EP12 少年はその道を選んだ《アンサースキル》
俺が初めてリアオンをプレイしたのは、九歳の頃。暗躍戦隊シャドウファイブが放送終了した直後の時だった。
その世界の中では能力値さえ上げれば、運動音痴な俺でもまるで戦隊ヒーローのように超人的な動きをすることが出来た。
となればヒーローの技の真似をするのは当然だ。俺は何回も動画で見返して蒼峰さんの技を真似した。そうしていくつもの技をコピーすることは出来たのだが、どうしてもシャドウブルーの奥義『閻魔斬り』だけは真似することが出来なかった。
刃が消えたと錯覚するほどの速度で放たれる斬撃。それはいくら加速スキルを積んでも真似することが出来なかった。
悩んだ末、俺は違う道を探すことを選んだ。
色々試した結果、人より『高速度での挙動』と『空中での姿勢制御』が得意だと分かった俺はそれを重点的に鍛えることにしたんだ。
その戦闘スタイルは地に足つけて戦うシャドウブルーとは反対のものかもしれない、それでも俺はヒーローになるため日夜特訓に勤しんだ。
そんな中で一つの技を開発した。
忍者のみが使える『忍び足』というスキルがある。
これは足と地面の間に空気の壁を作り足音を消す技なのだが、なんとこれを空中で使うと空中を蹴り、二段ジャンプのような挙動が出来るのだ。
通常プレイでは絶対に不可能な空中での移動法。俺はこの技を『空翔け』と呼び、廃人108技の一つとした。
そしてこの技を使い空中で加速し、相手を真上から斬り裂く固有スキル『疾風刃・天雷』も編み出した。
この技こそ俺が蒼峰さんとは違う道を歩むと決めた証。尊敬するあの人に捧げるアンサースキルだ。
「勝った……のかな……」
頭が沸騰するように熱い。上下の感覚も無く、今にも気を失ってしまいそうだ。
ああ、駄目だ、倒れ……
「大丈夫か?」
倒れる瞬間、誰かが俺を受け止めてくれる。
頼りがいのある、大きくて逞しい体だ。顔を上げてみると、そこには憧れの人、蒼峰大河さんがいた。
蒼峰さんは俺の腕を取り自分の肩に回し、俺を立たせてくれる。
「お互い……擦り切れたな。本当に良い時を過ごした」
そう語る蒼峰さんは疲れた様子だったが、明らかに俺より元気そうだった。
「勝負、どうなって……」
「安心しろ、君の勝ちだ。素晴らしいバトルだった、特に最後の技……あれは新しい時代の到来を感じた」
「へ、へへ……」
ついさっきまで本気の勝負をしていたというのに、照れてしまう。やっぱりこの人は今でも憧れの人だ。
『あのー……ヒーローインタビューしても……』
いつの間にか実況のMr.Jが近づいてもじもじしている。どうやらインタビューする隙を伺っていたみたいだ。確かにそれは大事だけど……今の消耗し切った俺に出来るだろうか?
そう考えていたら大河さんが口を開く。
「ふむ、インタビューも大事だが彼は疲れ切っている。ここは一つ、俺が代役をしようじゃないか」
そう言って蒼峰さんはMr.Jからマイクをひったくると、観客たちに向かって話し始める。
『みんな! 今日は来てくれてありがとう! 楽しんでくれたかな!?』
蒼峰さんの言葉に観客たちは歓声で答える。さすがこの手のことは慣れてるな。
『そうだな……まずは俺のファンのみんな、ごめん! 応援して貰ったけど負けてしまった! ……だが悲しまないで欲しい、今日はヒーローが死んだ日でなく、新しいヒーローが生まれた日なんだから!』
……この人は本当に根っからのヒーローなんだな。
負けたばかりだというのに俺の心配をしてくれている。なんて強くて優しい人なんだろう。
『彼は俺と真っ向から戦い、叩きのめしてくれた。俺は悔しい! 悔しくてたまらない! ……だけど、それ以上に嬉しいんだ。俺の背中を追ってここまで強くなってくれた。そして俺と真っ向から戦い、言い訳も残らないほど完璧に倒してくれた。俺はそのことが、とても嬉しい』
気づけばボロボロと眼から涙が溢れ出していた。
こんな風に認めて貰えるなんて思わなかった。俺のゲームに費やした時間と情熱は無駄ではなかったんだ。
『だから今日はこう言おう、優勝おめでとう、空。君は紛れもなくこの場で一番のヒーローだ』
俺は肩に回していた腕を外し、自分の足で立つ。
そんな俺に観客のみんなは雨のような歓声を浴びせてくれる。なんだか夢みたいな光景だな……。
大河さんは俺と一緒になって観客に手を振りながら、小声で話しかけてくる。
「君は有名になった。この先、大変なことが何度も君を襲うだろう。その覚悟はあるか?」
「大丈夫ですよ。誰の背中を見て育ったと思ってるんですか」
「ふっ……そうか。そうだな。君なら大丈夫だ」
やまない歓声に向かい、俺と蒼峰さんはうでがいたくなるほど強く手を振り、応えるのだった。
◇ ◇ ◇
「――――空さんっ!」
蒼峰さんに支えて貰いながら試合会場から出て関係者通路を歩いていると、突然怜奈さんが走ってきて俺に抱きついてくる。
「ふぐっ!?」
物凄い勢いだ。既にふらふらだった俺は倒れそうになるが、すんでの所で踏みとどまる。
危ねえ、倒れたらもう起き上がれないぞ!?
抱きつく怜奈さんを剥がそうと彼女の肩に手を乗せると、その肩は細かく震えていた。
「……泣かないでくれよ、ちゃんと勝ったじゃないか」
「はい……でも、止まらないんです……」
「……そうか」
俺は黙ってしばらく胸を貸す。
しばらくそうしていた怜奈さんは少しして落ち着き、顔を胸から離し、俺と目を合わせる。まだ目の周りが少し赤く腫れてるが、元の調子に戻ったようだ。
「お疲れ様です。格好良かったですよ」
「……ありがとう」
まっすぐそんなことを言われると恥ずかしくなってしまう。
今の俺の顔も彼女と負けず劣らず真っ赤になってるだろう。
「もう大丈夫そうだな。俺は先に行くぜ」
安心したように笑みを浮かべた蒼峰さんは去っていく。
俺はその頼もしい背中に声を投げかける。
「蒼峰さん! ありがとうございましたっ!」
俺の言葉に蒼峰さんは振り返ることなく、右手を挙げて応えた。
まったく、最後までかっこいい人だ。
「立てますか? 空さん」
「ああ……大丈夫だよ」
今度は怜奈さんの手を借り、歩き始める。
もう大丈夫、一人で歩ける……と言ったのだが怜奈さんは話を聞いてくれなかった。
「……」
「……」
お互い一言も喋ることなく歩く。
不思議なことに嫌な沈黙じゃなかった。むしろ心地良いくらいだ。
だけどこの沈黙を破ってでも、一つ伝えなきゃいけないことがある。これはきっと今を逃したら言えないことだ。
「怜奈さん」
「はい、なんでしょうか」
「ありがとう。俺をここに連れて来てくれて」
「……っ!」
怜奈さんは驚いた顔をする。そらこんなこと言われるとは思ってなかったんだろう。
「ここに来て良かったと思えることは、たくさんある。好敵手が出来たこととか、憧れの人に出会えたこととか。でも一番は……楽しかったことだ」
そう、俺は楽しかったんだ。
蒼峰さんやオタキングと戦ってる時、これ以上ないほど俺は楽しかった。
お互いの知恵、経験、技術の全てをぶつけ合わせての勝負は心から燃えた。この試合に勝てるならもう他には何もいらない――――そう思ったんだ。
「こんな楽しいこと、他の人に任せることなんて出来ない。だからさ、悪いけど世界大会には俺が出る。こう見えて結構ゲームは得意なんだ」
冗談まじりにそう言うと、怜奈さんはまた涙を浮かべながらかわいい笑みを浮かべて、言った。
「はい。よく存じ上げております!」




