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幕間「流された血」


 ※読む前に注意※


 まず、暴力的な表現や、ちょっとえっちなシーンがあるわけではありません。

 ですが、この幕間には、今回の作品において作中で明かされない誰かの裏の動きが書かれています。

 書く予定はありませんでしたが「あれ? ここを書かないと、ただ理不尽なだけで終わるんじゃない?」と思い、投稿直前に急遽追加しました。

「ちゃんと物語の最後を読んでからそういった裏の動きなどを理由を知りたい!」と言う方はこの幕間は飛ばし、最後にお読みいただけると、なるほど? となるかもしれません。


 そのあたりは面倒なことをさせることになりますが、よろしくお願いします。



 無駄に長い警告を呼んでいただきありがとうございます。それでは本編をどうぞ


 ↓

 ↓

 ↓

 ↓


「それにしても……。まさかとは思ったけど、あの子が……」

「あれ? もしかして知り合いだったの、カリーナさん」


 隣で彼らに渡すための許可証を持ってきてくれた彼――犬系亜人、ウィルカニスのフランちゃんが、護衛の変装をしたまま驚いたように口を開いた。

 意外そうに目を見開いている彼の上から下まで眺めまわして、うんと頷く。

 間違いなく、この子は逸材ね、と。

 男の子って聞いてたけど、女の子と見紛う可愛らしい人間の顔立ちに、服の下に隠れたもふもふした腕周りは撫でまわすには至高のソレ。見たところ耳もふさふさだし、短毛種なのに毛がふわふわしているタイプ……。髪もその影響を受けてて、栗毛の髪を伸ばした彼が女装などした日には男の子だとは思わない人も多いでしょう。

 今だって護衛兵士の姿をしているのに男の子か女の子か分からない程だった。

 なんという、もふもふ得な子なのかしら。

 彼らの事はおいておいて、思わず手を伸ばしたくなっていると、フランちゃんが視線に気が付き、あははと苦笑する。


「えっと、目がいやらしいよ、カリーナさん」

「あら、ふふっ、許してくださいな。でも、残念。あの子は知り合いじゃないわ」

「違ったの? 向こうはそのつもりだったっぽいけど」

「大事なお客様の一人よ? でも、悪いことにならないと言いなって予想はしてたけど、まさかこんな事に巻き込まれるなんて……」


 そう言って、わたしは焼け崩れて閉まった元々村だった廃墟に視線を送る。

 畑も随分と踏み荒らされているし、火で土も死んでしまっている。元の生活に戻るにはそれなりに時間が必要なこの村で起きた事を想像すれば、村の人たちはさぞつらかっただろうと思えてしまう。

 彼……わたしのお客様だったリヴェリク君がそれに巻き込まれた、なんて考えるだけでも心が痛む。

 最初に彼に会った時、止めてあげればよかったかなって。

 そう思って頬に手を当てると、フランちゃんは驚いたように目を丸くする。


「へえ……予想してたって、こんなことになるのを?」

「ふふっ、偶然よ。城下町で会ったあの子が遠征の準備をしてて、その直後に国王陛下から、"あんな依頼"が来たんだもの。嫌でも何か起きるかもって思っちゃうわ」

「あはは、聡いなあ。ギルドの商人さんって皆そんなに聡い人ばっかりなの?」

「ふふっ、わたしじゃなくてもそう思うと思うわ」

「その心は」

「ふふっ、当然よ。だって、コアコセリフ国の王様が、直接顔を合わせて"もしもの時のためにとある村の人々を隠匿して、別の安全な移動させてほしい"なんて言われれば、誰でも変だなって思うもの」


 そう、数日前、国王陛下がわたしたちに依頼してきたのはこの"チケル村の住人の避難"だったから。

 そう言うと、フランちゃんは「なるほどなー」っていうと、うんうんと何度もうなずいていた。

 少し、話し過ぎてしまったかしら。

 

「じゃあ、あのさ、カリーナさん。知り合いっぽいし、一応国王陛下からはちゃんとお見送りするようにって言われてるから、一応忠告するけど、分かってるよね?」

「……ふふっ、怖い顔しないで。言われなくても"特別な方から依頼されたお仕事"ですもの。しっかりさせて頂きますわ」


 フランちゃんがわたしの返答に文句を言いづらそうに唸って「分かった」と口を噤んでくれる。

 もうわたしたちの隊商に危害を加える気はないなと安心して、リヴェリクくんとメアーちゃんが行ってしまった方を眺める。

 ほお、と疲れで暑くなった吐息を漏らし、やっぱり何かしらはもうちょっと手助けするべきだったかしらと思い直す。


 だって、今さっき見たリヴェリク君は怒りに囚われた瞳をしていたから。

 国王陛下から依頼された仕事先で出会い、仕事を終えた村で再会した彼は、大きな魔力を持った亜人の少女を連れている。

 当然、国王陛下の依頼があった時点でよい事ばかりではないと確信していたけれど……。

 国王陛下が他国籍の移動商人に依頼するには異例としか言いようがない依頼を鑑みれば、自然とこの依頼の目的と理由は分かるけれど……。


 ――あんな子に巻き込むなんて、王様はどっちの人なのかしら。


 陛下の思惑は分からない。

 間違いないのは、この依頼にリヴェリク君の救助は頼まれていないし、本人もさっきの荷物以上のことは求めてない。

 なにもせず、ただ見送っていたわたしたちを不思議に思ったのか、荷物番の一人がおずおずと声を上げた。


「あ、あのカリーナさん。あの青年に本当のことは……」

「あら、あなたは荷物番の……ふふっ、あの子のことが心配?」

「いえ、あの、そうですね、心配、です。あの面持ち、ラプールの少女の着替えを手伝っている間もずっと殺気立っていました。それに先ほどの口ぶりではカリーナさんなら予想はついてたのでは、と……」

「そうねえ。意地悪をするつもりはないし、言ってあげたいのはやまやまだけれど……」

「では、どうしてカリーナさんは本当の事を言わなかったのですか?」

「そうね……。フランちゃんはどう思う?」

「あはは、僕の目の前で謀反の企てをしないでほしいなーって思うかな」


 わたしと荷物番の子の話しをフランちゃんに無茶ぶりすると、彼は苦笑し、手を振っていた。

 あらあらと呆れたい気持ちを頬に手を添えて飲み込むと、荷物番の子は慌てたように頭を下げる。


「む、謀反など……コアコセリフ国の騎士様にそのようなことは!」

「ごめんなさいね、そういう事。迷惑をかけてごめんなさいね、フランちゃん。このことは内密にしていただけると嬉しいわ」

「大丈夫大丈夫、本当にそうするなんて思ってないから。でも、ほら、もしもの時は僕も止めなきゃいけないからさ」


 可愛い顔であっけらかんと恐ろしい事を口にする彼は、やはりこの国の騎士様だなと他人事のように認識を改める。

 それに、フランちゃんの言う通り。本来だったら、こんなことが起きる前にリヴェリク君にそれとなく伝えてあげてるけど、今回の依頼は、"依頼を受けた商人"という立場だけでは、助けてあげるにはちょっと"事が大きすぎる"。

 だからこそ、リヴェリク君に真実を話すわけにもいかないし、フランちゃんの邪魔をするのは少しばかりリスクが高すぎると理解している。

 そうでなければ、コアコセリフ国の王ともあろうお方が遠国のギルドに秘密の仕事を頼むわけがないもの。

 人の信用と世界の利益を最大に考えるギルド員として……ううん、亜人としてもそれを見過ごすには今回の事は大きすぎる。

 慌てる荷物番の子に人差し指を当てる。


「うふふ、だから馬車の子たちにもちゃんと教えてあげてね。今回のことは"黙秘しなきゃ駄目"よ? 今回のお仕事は"国王陛下の勅命"なんですもの。大きな歯車を壊すにはわたしたちは権利が無さすぎるわ」

「は、はい! 申し訳ありませんでした!」

 

 わたしの言葉を受けた子が慌てて馬車の方へと戻り、フランちゃんが頭を下げる。


「ありがとうございます。王国公認ギルド、商人ギルド組合員、コアコセリフ担当商人のカリーナ殿。この度のお礼はまた今度」

「ふふっ、コアコセリフ国の騎士様にも国王陛下にも恩を売れるんですもの。とても大きい仕事……いえ、光栄だわ」

「言い方酷いなー」

「これくらいは仕返ししないと。こちらもお仕事を取られた身ですもの」

「あはは、言っておくね。じゃあ僕はこれで」


 フランちゃんはそう言って、わたしに伝えていた通り、リヴェリク君たちを追うために王都へと続く道をゆっくりと進み始めた。

 そんな騎士様を見送って、目を細める。

 チラリと灰の山を見れば、そこはもう黒くなって、煙を吐き切ったソレは、歯車が動くうちはもう人が住めぬ、不毛な山。

 あの国王陛下も酷い人ね、こうならないよう賭けていたのだろうけれど……。

 大人に成ったばかりのリヴェリク君に背負わせるにはあまりに大きすぎるんじゃないかしら。

 だって、彼はこのことを知らないんですもの。



「ふふっ、村の人たちの大半が無事、なんてリヴェリク君にいう訳にはいかないわ。動き出した歯車を止めるわけにはいきませんものね、国王陛下」


 人を不快にさせる笑いが出てしまうのを自覚しながら、あらいけないと上機嫌に馬車の方へと足を向けた。





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