EP5 まさかの結末《バッドサプライズ》
「おめでとうございます。快勝でしたね」
控室に戻ると、怜奈さんがやって来て俺を労ってくれた。
ryoは試合会場に行ってしまっていたので、控室には誰も知り合いがいなかった。なので玲奈さんが来てホッとした。
なんか知らないが控え室にいる人たち睨んでくるんだよな。こわ。
「水まで用意してくれてありがとうな。ここ居づらいから来てくれて助かったよ」
「ふふ、みんな貴方のことが気になって仕方ないのですよ」
「んー、まあ覆面してるのなんて俺くらいだからな。そりゃ警戒するか」
「警戒されてるのは貴方の強さなのですが……まあそれは言わなくていいですかね」
「ん?」
「いえ何も」
何やら小声で言ってたが聞き取れなかった。少し気になるけどまあたいしたことじゃないだろう。
ていうかそんな事より聞いとかなきゃいけないことがあった。
「そういえばかなり卑劣な戦い方したけど大丈夫だったか?」
俺ことブルーマスクと怜奈さんが知り合いだと言うことはバレている。それなのにあんな戦い方をしたら彼女に悪印象を与えてしまうのではないか、と試合後に気がついた。
俺の勝手な行動で迷惑をかけてしまうのは申し訳ない。
「大丈夫ですよ、安心して下さい。あれしきのことで私の価値は落ちません」
「おお、頼もしい」
最初想像してたよりもずっと彼女は逞しい。
まあその若さで日本のRe-sportsを引っ張ってこうとしてるんだから当然か。
「それに私はさっきの戦い、かっこいいと思いましたよ」
「……! そ、そうか。変わってるなあんたも」
危ない。マスクをしてなかったら顔が赤くなっているのがバレるとこだった。
この人も大概天然タラシだな。俺じゃなかったら誤解してしまうぞ。
「それでは私はここで失礼させて頂きます。次の試合も頑張ってください」
「はいはい。精々頑張らせて頂きますよ」
一礼して去っていく彼女を見送ったあと、覆面の間にストローを差し込み、怜奈さんに貰った水を飲む。
ふう、生き返ったぜ。
この大会は二日間に分けて行われる。第一試合と第二試合を今日。そして準決勝と決勝戦を明日やる。つまり今日はあと一戦戦わなければいけないのだ。
「乗りかかった船だ。いっちょ気合い入れてやるか」
いつからだろうか。俺はRe-sportsの魅力に引き込まれていた。
◇ ◇ ◇
『二回戦も快勝ーっ! 謎の男、ブルーマスクはいったいどこまで勝ち進んでしまうんだぁ!?』
二回戦を難なく突破した俺は観客に手を振りながら、今度はとっとと退場する。
相手もバトルロイヤルを勝ち抜いただけあってそこそこ強かったが、まあ苦戦するほどではなかった。ryoよりちょっと強いくらいかな。
一人で控室までの通路を歩いていると、俺はある人物と出逢わす。
「ふん、どうやら勝ったみたいだな」
「まあな。ラクショーだったぜ」
「チッ、調子に乗ってられるのも今のうちだぞ」
苛立たしげにそう言うのは、プロRe-sports選手のryoだ。こいつも無事一回戦を突破し二回戦へ駒を進めていた。
その試合はモニターで見ていたが、確かにこの前試合した時よりもグッと立ち回りが上手くなっていたし、構築も洗練されていた。
この短期間でそれだけ強くなったということはそれだけ努力したんだろう。
「見てろ、二回戦もサクッと突破してお前に吠え面かかせてやるからな」
「それ負ける奴の台詞だぞ。大口叩いといて二回戦であっさり脱落するなよ」
「抜かせ、控室で俺の華麗なる勝利を見てるんだな」
そう言ってryoは試合会場へと向かっていった。その歩みには自信が満ち溢れている。
これなら大丈夫そうだな。そう思った俺は控え室に向かう。
三回戦は明日なのでもう帰ってもいいのだがあいつの試合くらいは見てやっても良いだろう。
◇ ◇ ◇
「そんな……」
信じられない、といった感じの声が控え室にいる選手の口から漏れる。
俺含む他の選手たち同じ気持ちだ。みんな備え付けのモニターを見ながら呆然としていた。
『な、なんとryo選手が二回戦にして敗北ーッ! なんという番狂わせ! 相手は初出場の高校生にも関わらず、プロのryo選手が手も足も出なかった!』
画面の中のryoは膝から崩れ落ち、悔しそうに床を殴りつけている。大勢の前で、しかもまた年下に負けたのだからその悔しさは計り知れない。
俺の見た限り奴のプレイングは悪くなかった。しかし相手が強すぎた。
ryoの対戦相手は特に変わったスキルこそ使ってなかったが、基本操作が他の選手よりズバ抜けて上手かった。丁寧に相手の攻撃を捌き、隙を突いて攻める。何も変わったことのない普通の戦術、しかしその練度がケタ違いだった。
あれではryoじゃない他の選手でも勝つことは出来なかっただろう。
「あいつが次の俺の相手か……」
正直こんな大会、そんなに苦戦することはないだろうと思っていたけど、そうはいかなそうだな。
動きを見るにあいつも俺と同じゲーム星から来た廃人人間。本気で臨まなければ負けてしまうかもしれない。
「ひとまず帰って構築見直すか」
今のryoを励ましても、傷に塩を塗るだけだ。そう判断した俺は控室を出て帰路に着くことにする。
「「あ」」
ドアを開け廊下に出た瞬間、怜奈さんとバッタリ出くわす。どうやら彼女も控室に入ろうとしていたらしい。
一瞬ビクッとした彼女だが、鉢合わせたのが俺だと気づくと、嬉しそうに笑う。子犬みたいな人だな。
「空さんでしたか、もう帰られるのですか?」
「まあな。明日の準備もしたいし」
「そうですか、でしたら私も一緒に帰ります」
あんたはやることないのか? と聞きそうになるが、飲み込む。
この人のことだ。もうやらなきゃいけないことは全て済ませてあるだろう。彼女は見た目ステ極振りに見せかけて中身も優秀な万能構築なのだ。このチート系女子め。
「帰ってからは何をするのですか? 装備の見直しでしょうか?」
「そんなところだな。スキルもちょっと調整したいし……って、そうだ」
俺はあることを思い出し手をポンと叩く。最近あまり話す機会がなかったから伝え忘れてたぜ。
「忍びの里に来たいって言ってたよな? 里長に聞いてみたら快諾してくれたよ。今日俺も里に行く予定だから一緒にどうだ?」
それを聞いた怜奈さんはパッと顔を明るくして喜ぶ。
「本当ですか! 今日は……そうですね、夜の九時以降、でしたら大丈夫そうです」
スクリーン上に映る自分のスケジュールとにらめっこした怜奈さんはそう答える。チラっと画面が見えてしまったが、彼女のスケジュールはしばらく先まで予定がビッチリ詰まっていた。これで俺と同じ高校生だというんだから驚きだ。
「分かった。それじゃあ夜九時に前回と同じ場所で」
「わかりました。楽しみにしてますね」
笑みを浮かべる怜奈さん。
なんだかデートみたいだな――――そんな言葉を心の中に飲み込み、俺は帰路についたのだった。




