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生きる資格試験

作者: 雉白書屋

「うへぇあ~おめぇーにはぁ生きてる資格はねぇ! って言われちっあたよぉ~!」


 ある夜の町。とある酔っ払いがそう言った。誰も聞いていない、ただの泣き言。


「僕には生きる資格はないんだ……」


 これはある中学生の少年の嘆き。

それもまた自分の部屋の空気に溶けて誰の耳にも届かない。


「お前みたいなクズに生きる資格はねーんだよ」


 これはある男が吐き捨てた言葉。それを聴くのは見下ろされ、うずくまる者。


 

 生きる資格とは。

 いつの時代も、ふと誰かが考えることだ。

自分にはあるのか、あんなやつにはあるのか。

 だが、そもそもそんなもの存在するのだろうか。

人間は誰もが産まれ、生き、そして死ぬ。

無能だろうが有能だろうが悪人だろうが善人だろうが、皆、生きる資格はある……



 か! どうかは今の時代、試験によって決められる!


 地球の人口が百五十億を軽々と超え、尚も増え続ける今!

犯罪、貧困、食料、エネルギー、問題は山積みである!

 それを解決すべく、政府は『生きる資格試験』を実施することにした!

対象は十七歳以上! 不可を出された者は死!

大人しく受け入れること! それこそが責務! 美しい生き様!



 ……と、いった決まり文句を幼い頃から聞かされていた僕ら世代は

この制度に然程、抵抗感はない。尤も抗議しても無駄

処分対象になるだけと理解している。だから、ただただ自分を磨き

そして社会に、人のためになる人間になろうと努力を重ねてきた。

勉強、スポーツ、交友関係、ボランティア。人に優しく、思いやりの心を。

 たとえ、その根底にあるのが死への恐れ、それが透けて見えても

指摘するのは無粋というもの。みんなそうなのだ。

合格を貰う。大事なのはただそれだけだ。

 でも、みんながみんな、優れた人間になろうと努力すれば

どんぐりの背比べ。優劣付けがたし。

結局は生まれ持った顔の良し悪しで判断されるのでは……と、そんなことはない。

 試験会場に向かうこの道を歩いている間にも

他の受験者の姿がちらほら見受けられる。

 でもその頭、つまり髪型。時代遅れの赤いモヒカン。あれは不良だ。

そう、こんな世の中になっても不思議な事に彼らはどこの町や学校にも一定数存在する。

 生まれつきや家庭、知人友人、周囲の環境など悪い影響を受け

ああいった堕ちた人間になるのだろう。どこか自暴自棄になっているんだ。

今の社会に、競争についてこられなくて。何か見えない大きなものに反抗した気になって

気持ちよくなっているマスタベーション野郎。

 普段、僕のような真面目に頑張る人からすれば

ああいう連中が自棄になって起こす騒ぎや犯罪に巻き込まれないよう

警戒、恐れ、祈るところだけど今はむしろ喜ばしい。

 不合格の枠を埋めてくれてありがとう。

 墓穴の中で肥やしになってくれてありがとう。

 なむなむ、と手を合わせたくなるものだ。

 まあ、ここまで来れたという事は彼もそう大っぴらに

犯罪をやらかしてはいなかったのだろうけど。

上手い事、バレずにやってきたのだ。そういう知恵だけはよく回る連中だ。

 絞首台の縄も昔と比べて随分と大きくなった。

今じゃ五人纏めて一つの縄で首吊り、死刑。

なんて言うのは嘘だけど、でも凶悪犯罪は即刻死刑となった。残りは重労働。

 生きる資格試験が実施され、しばらく経った世の中でも

そう多くないとはいえ犯罪者がいるのはなんだか不思議だ。

 まあ、人さえいれば事故や争いは起きるものだから

当然と言えばそうかもしれないけど。


 っと、もう試験会場だ。コンクリート造りの重々しい建物。

その影の中へ足を踏み入れる前に深呼吸。

気持ちを切り替え、油断禁物。さあ、戦いの始まりだ……。



 と、思っていたけど拍子抜けだ。どうやら僕は相当できるほうらしい。

 学力テストに体力テスト。問題なし。芸術の分野もまあ、そこそこだけど

これに関しては余程突出していないと点にはならないらしいからあまり関係ない。

 合否の結果発表は試験当日の会場で行われる。

だって不合格通知を郵送なんてしたら、ははははっ、逃げちゃうでしょう?

どうせ自分は不合格なんだ! ってそれこそ自棄を起こす奴もいるだろうし。

 まあ、僕は合格だろうけどさ。なんて、ははははははっ。

僕はまた独り、脳内で会話している。

緊張しているらしい。喉が痛い。脇汗が気持ち悪い。

っと、顔に出ないようにしなきゃ。

立って発表を待つ今も試験官様に見られているかもしれない。

 あ、あはははは……足が震えてきた……。

落ち着け……落ち着け……ふふふ、そうだ。

不良どもの数でも数えて気を落ち着かせよう。

 えっーと、そこに不良が、いーち。

 不合格者確定が、にぃーい。

 人間の屑が、さーん。

 廃棄処分が、よーん。

 えっと社会のゴミが、ごぉーと。

 チンパンジー以下の脳みそが――



「それではこれより、合格者を発表するぅ! 

全員、顔を上げ、電光掲示板を見るがいい!」


 そう声を張り上げた試験官様。僕の番号は六番。

探すのが楽でいい。えっと左上から――


「う、うわああああああああ!」


 はははっ、泣き崩れる不合格者が、いーち、と。


「い、いやだあああああ!」


 はい、腐った豆が、にぃーい。


「は、はなしてええええええ!」


 害虫以下が、さーん。


「や、やらせてあげるから、あは、あははははは!」


 子孫残す価値なしの玉無しが、よぉーんっと。

あ、今の声は、はははっ、女だったか。まあ、関係ないね。


「お、おええええええ!」


 吐いたゲロと同様、掃除されるのが、ごぉーお。




「……え……嘘。え、は?」


 六。六、六、六、六ろくろくろくろくろく? ろろろろろく?

 ない、ないない、いやいや、え? 手応えはあった。ぼらんてぃあだって、え?

面接だって完璧にににににに。ろくろくろくろくろくろくろくろくくくくくろくろろろろろろろ。



「ほら、手を焼かすな。立て、くるんだ」


「あああっひあああひいいろくろくろくなんですぼくはろくろくろ

なにかのまちちまちがいなんです!」


「はぁ。電気を食らいたいか? ほら立て」


「え、ええ、ええたちますともあはははは、みて

ぼっきしてますぼく! しぬからです! たたたたねをのこしたいんです!

ああ、あるきます、あるきます、おこらにぁいで……

え、ちょっ、ちょっと待ってください。あああそこの不良野郎!

あいつ! あれが合格ですか!? なんで! あ、待って!

なんなんですこの通路! 怖い暗い怖い!

いやだ、いやだ! ほら、やらせてあげますから、ね?

しゃぶりますからえへへへへへへへ、ぼくね、じょうずなんですよ。

じぶんのをね、ときどき、しゃぶってるんで、はい。

ひあ、いやだいやだいやだ、なんであいつは! ねえ、なんで!

おおおおおおしえてくれたら、ははははは! じぶんでほら、あるきますから!

いっちに! いっちに! ね!」


「……はぁ。極秘も極秘なんだが、まあ、処分だからいいか。

そうだな、バリエーションだな」


「ばりえーしょん?」


「お前みたいな優等生タイプは多すぎるんだ。

社会はな、色々な人間がいたほうが結局、バランスが取れるんだな。

と、まぁ考えてもみろ。頭と顔が良く、力もある奴だらけになった世の中を。

政府のお偉いさんたちを引きずり落とそうって結託するかもしれないだろう?

何せ、今のお偉いさんは能力より、家柄で、っと今のは喋り過ぎたな……」


「あひゃ、あはははははあ!」


「ま、問題ないか。壊れちまってる。しかしまあ、今のお前さんみたいな奴だったら

もしかしたら枠は空いていたかもしれなかったのになぁ……」

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