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幕間「繋がりと幕間」


 この幕間は他作品へのリンク幕間となります。


 本編とは関係が無いことも多く、他作品と歴史的な繋がりを明確にするための幕間です。なので、ここ気になる! が見つかったらぜひ別作品もご覧ください。

 投稿された関連作品は 後書き に随時追加予定です。


 広く、城内の移動だけでも馬車が用意されてるほどの王城の内部。

 王国を通して得られたガラスをふんだんに使った照明が照らす廊下を、護衛を連れた身なりの良い人間が二人、歩いていた。

 片方は青と白を基調に、金糸でエーデルワイスが刺繍されたマントを羽織った人間――コアコセリフ国の王、ユリウス・ド・コアコセリフ。

 もう片方は上等なローブを着込み、性別すらも判断できないが、ユリウスは信頼を寄せているのか、兵士たちの内側にローブの人物を近寄らせ、粛々と廊下を歩いていく。

 やがて、護衛以外の人間が居なくなった廊下で、目的の部屋についたのであろう、二人が立ち止まり護衛が扉を開けると、二人は礼もそこそこに扉の中へと歩を進める。

 その部屋は、上級貴族がフレミアの件の後処理に追われる中でも特別静かな国王のための執務室だった。

 商人ギルドを介して大量に仕入れた人外種産のろうそくに火がともされ、暗い部屋に暖かな光が差し込んでいる。

 コアコ式の白レンガ造りの磨かれた床には、踏み心地を整えるための装飾が施されたふかふかの絨毯が敷かれていたが、生憎この暗さでは美しい色合いを見ることもできなかった。

 本来であれば数人で仕事を回すその部屋だったが、今日は人が来ないように計らっている。

 寂しく感じながらも、部屋の中央にあるたんまりと書類の山が築かれたテーブルを回り、ユリウスはどっかりと椅子に座った。

 近年、念願であった第一王子にも恵まれ、国内の騒動に気をもまれている彼は、詰まれた書類を忌々しそうににらみつけ、扉を守る兵士たちやお茶を淹れる侍女たちに目配せをする。

 頭を垂れ、薄暗い部屋の中でローブを着た人物以外が音もたてずに集合し、部屋の外へ移動していく。

 ローブの人物がその様子を苦笑交じりに見届け、従者全員が退出したドアが閉められ、一息ついた国王陛下に声をかけた。


「やっと一息って感じだな、国王陛下様?」


 ハスキーボイスの声はローブから発せられた。

 一国の王のまで尊大すぎる態度だったが、ユリウスは慣れた様子で、小さくため息をつきながらまったくとつぶやいた。


「皮肉るでない。問題はまだまだ残っている。宰相であるおぬしが最も分かっておるだろう」


 ユリウスは呆れながらそう答えると、クックッとローブを着た人物が腰に手を当てて笑いを漏らす。

 "宰相"と呼ばれた人物は、まるで、まだまだ重い荷物はたくさんあるとでも言いたげな態度のユリウスに宰相はニヤニヤと口元を歪ませる。

 うんざりと言った様子でユリウスは頭を抱え、聞き耳を立てていないことを確認した宰相がローブを深くかぶり直し、テーブルに近づくと何枚か書類を手に取って眺め始める。


「だから俺も暇じゃないのですよ、陛下? まあ、おかげでフレミアの件は片付いたけど、問題はまだまだ陛下の執務机と一緒ってね」

「暗に仕事をしろと説教をするでないわ……。分かっておるが、亜人の周知に奴隷の誤解解決、国内の治世に政治……やることは終わらぬよ」

「だから、俺が居るんですよ、陛下。これは捨てておいていいな」


 書類の山の中から緊急ではない案件を見つけ、後回しの分類付けをものすごい速さでこなす"宰相"にユリウスは舌を巻きながらも、口の悪さはどうにかならないのかと思案する。

 すぐに長年の付き合いで無理だと諦め、自分も減らない仕事に取り掛かることにした。

 幾分もしないうちに「これもか」と宰相が口を開く。


「これも亜人法案。あっちも亜人法案。それに各地の調査報告書に法案議会への提出物。根回ししたとはいえ、亜人政策にご執心な事だな」

「そういう約束じゃからな、な。儂を信頼し、儂を置いて行った薄情者たちとの、な。国が適度に栄え、国交も広がるとなれば、やらぬ理由などないであろう」

「ははっ、此度の陛下は国民想いなことで。……それは良いけど、今回の事件。……なんだ"亜人攫いを名乗る亜人反対派のあぶり出し"だったっけ。大きくなりすぎだな。もっと抑えは利かなかったのか?」

「……儂に言うな。おぬしが顔を出さぬのが悪い。隠れたがるおぬしのせいで貴重な人材を一人取り逃したわ」

「あ? おいおい、無茶を言うなって。俺が"宰相"として表に顔を出せないの理由は陛下が一番ご存じでは?」

「ああ言えばこう言う……。そんなんじゃから、部下に逃げられるんじゃぞ?」

「逃げられても、あいつらはどこかでこの国を憂うだけ。俺を恨むだけなら、問題ないさ。それよりも、こっちで処理した件、あのリヴェリクっていう人間とメアーっていうラプールは本当にこのまま無罪放免ってことでいいんだよな?」


 リヴェリクが巻き込まれた事件を思い出し、ユリウスは重苦しい鉛を飲み込んだ気分にさせられる。

 宰相の言う通り、フレミアの件が片付いたとはいえ、国内にはまだまだ問題が多い。

 ユリウスの父である先代の王が中立を保ちすぎたがゆえに起きた対立……。亜人推進派と反対派、そしてそれを見守る中立派という派閥争い。

 リヴェリク青年やメアーのおかげで反対派のあぶり出しには成功したが、代わりに亜人攫いという悪が矢面に立たされすぎてしまった。

 だが、その件についても宰相は承諾済みであり、今回の事件を解決する手筈を整えたのは自分だったはずだ、とユリウスは宰相を訝しむ。

 わざわざ意味の無い問いを投げかける親友の心中を図れず思うままに返す。


「良い。おぬしもそれに賛同したであろうに」

「保護をしなくていいのかって話だよ。あの男を利用しようとする馬鹿が居るかもだろ?」

「ニヤニヤするでない。その口調だと、むしろ望んでおるわ。実際、あの件はもう儂が捕まえたと公表した事件じゃ。風化させまいと動いた瞬間、自らを亜人反対派だと公言しておるようなもの……よほどの阿呆でもなければ言い出すまいて」

「さすが陛下、分かってる。じゃあ"亜人攫い"の方はどうする? 少し人気になりすぎてるけど」

「……元々、そういう契約、討伐依頼が本格的に動くまでは動くべきではない。……事情を知らぬ推進派で排除すべきと論が上がっておるのは、もうしわけないがのう」

「陛下がそうおっしゃるのなら。もう少し気にした方が良いとは思うけどな」

「肝に命じよう。おぬしもなこれ以上彼らを表沙汰にさせることはないよう配慮をしてやりなさい」

「勿論です。国の平穏のために」


 そう、"国と亜人攫い"お互いのために、彼らを表舞台に立たせることはしてはならない。何とかしなければという言葉は、国王であるユリウスは飲み込まざるを得なかった。

 亜人たちの推進をする貴族たちにも、亜人攫いたちにとっても、この件は王族内で秘匿せねばならない。それがお互いのためだと、ユリウスは信じていた。

 ユリウスの言葉に、宰相もたしかにと首を縦に振る。


「まあ、亜人攫いは放置するとして……。こっちは、アフェール領近辺に居るプロムシライの信徒たちの報告書だ。死者の神を崇める不穏の噂のある団体にコアコセリフ国の元騎士の姿を散見、か。信徒たちの引き抜きっぽいかな。痛いな」

「……仕方あるまい。彼らも儂らのやり方と信念に魅了されなくなった者たちじゃ。無理に従わせればそちらの方が角が立つ。一人の国民のために動けない儂の責じゃて」

「ハッ、国王陛下の心中お察し余りあるって感じだな。けど、こちら側の騎士が一人抜け落ちた穴はどうする。師を失った隊に動揺が出る」

「ハイドか……。ギアンにも頼んで居るが、そうやすやすと人員は確保できぬ。身内の不幸だと知っている者も多い。今は時をかけ、待つしかあるまい。……人手不足じゃな。亜人騎士を動かせないのも痛い」

「亜人騎士の活躍をさせたくない層は少なくないからな。こっちで丸め込んでもいいけど……。俺が出るのは面白くないな。もっと口の上手い奴を回してくれれば育て甲斐があるんだけど」


 宰相の面白くない発言にユリウスは眉をしかめるが、宰相の他人を虐める癖は今に始まったことではない。

 もとより人材を育てるのは宰相の趣味、フォローまで完璧となれば口を出す方が愚策だと知っているユリウスは言葉を呑みこむしかない。

 面倒がらずに変装をすればいいとも思ったが、宰相はひどく他人を嫌う……否、信用したがらない。言うだけ無駄だと目頭を押さえ飲み込んだ。

 この国には問題児しかいないのかと頭をかけそうになったが、自分を含めてそれのおかげで回っている節もあったので何も言わずに仕事を続けることにした。


 とりあえず、当面の物だけでも何とかしようとユリウスは執務机に広がっている許可申請書類に目を通していく。

 どれもご活躍中の亜人騎士に対する任務許可証だが、そこに記されているのは非常に難易度の高い仕事内容ばかり、亜人推進派に積極的でない貴族の名前ばかり。

 中にはたしかに功績になるものも多かったが、非常にリスクが高い物も少なくない……要は反対派が用意した"やれるものならやってみろ"や、客寄せかなにかの類だった。

 また別の意味で頭痛を助長させられ、はあとユリウスはため息をつくと傍らで別の報告に目を通していた宰相に放り投げた。


「まったく反対派の連中とくれば亜人の排除や人間の尊厳など目先の事ばかり。悪い癖よな……」

「悪い事じゃねえだろ。人間なんてそんなもんだ。いっそ、優秀な亜人騎士に任務成功でもさせれば一瞬で黙るよ」

「簡単に言うでないわ。誰もかれもおぬしのように優れているわけでもない。ただでさえ、恩返しにと務めてくれている者も多い、無下に扱うわけにもいかぬだろうに」

「なら、今回の事件も担当した騎士フランに任せようぜ。あの子は見所もある、今回の事で潜入も問題なしって判断できるからね」

「…………。おい、今回フランに調査をさせたのはおぬし、じゃったな? おぬしまさか……」

「さあ、何のことだか。"亜人攫い"を恨んでるあの子の目を濁らせるために必要な事だろ」

「鬼じゃなあ。……仕方あるまい、フランの願いを叶える近道にもなるが、時が早すぎる。暫し準備期間のためという名目の元、時を伸ばし、早い形で決着をつけられるように図ってやりなさい」

「御心のままに」


 宰相は喜び勇んで持っていた書類を後回しの分離に放り投げると、後ろ手に手を組みながら執務室の外へと歩き出す。

 御心も考えてないのによく言う。ユリウスは密かにそう思った。

 その為にわざわざあのウィルカニスの少年の話題を出したくせにとうんざりし、ルンルン気分で部屋を後にする宰相を見送る。

 宰相が出ていった部屋、疲れたように背もたれに頭をもたげ彼自身も無駄に装飾が施されていると感じるコアコ式の城天井を見上げる。


「さて、これからどうなるか……」


 ラトゥムと呼ばれるこの世界の中で、自らが治めるコアコセリフ国の未来と嫡男である王子の未来を憂いながら、ユリウス・ド・コアコセリフ王は重苦しい吐息をはきだした。




 上から時系列順に今回の会話に関わっている作品です。仮と書かれているのはこの作品投稿時に投稿されていない作品です。

・レタワノの手紙(亜人法案、そのずいぶん昔のきっかけ

・死者の聖女は生者よりも美しく(死者の神を崇める不穏な噂

・仮)双子魔族とウィルカニスの男の娘騎士(フランのお話

・追放先の亜人領主は思い出の中に(フランの願いを叶える近道、その後



 一冊目の最後に。

 リヴェリクとメアーのお話を読んでいただき、ありがとうございます。

 まだまだ二人の話は続きますので、読んでいただけると大変うれしいです

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