幕間「温かかった」
嬉しかった。
ご主人さまが私を連れて、変な村を出てくれたのが。
本当は、ご主人さまが私と離れようって思ってたのを知ってた。
嫌だった。寂しかった。苦しかった。怖かった。気持ち悪かった。
でも……ご主人さまは私を連れて出てくれた。
それが嬉しい。
村を出て、町に行くのは遠いからってご主人さまが火を起こしてくれたから、近くに座る。
ご主人さまがかっこいい声で寝て良いって言ったから、耳でご主人さまに触る。
外だけど温かくて、心地よくて、頭をこすりつけてしまっていた。
ご主人さま、迷惑、かな。
「……ん」
「メアー、近づきすぎだ」
「もっと、居たい。ダメ?」
いつもみたいにご主人さまの肩に頭を乗せると、そう言われる。
でも、もっとご主人さまと一緒に居たいって思って見上げると、ご主人さまはすごく困ったみたいに息を吐いて頭に手を置かれる。
そのままご主人さまが火をいじり始めた。
ん、許してくれた。
村に居た人たちと違う、私のやりたいことを優先してくれる、優しいご主人さま。
ご主人さまを動かなくしようとしてた人はご主人さまに"ころすな"って言われたからなにもしなかったけど、ご主人さまがそれでいいなら、私はどうでもいい。
でも、このままだとご主人さまが眠れないって思って、ご主人さまの服を引っ張る。
「ご主人、さま」
「なんだ」
「寝ない、の?」
「……火の番と警戒がある」
「土で、覆う、よ?」
「そうしたいのか?」
「ご主人さまが、やすみたい、なら」
「……火があるから、煙突みたいに出来るか?」
「できる、よ」
「なら、頼む」
「ん……『覆って』」
胸の上で手を握ってから、片手で地面に触って魔力を溶かしこんでいく。
グネグネと動かして、ご主人さまの命令通り、上をふさがないように、固める、壁をイメージするけど、えんとつって言うのが難しかった。
なかなか出来なくて、困ってると、上を見てたご主人さまが私を見てくれる。
「……難しいか?」
「ん……」
「そうか。出来るだけでいい」
「分かった」
出来るだけ……だから、頑張ってご主人さまのためにえんとつみたいな形を作ってみる。
息が吸えるように穴をあけて、けむりが出ていくように火の上を伸ばす。
……ご主人さまと一緒に住んでる家を作ればいいのかな。
あの家も、えんとつがあって、囲まれてたから、あれを作ればいいのかも。
なんとか命令通りに固めて、ご主人さまが確認するみたいに壁を見てくれた。
「……無理を言ったな」
「うん」
時間はかかっちゃったけど、ご主人さまはそういって褒めてくれた。
うれしくて、温かくて、もう一度座ってご主人さまの膝の上に潜り込む。
嫌そうだったけど、すぐに頭に手を置いてくれた。
ご主人さまも安心したみたいで、すぐに穏やかな吐息が降ってきた。
ああ、やっぱり、私は……。
少しだけ、前より優しくなったご主人さまに寄り添って、目を閉じた。




