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恋愛小説短編集

ラジオDJがリスナーの悩み相談を受けているんだが、そのリスナーの悩みって俺のことじゃない?

「はい、ヒヒイロカネの『今日の内に予習しといて』でした」


 トランジスタラジオから柔らかい口調で話すラジオDJの声が聞こえた。

 今時そんな器具を使わなくてもスマホでラジオを聴けるのだが、ラジオはそれ用の器具で聴くものだという固定観念がある俺は、父から譲り受けたその古いトランジスタラジオを使って勉強用のBGM代わりとしている。

 このFMラジオ『エアライン』のDJの声がイケボすぎて堪らない。俺が女の子だったら惚れてるね。


「では続きまして、リスナー相談室のコーナーに移りたいと思うんだけど。ちょっと待ってくださいね。手紙手紙っと」


 初見の人からしてみれば最初から用意しておけよと思うだろうが、そんな間の抜けた部分もこのDJが愛されている所以である。

 そんな愛されキャラな彼のファンである人物は多い。俺もその一人だ。


「えー、ラジオネーム、まんまる大福さん。初めましてですねー」


 大福って元々丸いだろ? なのにまんまるを付ける必要があるのだろうか?

 もしかしたら普段は多角形な大福を食べているリスナーなのかもしれない。いや、ないだろ、そんな大福。


「私は学生をしています。今回はジェンさんに相談をしたくて手紙を書きました。あっ、ジェンっていうのは僕のことね? 初見さんもいるかもしれないですしね。では話を戻しますよー。相談というのは、私の通う学校のクラスメイトの男子のことです。彼は私がどうしても外せない用事がある時に掃除当番を代わってくれたり、日直で黒板消しをしなくてはいけないときに届かないところを代わりに消してくれたり、風邪を引いた時にフルーツの詰め合わせを持ってお見舞いに来てくれたりします。仕舞には林檎の皮を剝いて、切り分けてくれます。これって彼は一体どういう心理で行動しているのでしょうか? はい、続きはまだあるけどキリがいいので一旦中断しますよ」


 なんだこの話。ただの良い話じゃないか。

 私って書くくらいだからこのラジオリスナーは女子だろうか? ただ、男子でも私という一人称を使う人もいるから断定はできないが。

 しかし偶然の一致というものはあるようだ。俺もとあるクラスメイトの女子に同じようなことをしていた記憶がある。というか全部やってるな、この内容。


「うーん。これは何だろうね? 絶対とは言えないけど、その男子はまんまる大福さんに好意があるんじゃないかな? これはラブかライクかは分からないけどね」


 そりゃそうだ。何とも思ってない相手に何でもできるほど出来た人間が早々居るわけがない。

 そういった行動に移せる人間というのは見返りを求めているか、はたまたすでに見返りを得ているか、何かしらの理由により報酬を自己完結で得ている者に違いない。


「これは恋愛相談かな? 通話なら簡単に確認できたんだけど、今回は手紙方式ですからね。仕方がないということで。では憶測で話を勧めますよ。その男子はずばり、まんまる大福さんのことが好きです。形はどうであれね。でなければお見舞いに行って林檎を切ってあげるなんてことはしないんじゃないかな? だからね、その男子との関係は大事にした方がいいですよ。そうすればいい青春を送れると思いますよ」


 そのリスナーと男子は既にアオハルしているんだよなあ。

 でも羨ましくなんてないんだからね! 俺だって沙耶(さや)とそれなりに良好な関係を築けているし!

 ……俺は見ず知らずのリスナー相手に何を張り合っているんだろうか。


「えー。手紙には続きがありましてね。――これ読んじゃっても良いのかな? まあいいでしょう。では読みますね。この間、その男子とショッピングに行きました。ウィンドショッピングをしていたのですが、とても楽しかったです。彼は『この服、お前に似合うんじゃないか?』と言ってましたが、その服は可愛らしすぎて、恥ずかしくてとてもじゃないけど着れませんでした。試着だけでも、と頼まれたので試着はしました。その時の彼の表情が今でも忘れられません。んー、流れが変わってきましたね。もしかしてまんまる大福さんもまんざらでもないのかな?」


 その言葉を聞いた俺は思わずシャープペンシルを落としてしまった。

 なんか既視感がある。確か俺も沙耶にワンピースを試着してくれと土下座でもしそうな勢いで懇願していたはずだ。

 いや、そんなはずはない。まんまる大福さんがあの沙耶と同一人物だなんて――


「まだ続きがありますよ、読みますね。えー、そのあとゲームコーナーに立ち寄ったのですが、UFOキャッチャーの筐体の中に私の大好きな『わんころ』の人形が展示されていました。彼は私がわんころを好きなことを知っています。そして私がUFOキャッチャーが下手なことも知っています。誰が言いだしたというわけではありませんが、彼はその人形を獲得すべく、意気揚々としてコイン投入口にお金を入れました。結果は運よくタグ? という場所にクレーンのアームが引っかかって人形を獲得出来ました。彼はそのわんころの人形を彼は私にくれました。初めて彼から貰ったプレゼントです。それは大事な宝物になりました。おーっと、これはこれは……」


 心臓の鼓動が早くなる。

 おい、数式の接点F´どこ行った。円との接点が円錐からはみでてるじゃねーか、これ。

 どう考えてもその男子って俺のことじゃん。ってことは、このまんまる大福さんは沙耶ということになる。

 俺は落としたシャーペンをそのままに、スマホを手に取り急いで沙耶にRIME通話をする。

 コール音はそこまで長くは鳴らずに、彼女は通話に出た。


「はい、もしもし。ショウだよね? どうしたの?」

「どうしたの? じゃねーよ。今『エアライン』を聴いているんだが――」


 その俺の言葉を最後に、突如として通話は切られた。

 おい、それ逆効果だからな。まんまる大福さんイコール沙耶ってことが確定するんだぞ、そんな短絡的な行動をしたら。

 かといってすぐ掛けなおしても通話には出ないだろう。仕方がないのでメッセージを送ることにした


ショウ:茶化すわけじゃない、真面目な話がしたい。


 数分後、既読がついたかと思えば直ぐに沙耶が通話をしてきた。

 敢えてすぐさま通話を開始しないなんて駆け引きしている場合じゃねえ! 俺はコール音が鳴るのと同時に通話ボタンをタップした。


「もしもし。ショウ、どこから聴いていたの? それと、いつから気づいていたの?」

「ラジオを聴いていたのは最初から。まんまる大福さんが沙耶なんじゃないかって思い始めたのは試着の話らへんから」


 内心心臓がバクバクしている。

 これ、どうなるの? 終着点はどこになるんだ、この話。


「私はね、その()()()()()の気持ちを少しでも知りたくてジェンさんに相談したの。友達相手に相談だとほら、なんか変な方向に進んだら大変じゃない?」

「あー、分かるわ、それ」

「でさ、その『とある男子』さんの気持ち、今なら確実に知ることが出来ると思うんだよね」


 ですよね。だってその男子って俺のことだろうし。


「……茶化さないよね? 私、ショウが嘘つかないって信じてる」


 そこまで言われて引くことが出来るやつが居るのだろうか。


「正直通話で話すような内容じゃなくないか? ――いや、言い方が悪かったわ。明日会ったときに告白する。気持ちを全部ぶちまけるから覚悟しとけよ」

「――うん、約束だよ」


 沙耶の声は震えていた。それがどういった感情で引き起こされたのか、彼女ではない俺では断言できない。


「――まあ、そんな感じですね。まんまる大福さん、その男子と少しでも仲良くなるといいですね。ってところでお時間となりました。またお会いしましょう。またねー」


 ジェンさんの相談室まだやってたんかい。

 おかげで仲が進展しそうではあるが、素直に喜べない自分がいる。

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