EP5 名前狩り《ネームド・ハント》
音すら置き去りにする速度。
一瞬で景色が後ろに流れていき、俺の体は亜音速で峡谷を駆け抜ける。
幸いなことにドラゴンは然程高度を上げていない、これなら跳べば届く!
「青き疾風の力――――とくと見よッ!」
まるで地面を駆けるかのように、そり立つ岸壁を駆け上がった俺は、勢いそのままに跳躍する。そして宙へと舞い上がり、ドラゴンに近づきながらその翼めがけクナイを四つ投げつける。
「くらいな!」
『ゴギュア!?』
突然翼に穴が空き、ドラゴンは怯む。その隙に怜奈さんのもとへ辿り着いた俺は、彼女をしっかりと掴むドラゴンの足に小太刀を振るう。
俺の持つ小太刀は忍びの里で造られた一級品、竜の鱗であろうと易々と斬り裂く名刀だ。
「そこ――――ッ!」
ドラゴンの右足を一刀のもとに両断する。握る力を失った足から怜奈さんが解き放たれ、空中に投げ出される。俺は斬り落とした右足を蹴って加速すると、怜奈さんを何とかキャッチし着陸する。
「ふん……っ!」
足に襲いくる着地の衝撃を、歯を食いしばって耐える! 痛覚緩和機能があるとはいえ全ての衝撃から守られるわけではない。ジーーンとした痛みが俺の足を駆け巡るが、俺は気合いでポーカーフェイスを顔面に貼り付け、怜奈さんをゆっくり地面に下ろす。
「大丈夫か?」
「は、はい……ありがとう、ございます」
ぽかんとした顔で怜奈さんはお礼を言う。よほど怖かったんだろう、彼女の白い肌が紅潮している。
「後は任せろ」
青い襟巻をたなびかせながら、地面スレスレまで降りてくるドラゴンのもとに行く。ドラゴンは目を赤く血走らせ、牙を剥き出しにして俺を睨みつけている。
どうやら足を斬られて相当ご立腹のようだ。
俺はドラゴンに接近しながら、その頭の上に表示されている名前をチェックする。
「『秘峡谷の主バイエルン』……やっぱり名前付きだったか」
一部の特別なモンスターはネームドモンスターと呼ばれている。
固有の名前が付いているのが特徴であり、そのどれもが出会うのが難しく、他の個体よりも強く、そしてレアなアイテムを落としやすい。
俺に出会ったことと、俺の目の前で人を傷つけたのが運の尽きだ。
その罪、命とレアドロップで償って貰うぞ。
「来やがれ!」
『ギャバアァッ!』
茶褐色のドラゴン、バイエルンは叫びながら大きな口を広げる。
その動作はドラゴンの得意技、竜の吐息の合図だ。さっきまで発動していたスキルの効果は切れている。今度は速度特化スキルではなく戦闘用にスキルを発動する。
「『二重加速』、『滑走移動』、『瞬発力強化……!」
竜の吐息が放たれる。峡谷を埋め尽くすほどの巨大な炎の塊。それが俺を飲み込まんと迫ってくる。
「たいした技だが、速さが足りないぜ!」
既にスキル『滑走移動』を発動済みの俺は、地面の上をまるで氷上を滑るかのように移動し、それを避ける。
俺の気持ち悪いほど滑らかな動きを見てバイエルンは一瞬戸惑う。ふはは、驚いただろう。滑走移動はクセが強すぎてハズレ扱いされるスキル。しかし俺は根性と愛でこの移動方法を我が物にしてやった。コツは極限の脱力、僅かでも力むと明後日の方向に体が吹き飛び、壁と熱いキスを交わす羽目になる。俺も何度も壁とキスしてで体をすりおろしたものだ。懐かしい。
「はっはぁ! どうした! そんな攻撃じゃ俺の尾を引くマフラーに触れることすら出来ないぞ!」
『ゴギャアアッッ!』
挑発されてることが分かったのか、バイエルンは怒り狂ったように咆哮すると今度はその巨体で押し潰そうとしてくる。
リアオンでは一般的に空を飛ぶ手段はない。なので押し潰し攻撃はかなり有効な手段だ。地を這う蟻は空舞う鳥から逃れる術がない。
……だが俺はただの蟻じゃない。この背中には努力で勝ち取った羽がある!
「スキル発動『超跳躍』!」
物凄い力で地面を蹴り、俺は一気に空中まで吹き飛びバイエルンの上を取る。一瞬だけ脚力を超強化するこのスキルも扱いが非常に難しく、少しでも足の操作をミスれば足の骨が超複雑骨折する。
しかし訓練した俺からすれば、このスキルはお手軽長距離ジャンプでしかない。まあ習得するのに三年はかかったけどな、ふはは。
「――――さて、この戦いももう終わりにするか。『鷹の目』、『致命強化』」
強化された視力で弱点を発見、そしてクリティカル率を上げた小太刀を逆手で構える。
空中で姿勢を制御しながら落下し、バイエルンの長い首めがけて小太刀を振り下ろす!
「食らえ我が奥義、『疾風刃』!」
忍者の職業を取得した時、最初に覚えるこの技は『クイックスラッシュ』の上位互換のようなスキルだ。クイックスラッシュよりも速く、強く、そしてかっこいいこの技は、バイエルンの首を容易く両断し、そのHPを全て奪い去る。
「正義、完了……ってな」
チン、と太刀を鞘に収める音が鳴ると同時に、バイエルンは多数のアイテムとなり俺の周りにばら撒かれるのだった。




