第1節「リヴェリク」
こうこうと、太陽が照らす寒空の下。
寒さで震える唇から白い息が漏れ出し、必死に命をつなぎとめようとする体から熱が逃げ出していく。
逃げ出していく熱を保つ努力すら嫌になり、森の端にある折れかかった枯れ木に背を預けた。
頭上で雲がゆるりと流れる空を見て、自分が信じ続けていた正義が分からなっていた。
日の光が眩しくて痛む体を無視して手をかざす。
泥や土に塗れ、訓練に明け暮れた皮膚は所々が傷だらけだったが、それ以外の……さきほど、尋問紛いに暴力にさらされた体には、真新しい傷がいくつもついていた。
滲みだす痛みから目をそらし、見上げた空に集中していると、この辺り特融の氷をまとったような水色の鳥が飛び去った。
飛んでいった鳥の影から、自分は関係ないとでもいうかのような太陽が延々と光を照らしていた。
変わりない、いつもの空だ。
だけどそれがまるで、俺はちっぽけな生物の一つでしかないと言われているようで……心が酷く軋み、気が付けば涙が零れ落ちていた。
体が痛みを思い出したのか、受けたばかり傷から血が流れ出し頬を伝っていく。
伝った先にも体はあるはずだ。なのに、感覚が薄い。
どうせ、着ているボロボロになった衣服の下には、きっと鞭やぼうっきれによる青あざや切り傷も多い。
痛みは薄い。だが、このまま血が流れ続ければ、俺の命は刻一刻と薄くなっていくのだろう。
もう、寒さすら怪しくなってきてしまっている。
腕を上げることにどっと疲れ、地面に下ろすと手の甲に草の生い茂った地面に落ち、冷たいのか温かいのか分からない草が広がっていた。
だが、もうどうでもいい。
流れ出していく自分の命をまるで他人事のように感じながら、空を見つめ続ける。
もう一度動こうとしても絶望を感じて動きたくもないのに、脳は動くことを拒否している自分を非難するために頭痛という警鐘を鳴らし、胃はむかむかとしてすきっ腹からない物を吐き出そうと四苦八苦し続ける。
生きて耐えようとする自分の体に涙が出てしまいそうになって、なにも吐き出すことが出来ずに口からは吐息が漏れ出ていた。
自覚できるほど虚ろになった瞳は、変わらない空を見上げることしか出来なかった。
これが、騎士を目指した俺の……。正義を信じた末路だとでもいうかのように。
「俺は……今の今まで信じていた正義に裏切られたのか?」
虚ろになった目には煙が青々とした空に昇っていく光景が目に入る。立ち上がる煙の根元には、俺の故郷の村があるはずだった。
憧れだった騎士に裏切られ、無事を報告したばかりの故郷を焼かれ……、涙が流れてもおかしくないはずの頬には何も流れることはなかった。
止血する気力もないまま、今日までの事を思い返していた。