「コアコセリフと騎士」
世界は亜人に支配されようとしている。
俺からすれば信じられない事だが、隣国である長く清い歴史を持っていると豪語する教国の教えではそうあるらしい。
人間を守護する神を崇拝し、人間絶対主義でもある教国。
彼らにとって“人間は優先して生き残るべき絶対種族"であり、"亜人や人外といった人間を模した不確実で醜悪な生き物"は世界から排除されなければならない。
……所謂、人間が世界で一番優れていると言って聞かない国の教えだ。
寒い山々に囲まれているかの国は、亜人にたいしてそこまで何か恨みがあるのか、それともそう言うお国柄なのか。
その国は全世界から亜人を排除しようとしている強大な国土を持つ亜人反対派の国である。
だが、俺の住んでいる国――コアコセリフでは全く違う。
元々コアコセリフ国は亜人に対して中立の立場だったらしい。
しかし、現国王であるユリウス・ド・コアコセリフが、亜人も人も本来の善性をもってすれば国は丸く収めることも可能になると断言された。
良くも悪くも、亜人たちの輪は大きいと考えたユリウス陛下は、彼らの力を借りたいと積極的に国へ受け入れを始めたのだ。
他国は亜人を嫌い侵略する国もあれば、教国のように排除をもくろむ国もある。
コアコセリフはそんな国から逃げてくる亜人や人外が居れば受け入れ、調査の結果、先祖の土地を借り受けていたと分かれば、出来る限り近い土地や仕事を振り分ける。
亜人を奴隷や排除すべき対象としか見ていない隣国たちとは、当然関係が悪化した。
しかし、コアコセリフはそれを抑える手立てもあった。
コアコセリフは永遠とフォーヴ――魔力で暴走した獣や亜人たちの総称――が生まれるという大地からの侵攻を抑える立場にあり、下手にコアコセリフを滅ぼそうと考える国はない。
だからこそ、コアコセリフは裕福、かつ巨大な土地を持つことが許されている国になった。
これが、今、俺が住んでいる国。万年雪も降るコアコセリフ国であり、少なくとも俺が生まれた時代には貴族の数人が声を上げ、そういう制度になり始めていた国。
俺はそんな国で育ち、弱きを守る騎士になると決めた一人の兵士だった。
コアコセリフ国の騎士は、国王陛下に直接任命された兵士であり、栄誉だ。各々が確固たる意志をもち、弱きを守り、国土を守るために日夜奔走する姿は格好いいとしか言いようがない。
男子に生まれれば、いち兵士として騎士に憧れ、その功績に目を輝かせるのはある種当然のような仕事だった。
命がけで村を救った騎士である父さんも、亜人推進派の我が国王コアコセリフ王の同志として騎士の称号を預かり、鼻高々な気分で子供時代を過ごしていたのを今でも覚えてる。
当然、俺も父に感銘を受け、コアコセリフ国を守る兵士になろうと故郷の村を飛び出した。
人間も亜人も“等しく弱き者を守ることこそが正義”だと信じ、村を救い、命を落とした英雄である父さんの背を追って、皆を守れる騎士を目指す一人の兵士になった。
やがて、俺も故郷の村を守った父さんのように国と国民を守る騎士になる。
信仰心はないけれど、人間を守る神様にそう誓い、目を輝かせていた。
そうだ。そのはずだったんだ。
俺も“等しく弱き者を守ること”が騎士になるために必要な正義だと思っていたんだ。
思っていたのに……。