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EP4 君の名を呼ぶ《コーリング・ユー》

「これでラスト――――っとお!」


 最後の竜を斬り伏せた俺は意気揚々と勝鬨を上げる。

 気がつけば狩り始めてから二時間も経っている。その間たっぷりと経験値を稼げてホクホクだ。


「流石に人の来ない狩り場は効率が違うぜ。おひょ、知らないドロップアイテムもあるじゃん何作れんだろこれ」

「楽しんで頂けたようで良かったです。ここには私がいなくても自由に出入りして頂いて構いませんからね」

「本当か!? いやあ、ほんとありがとうな銀城さん。こりゃしばらく稼ぎには困らないぜ」


 竜の峡谷は敵が固くて進むのが大変な上、経験値効率がよくないのであまりプレイヤーは寄り付かない。なのでこの秘境はしばらく見つかることはないだろう。こりゃまた徹夜が捗りそうだぜ。


「……あ、銀城さん。そう言えば聞きたかったことがあんだけどさ」

「はい何でしょうか空さん」

「別に嫌って訳じゃないんだけどさ。その『空さん』って呼び方どうにかならないか? ほらクラスの連中に聞かれたら面倒くさい噂立てられかねないしさ」

「面倒くさい噂……ですか?」


 きょとんとした顔で尋ねてくる銀城さん。どうやら本当に分かってないみたいだ。


「いいか? 普通高校生にもなれば異性同士は苗字で呼び合うんだよ。名前で呼び合うってのは余程仲が良いか昔からの知り合いだけ。つまり俺とあんたが名前で呼び合ってたらそう勘違いされるんだよ」

「? 仲なら良いと思うのですが。一緒にゲームする仲じゃないですか」

「そりゃそうなんだがよう……」


 駄目だ通じてない。

 このお嬢様にはもっと分かりやすく言ってあげなきゃ駄目か。


「つまりだな銀城さん、名前で呼び合ってると深い仲、つまり付き合ってると誤解されかねないんだよ」

「付き合ってる……とは、もしかして異性同士のお付き合いということ、ですか?」

「そうそうそれ」

「わ、私と空さんがそんな風に見られてたなんて……!」


 顔から火が出るんじゃないかってくらい銀城さんは顔を真っ赤にする。そして「ご、ごめんなさい」とペコペコ頭を下げる。

 見た目から冷たい印象を受ける彼女だがよくよく見ると結構表情が豊かで面白い人だ。先入観で人を決めつけるのは良くないな。


「まあ分かってくれたならいいんだ。じゃあこれからは苗字で呼んでくれるな?」


 これにて一件落着。そう思ったが彼女の返答は意外なものだった。


「いえ、申し訳ありませんが呼び方を変えることは出来ません」

「へ!? 話聞いてた!?」


 今までのやり取りは何だったんだいったい!

 令嬢ジョークの可能性も考えたが彼女の顔はいたって真剣。とても冗談を言っている様には見えなかった。


「確かに空さんの言う通り苗字で呼び合えば無用な誤解を生まずに済みます。しかしそうしていたらゲーム内でも空さんのことを苗字呼びしてしまうでしょう。それはマズいんじゃないですか?」

「う゛、痛いとこ突いてくるな……」


 俺のアカウント名は『Sora』だ。この名前は他の人からも見える情報だ。

 アカウント名が本名だとバレてしまうことは少ないが、もしこのアカウント名で『青井さん』と呼ばれているところを見られれば、フルネームが丸ごとバレてしまう。それは非常によろしくない。


 その点今まで通り『空さん』と呼んでくれていれば、自然とそれはアカウント名を呼んでいるように見えるので、身バレの確率はグッと減る。


 しかしそれをするともう一つ厄介な事件が起きてしまう。


「いやしかし銀城さん。その理論に従って呼び方を決めると俺まで銀城さんを名前呼びすることになるじゃないか」


 彼女のアカウント名は『Reina_Ag』。となると俺も彼女を『怜奈さん』と呼ばなければいけなくなる。


「そうなりますね。特に私の苗字は珍しいのでバレてしまう可能性が高いですね。もちろん空さんはそのようなことが起きないよう、配慮出来るお方ですよね? ……ということでこれからは下の名前で呼んでくださいね、『空さん』」


 有無を言わせぬ圧力。

 結局言い訳をこれ以上思いつかなかった俺は、渋々彼女の提案を飲み込むのだった。


「分かったよ……れ、怜奈さん。うわ、恥ずかしいなこれ」


 女子のことを名前呼びするのなんていつぶりだ? 下手したら幼稚園ぶりかもしれない。

 こんな綺麗なクラスメイトを名前で呼ぶことになるなんて、人生は分からないものだ。


「さて、竜はもういないみたいだが次はどうするんだ?」

「どうしましょうか。今までは私一人でちまちまと狩っていたので全滅させたことはなかったんですよね」


 確かにあの量のモンスターを一人で狩り切るのは骨が折れるだろう。

 ……にしてもまだ秘境の最奥に行ってないというのはそそる情報だな。秘境にはレアアイテムが置いてあることも多いからな。もしかしたら見たことない強武器が秘境のどこかにあるかもしれない。


「探してみるか……って、ん?」


 ウキウキしながら歩いていると、違和感に気づき立ち止まる。

 すると次の瞬間、俺たちを包み込むように大きな影が現れる。雲がかかっただけ、そう考えるのは素人。リアオンにはこのクラスのデカさの生き物が普通にいる……!


「おい気をつけ……」

「きゃあ!」


 俺の注告より早く、怜奈さんの絶叫が峡谷に響き渡る。急ぎ振り返ってみるとそこには身の丈十メートルはある、巨大なドラゴンに捕まった怜奈さんの姿があった。


「くっ、離れない!」

『ルルルルルッ……!』


 怜奈さんを右足の鋭い鉤爪で掴んだその茶褐色のドラゴンは、俺を一瞥すると大きな翼を広げ宙に舞う。そしてそのまま俺を無視して飛び去ってしまった。


「怜奈さんっ!」


 腹から声を出して叫ぶ。彼女はドラゴンに捕まりながらこちらを見て――――優しく笑った。

 自分は大丈夫だと。助けに来なくて大丈夫だと言いたげに。


「馬鹿野郎が……」


 いくらゲームでも、モンスターに襲われるのは怖い。

 痛覚緩和機能ペインアブゾーバーのおかげで大きな痛みこそ感じないが、それでも巨大な生き物に襲われるのはかなりの恐怖体験。


 事実プレイヤーの中にはモンスターに襲われたのがトラウマで引退する者もいる。

 あんな大きなドラゴンに連れ去られるなんて、その恐怖は計り知れない。それなのに彼女は……俺の心配をしていた。


「かっこつけやがって……」


 躊躇わず、右手で着ている服を掴む。そして思い切り腕を引き、そのまま服を引き裂く!

 すると俺の『変装』が解け、服の下から俺の真の姿が現れる。


「待ってろ、今助けに行くからな」


 俺の身を包むのは青き忍装束。疾風はやての如く大地を駆け、旋風の如く悪を薙ぎ倒す『正義の味方』。


 人呼んで“青き疾風”。


 忍者のスキル『忍式変装術』を解除し、偽りの姿から正義の味方へと変身した俺は、既に結構な距離を離れてしまったドラゴンに狙いを定めると、足に力を入れる。


「『三重加速トリプルアクセル』、『軽量肉体ライトボディ』、『重力からの解放(グラビティゼロ)』、『忍式歩法シノビウォーク』……!」


 出し惜しみは無しだ。今装備してる移動系スキルを全て発動した俺は、その一歩を踏み出す!


「参――――るッ!」

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