表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死迫る土地にて  作者: くろな。
3/4

再会、雪山の上。


 何メートル登っただろうか。

間宮の呼吸は早く、酸素ボンベに縋るように息をしていた。

しかしながら、その頂は目前に迫っていた。

天気はあいも変わらず晴天。未だ風が強く吹いてはいるが、頂上へのアタックチャンスは間違いなく今。

これよりも絶好な日は恐らくないだろう。



しかし、間宮は焦りを混ぜた目で周囲を見渡し、挙句にはルートから外れて視界を彷徨わせた。

そしてある一点を見てハッと目を見開いた。


駆け寄りたい衝動を抑え、一歩一歩確実に歩む。





    「約束通り、会いにきたぞ。シマ」



頂上までの巨大な氷壁の根元、大きくへこんでできた小さな空洞に彼、寺島はもたれかかる様に座り込んでいた。



 「お前は必ず、山に戻ってくる」という寺島の予言は、皮肉にも、寺島の死という形で的中した。


歪みそうになる顔をなんとか保ち、寺島に歩み寄って膝をつく。



通常、高山の死体は腐食しない。特に、このデスゾーンの気温は約マイナス35度。家庭用冷凍庫よりも低い温度のせいで、死体はすぐに冷凍保存状態に入るからだ。

寺島もその例に漏れず、氷に閉じ込められていた。

その姿は似せて作られた蝋人形のようで、間宮は未だ実感を持たずにいた。


程よく細い輪郭にはもはや体温は残っておらず、長いまつ毛は氷の粒で飾られている。整った顔貌は五年前と何も変わっていなかった。



どこかで思っていた。死んだなど本当は嘘で、その内いつものようにひょっこり現れて今度はどこの山に登るだのしつこく構ってくるものだと。

目の前の死体は実は冗談で、「やっと戻ってきたか!」なんて飛び起きてくるものだと。


しかし、目の前には寺島の死という現実だけが、どこか遠く存在していた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ