EP3 仲間作り《チーミング》
「くそ、何で俺がこんな目に……」
ちなみにブルーマスクというのは怜奈さんが勝手につけた名前だ。本名で出るわけにもいかないし、青き疾風という名前を使っても身バレに繋がるからとの配慮だ。にしても青い覆面は安直だと思うが。
『今回は参加ありがとうブルーマスク選手。前回同様素敵なプレイを期待しているぜ!』
気づけばMr.Jは俺のそばまで来ていて、マイクの先端を俺に向けている。
へ? 俺に喋ろと? 授業で指されるのすら嫌な俺に何万人もの観客の前で喋れってのか?
「………………」
声が、出ない。
頭にいくつも言葉が浮かんでは消えていく。いやいや無理でしょ、こんな状況で喋れるわけないって。
しかしMr.Jは俺からマイクを外そうとしない。見れば小さく口を動かしいる、なになに「頼む、何でもいいから喋ってくれ」だって? いや無茶言わないでくれ俺はタレントじゃない、一般人なんだ。
……だが、だがだ。今の俺はシャドウブルーのマスクを付けている。つまり曲がりなりにも彼の顔を借りているのだ。その状態でお茶の間を凍らせるのは彼に失礼ってものだ。
だったらここはいつものヒーロー状態の皮を被り、演技するべきだ。憧れを汚すような真似はしちゃいけない。
俺はシャドウブルーの魂を体に降ろし、なりきる。
「……ぎぬ」
『ん? なんて?』
「一回戦など通過点に過ぎぬ。早く始めるがよい」
『おおっとぉ! ブルーマスク選手、余裕の勝利宣言だァ! これは目が離せないぞっ!』
……ん? 俺今なんて言った?
なりきってて記憶がないぞ。まあ実況の人は満足して帰ってったからいいか。
「……ふざけやがって」
何故か対戦者たちは俺を睨みつけている。もしかして失礼なこと言っちゃった? 謝った方がいいのかしら。
『さあ選手諸君! 対戦準備してくれ!』
しかし弁明する間も無く試合開始は近づいていく。
はぁ、仕方ないか。俺はマスクの中に手を突っ込み、装着済みのi-VISを起動する。
何を言ってしまったかは分からないが、勝てば文句はないだろう。
せっかくの大舞台、存分に暴れてやるぜ。
「|i-VIS起動! シャドウブルー、現実拡張!」
スマートリングからナノマシンが放出され、俺の目の前にゲームキャラが現れる。
もちろん忍者姿ではなく、一般的な戦士の姿だ。この姿は忍者のスキル『忍式変装術』によるもの。
この状態では忍者のスキルは使えないが、基本的なスキルなら使うことが出来る。廃人連中相手じゃなきゃこれで十分戦える。
『みんな準備はいいな? それじゃあRe-sportバトルゥ、スタートッッ!』
その言葉を合図に、リング内のキャラたちが一斉に動き出す。すると俺の近くにいた三人は、示し合わせたように俺の方に向かってくる。
「露骨すぎんだろ……」
どうやらさっきの発言は彼らをかなり怒らせてしまったみたいだ。
反省し、切り替える。なに、多対一は初めての経験じゃない。所詮相手は急拵えの即席チーム、対応を間違えなければ恐ろしいものではない。
「パワースラッシュ!」
大柄な戦士が大剣を振り上げ、襲いかかってくる。パワーはありそうだけど動きが単調過ぎる。俺は小さく横にステップしその一撃を避けると、相手の首に小太刀を突き刺す。
「まずは一人」
倒れる戦士を視界から外し、次の相手に視線を移す。
今度は二人同時か。確かに一人づつ来るより厄介だけど、それだけだ。二人ともなれない共闘に戸惑ってるじゃないか。
「悪質PK集団を一人で殲滅した時と比べたら、全然怖かねえな」
あん時はヤバかった。流石に一人で突っ込んだことを後悔したもんだ。
などと若気の至りを思い返していると、相手二人が同時にスキルを発動してくる。
「火炎球!」
「ナイトスラッシュ!」
ローブを着た魔法使いが火球を撃ち、全身鎧を装備した騎士が斬りかかってくる。
俺は慌てず騎士の攻撃を小太刀の刀身で弾き、騎士の体勢を崩す。
「ほいっと」
「おわっ!」
そして体勢の崩れた騎士の足を払い、バランスが崩れた所を手でドンと押す。
「バーイ♪」
「ちょま」
そう言い残し騎士は味方の放った火球の中に飲み込まれる。ふはは、これぞ環境利用闘法。利用出来るもんはなんでも利用するぜ。相手の攻撃だろうとな。
「き、貴様よくも! 卑怯だぞ」
「よく言うぜ仲間作りしといてよ。それに忍者は汚いと昔から決まってるんだぜ、さすがと言って貰いたいもんだね」
「うるさい! アイシクルランス!」
「おっと危ない! 話途中に撃ちやがって!」
俺は飛んできた氷の槍を回避すると、反撃の準備を始める。
「加速!」
体を青色の光が包み込み、速度が上がる。変装しているこの姿では忍者状態より大幅に素早さが落ちてしまうので、このスキルは大きな助けになる。
俺は高速で戦場を駆け抜け、一気に距離を詰める。魔法使いもそれに反応して魔法を発動しようとするが、速さが足りない。
「マジックバリ……」
「遅い! クイックスラッシュ!」
魔法使いが防御魔法『マジックバリア』を発動するよりも早く、俺の小太刀が相手の喉笛を切り裂く。急所を抉り取られた魔法使いのHPは一瞬で蒸発し、倒れる。
『つ、強い! 強すぎるーっ! ブルーマスク選手、なんと一瞬で三人を倒してのけた! やはりryo選手を倒したのは偶然じゃなかった!』
何やら実況が騒いでるが気にしない。今は目の前のことに集中だ。
ざっと見渡してみると、残りの人数は俺を除いてあと四人になっていた。どうやら俺が三人倒している間に二人脱落したみたいだ。
もう少し潰しあって貰ってから本格的に動くかって……ん?
「おいおい、君たちいつの間にそんなに仲良くなったの?」
なんと残った四人の選手たちが、武器を俺に向けてジリジリと近づいて来ていた。
お互いに攻撃する様子は一切ない、明らかに手を組んでやがんな。
「悪いな。お前を残すのは危険だとみんな判断したんだ」
「はあ……初っ端から目立ちすぎたか」
ため息を付き、俺は残りの奴らに向かい合うのだった。




