EP9 愛好家王《オタキング》
翌朝。
試合が始まる一時間前にネオアキバドームに到着した俺は、控え室に向かった。
昨日までのタコ部屋とは違い、ちゃんと個室が用意されている。準決勝進出ともなれば優遇されるんだな。これでジロジロ見られる心配がなくなるってもんだ。
「お茶に弁当まである。至れり尽くせりだな」
高そうな座布団に座りくつろぐ。まだ試合まで時間があるしネットニュースでも見てようかなと思っていると、控え室の扉が開く。
「おはようございます。どうですか調子は?」
「おはよう怜奈さん。体調ならバッチリだよ、ゲーム内で二時間も寝たからね」
「……突っ込みませんよ。キリがないですからね」
それは残念。怜奈さんも俺のあしらい方がだいぶ分かってきたようだな。
こほん、と気を取り直した彼女は俺に質問してくる。
「ところで次の対戦相手の確認はしたのですか?」
「昨日の試合ならアーカイブから見たぞ」
相手は剣と盾を駆使する、攻守優れた剣士タイプ。職業は戦士の上位職『ウォリアー』かそれに近いものだと思っている。鎧を装備していたので騎士系の職かとも思ったが、使ってるスキルの中に戦士系統の職業でしか使えないものあったので戦士系統で間違い無いだろう。
基本職のスキルはどの職業でも使うことが出来るが、上位職のスキルはその系統の職業の時でないと使えないのだ。つまりスキルのいいとこ取りは出来ない、初心者がよく勘違いしやすい罠だ。
「試合内容も大事ですが、相手本人のことは調べられてないのですか?」
「相手本人? 変な名前だなとは思ったけど」
確か『オタキング』とかいうふざけた名前だった。動画配信者かなんかだと思って調べてなかったな。タレントだの配信者だのVtuberだのはあまり興味がないから有名な人も全然知らないんだよな。
たまに妹に「なんでこの人知らないの!?」と驚きキレ散らかされることもある。
うるせえ。逆にお前の方こそリアオンのアイテムのフレーバーテキスト言えんのかよ。俺は五千以上言えるぞ――――と反論したことがあるが普通にドン引きされた。この世は無常だ。
「知らない、ということで一応お伝えしておきますね。空さんの対戦相手であるオタキングさんは、ここネオ秋葉原を中心に活動するオタク集団『愛機場最前線』のリーダーです」
「アキバ……なんだって?」
聞いたことないぞそんな妙ちきりんな名前の集団は。危ない集団じゃないだろうな。
嫌だぞ勝って後で逆恨みされて報復されるのは。
そんな俺の引いた空気を察知してくれたのか、怜奈さんは説明してくれる。
「彼らは危ない集団ではありませんよ。ここネオ秋葉原をオタクの街にするべく立ち上がった人たちです。色々なお店を誘致したりイベントを開催したりしてここを盛り上げようとしている人たちです」
「へえ、思ったより変な奴らじゃなさそうだな。だけどそんな地道な活動で効果はあるのかね」
「ありますとも。現にこのネオアキバドームが建ったのは彼らの功績が大きいのですから」
「え゛っ!? まじ!?」
急に規模がデカくなりすぎだ。そんな凄い奴らなのか!?
「彼の仲間には様々な業種のオタクがいるらしく、その力は一般人の集まりとは思えないほど強いです。事実十年前までは寂れて活気が無くなっていたこの街が、ここまで賑わうようになったのですから」
「なるほどね。そんなとんでも集団をまとめる奴が俺の相手ってわけか。確かに油断出来ないな」
ここまで聞けば流石の俺でも相手に興味を持つ。
いったいどんな奴なんだろうか……と考えていると扉がコンコンとノックされる。
「少し、よろしいでござるか?」
「へ? あ、はい。どうぞ」
忍者みたいな不思議な喋り方だ。
いったい誰なんだろうと思いつつも、覆面を装着しひとまず控え室に招く。
ここは関係者しか入れないから怪しい奴は入ってこないだろう……と思っていたのだが、中に入って来たのは変な格好をした男だった。
「お初にお目にかかる、ブルーマスク殿。拙者は次の対戦相手オタキングと申す者。どうぞ気軽にオタキンと呼んでくだされ!」
入ってきたのはなんと次の対戦相手、オタキングだった。
彼はチェックのシャツをジーンズにインし、顔にはぐるぐるメガネを装着。そして極めつけに頭にバンダナを巻きリュックを背負っている。
俺には分かるその格好はまさしく、
「オールド・オタクスタイルじゃねえか……! 完成度が高いなオイ」
「ほう、この格好が分かるとは。お主もこちら側、でござったか……!」
俺たちはお互いの顔を見合わせ、ニヤリと笑う。
怜奈さんは一人だけ蚊帳の外になり「え、なにが起きてるのですか?」と困惑する。
流石に彼女一人を置いてけぼりにして話を進めるのも可哀想だし説明してあげるか。
「オールド・オタクスタイルというのは今から五百年前、まだネオ秋葉原がただの秋葉原だった時代のオタクが好んでしていたと言われる格好のことだ。リュックにはゲームや本、タペストリーやポスターを入れていたと言われている」
「然り、ネオ秋葉原を昔のようなオタクの街にしようとしている拙者にとってこの格好は正装にして聖装。それにしてもよく気づきましたな。今の時代、この格好を知るものは少ないと言うのに」
「ふん、それくらい基礎的な教養さ」
「ふふ、そうでござるか」
俺たちは再び視線を交わし合い、笑みを浮かべる。同じオタク同士、奇妙な友情が芽生えるのを感じる。
ちなみに隣にいる怜奈さんは相変わらず冷ややかな視線を俺にぶつけている。やめろ、その視線は俺に効く。
まあとにかくこいつが只者じゃないことはわかった。しかし次の対戦相手が、いったい何の用なんだろうか?




