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16話 こんなこと出来るやつが親父以外にいるとは。

 あの日、俺の世界から色が落ちた。


 ありふれた言い方だけど、これが1番しっくりくる。


 中学時代、球技にハマった俺は色んな部活に顔を出した。

 助っ人で試合にも出ていろんな高校から推薦やら特待生として誘われた。


 2年の夏に高校を決めて迎えた3年の夏、最後の大会で俺は故障し特待生も推薦も消失した。



 その日、世界から色が落ちた。





(すんっ)


 背後に何者かの気配っ!俺の背後を取れると思━━。

(トンっ)





 ん、んんぅん。気を失ってたのか。

 しかし、ここですぐに目を開けない。まず初めに周囲の確認をする。


 目を開けないでどうやれって?耳で聞いて感じるんだ。


(コツンっコツンっ)


 誰かが歩いてる。音の反響からしてあんまり広くない。せいぜい教室の半分くらい。

 廊下で背後を取られたのを最後に記憶が無いのを考えるととりあえず校内だろう。

 体の感覚からして気を失ってたのは数分てところだな。

 部屋には3人。


 床はふかふかでエナメル質、左手に壁、右手は何も無いことから、これはソファか。


 よし、全身の細胞が覚めてきたし目を開けるか。

 準備はできてる、もう不覚は取らない。



 目を開けると電気の光が直撃して瞳孔が開く。


 そして俺が動き出すよりも早く俺の覚醒に気づく者がいた。


「おっ!もう起きるんすか、やっぱただ者じゃないっすね」


 なにがなんだか…1から10いや、今回は0から10全部わからない。

 リンゴ先輩が目の前にいて、なんで気絶させられたのか。

 そして俺が覚醒したことに目を輝かせるリンゴ先輩。


 とりあえず上体を起こしてソファに座りなおす。部屋を見渡せば他に2人…野田君っ!と知らない人。


 気を失って連れてこられた部屋にいた3人のうち2人が知ってる人って、俺を安心させるための罠か?


 とりあえず俺の目の前で腰に手を当てて胸を張ってるこの人はなにがしたいのだろうか。

 予測をし━━


(しの)っち!生徒会に入ろう!」


 うんと…(しの)っち…生徒会…。最初に確認しておかないといけない1番の問題は。


「生徒会に男が入っていいんですか?」


 これは至極当然の疑問だった。

 人間が空を飛べないように、俺が虫を嫌いなように。


 去年まで女子高生だったこの学校は今年からの試みとして5人の男子生徒を入学させた。


 つまるところこの学校には男子の居場所がないということ。それとこの学校を取り仕切る生徒会に男が入っていいものなのか、甚だ疑問である。


 簡単な話、全校生徒から嫌われる可能性があるといいますか、今まではクラス以外の人と関わりが、というかクラスの人とも関わりがほとんどない俺がいきなり全学年デビューして大丈夫なのか、大批判くらっていじめの原因になりはしないかということである。



「そこなんすよ。学校に男子を迎えたのはいいものの、男子が孤立してるのは生徒会的に見過ごせないんすよ、学校側の取り組みとしてもそれはバッドエンドなんす」


 男子を迎えた理由は、確か更なる成長を施すためとかだったような。

 今のところ薬にも毒にもなってないけど。


「なに迷ってるんすか、生徒会は女子の宝庫っすよ!」


 なにを当たり前のことを。


「すでに学校全体がそうなんですよ」

「このままだと何もしないまま学校生活終わっちゃうっすよ」


 それはそうだ。部活には入りづらいし、勉強に力を入れてるわけじゃなし、ただ過ぎてく毎日を見てるだけ。


 なんのためにこの学校に来た。理事長に誘われたから?そうだ。

 でもそれだけじゃない、この学校でなら俺は…俺の新しい何かを見つけられると思ったからこの学校に来たんだ。


 アウェイにのまれて忘れてた。俺は本来、わがままなんだ。3年間も自我を抑え込んで大人しくできるはずがない。


 やりたいことを見つける。生徒会に入っていろいろ見ていこう。


「ま、1番は(しの)っちの身体能力が目当てなんすけどねっ」


 俺がやっと覚悟を決めたと思ったら新たな情報を。


「わかりました、入りますよ。で、拙者になにをお望みで?」

「お?話が早いっすね。でもまずはテストっす。(しの)っちの身体能力の」


 誘っておきながらテストとは、全力を見せろってことかな。


「いろんな種目で対決してもらうっす」


 対決か。差別とか偏見ってわけじゃないけど女子が相手ってなるとあんまり気乗りしないな。

 成長が早く男子よりも体が出来上がってることが多い、小中学生ならともかく。

 ほぼ成長が終わる女子と違って、育ち盛りの男子とは大きく差が開いてしまうこの時期では種目によっては相手にならないこともある。


 俺の場合は小中学生の頃から競り合えるような女子とは全国でも会ってない。



「あー、期待してないって感じっすね。

 でもさっき、首トンっしたのはウチっすよ?それでも少しも期待できないっすか?」


 バレてた。それにアレをやったのはリンゴ先輩か。確かに脚はかなりしっかり筋肉がついてる。


 前は遠くからだったから華奢に見えたけど引き締まったいい体つきだ。スポーツでつけた筋肉だな。


「俊敏性だけじゃないっすよ。柔軟性だって」


 そう言うと、右足首を持って膝を曲げてから、顔のそばまで足を持ってきた。

 「ほっ、じゃじゃ〜ん」と呟きながら俺にI字バランスを自慢げに見せてきた。


 スカートの裾からチラッと見えてたスパッツが大胆に丸見えになる。それに。


 水色だ。



 そんなことよりも力が入ったことで太ももの筋肉がより際立って見えた。


 面白い。その脚力がどれほどなのか見てみたい。

 気づけば目の前の世界に色が着いていた。


 色づく世界は春の色。淡く澄んだ泡沫の水色。



 これが俺の高校生活を彩る最初の祭り。

 この時、リンゴ先輩との出会いから俺の高校生活が一変する。


 挑戦の先には未知があり、停滞の先には既知がある。


 世界が灰色に染まったのも納得。そして色が戻ったのも納得。

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