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EP5 壊れた正義《ブレイク・ザ・ジャスティス》

 最低だ。

 俺は最低だ。


 『青き疾風』だなんだとおだてられ、いい気になっていた。

 ただあの人の生き方を、真似して、なぞって、倣って生きていただけだというのに、まるで自分があの人みたいになれたと思っていた。


 でもそれは違った。


 初めてあの人に近づいて感じたんだ、自分との圧倒的な『差』を。

 生まれついてのヒーローという言葉が相応しい、とてつもないオーラを感じた。

 猿真似に過ぎない俺とは何もかもが違う。この先いくら頑張っても俺はあの人の足元にも及ばないだろう。


 そんな俺が、あの人と戦う?

 冗談はよしてくれ。


 勝てないし、勝ちたくもない。

 もしまぐれで勝ってしまったらそれこそ最悪の空気になるだろう。そんなの悪役以下だ。


 観客はみんな本物のヒーローの勝利を望んでいる。俺みたいな偽物じゃなく本物の。

 あの人を見た瞬間、俺はそれを強烈に理解してしまった。対戦相手の俺でさえあの人が俺に負けるところを見たくなんかない。


 じゃあわざと負けるか? いや……俺にはそうする勇気すらない。

 もう充分過ぎるほどに格の違いは分かったんだ。これ以上惨めな思いはしたくないよ。

 嫌だよ、嫌だ。俺は弱い人間なんだ。弱いからずっとあの人の真似をして何とか自分を保っていたんだ。それなのになんで、なんで本物が現れるんだよ。


「つらい」


 思わず言葉が口をついて出る。

 つらい。心臓が細い針を刺されたようにチクチク痛む。

 全身がまるで鉛を流し込まれたかのように重く感じる。


 もう何も聞きたくない。見たくない。

 もう誰も俺に構わないでくれ――――。


「話を……せてくだ……さん」


 うるさい。俺に話しかけないでくれ。


「教え……ませんか、空さ……今の……ちを」


 だまれ、放っておいてくれ。


「わた……理解させ……さい」


 お前に分かるか、俺の惨めな気持ちが。


「力になれる……は分かりませんが私にも……緒に悩ま……けませんか?」


 なんで。なんで関わろうとするんだ。

 お前も本当は分かってるんだろ? 俺は駄目な人間だってことに。


「もう、やめてくれないか」

「……! いいえ、やめません。空さんの気持ちを聞くまではここを退きません」


 強情な人だ。

 思えば最初に会ったあの日、体育館裏で出会ったあの時からこの人はそうだった。

 人の話を聞かず、どんどん勝手に話を進めて人を巻き込んでいく。いくら「やらない」と言っても何だかんだこの人に乗せられてこんな大会に出ることになってしまった。


 そんな彼女のことだ納得するまではテコでも退かないだろう。分かったよ、だったら話してやる。


「俺の気持ちだって? そんなに知りたいなら教えてやるよ。惨め、滑稽、無様、恥知らず、勘違いクソ野郎……とまあ、こんな所だな」


「そんな。空さんは惨めなんかじゃ……」

銀城・・さん。そう思ってくれるのは嬉しいが、それが事実なんだ。本物を見て俺は俺がどうしようもない奴だってことを完全に理解してしまったんだ。だからもうこの話は終わりなんだ」


 そう冷たく言い放ち、会話を打ち切る。

 もうこれ以上話したくない。何も考えたくない。


 頼む。もう、諦めてくれ――――


 そう願っていると、扉の向こうで銀城さんが立ち上がる音が聞こえる。

 ここまで言えば強情な彼女でも諦めてくれるだろう。なに、ゲームが強い奴なんていくらでもいる。俺じゃなきゃいけない理由なんてないんだからきっと何とかなる。


「分かりました。後の処理は任せてください。無理やり巻き込んでしまい申し訳ありませんでした」

「……ごめん」


 そう呟くのが精一杯だった。

 俺だって裏切るようなことはしたくない。決勝戦をすっぽかすなんて多くの人に迷惑をかけてしまうだろう。

 でも無理なんだ。あの人の前に立つことなんて。まして刃を向けるなんて出来るわけがない。


 俺はあの人の劣化コピー。いやコピーなんて言葉を使うのもおこがましい。あの人を模倣したおぞましい何か。それくらいの表現が正しい。


 ごめんな銀城さん。期待させて。


 俺だって期待には応えたかったよ。俺のことを信頼してくれるその気持ちに応えたかった。

 でもこれ以上は頑張れない。俺みたいな人間はどれだけ頑張ってもヒーローにはなれないんだ――――


「ひとつ、昔話をしていいですか?」

「へ?」


 扉の向こうで銀城さんは突然そう切り出してくる。

 こんな時に昔話なんてなんのつもりなんだろうか。

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