
「誓います。しばしのお別れです――王子。いえ、私の唯一無二の王よ」
身分のあるひとの話し方、というものにいつも困ります。少しでも、それらしくあれば、よいのですが。
次話、天人登場です。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。