再会、雪山の上。
何メートル登っただろうか。
間宮の呼吸は早く、酸素ボンベに縋るように息をしていた。
しかしながら、その頂は目前に迫っていた。
天気はあいも変わらず晴天。未だ風が強く吹いてはいるが、頂上へのアタックチャンスは間違いなく今。
これよりも絶好な日は恐らくないだろう。
しかし、間宮は焦りを混ぜた目で周囲を見渡し、挙句にはルートから外れて視界を彷徨わせた。
そしてある一点を見てハッと目を見開いた。
駆け寄りたい衝動を抑え、一歩一歩確実に歩む。
「約束通り、会いにきたぞ。シマ」
頂上までの巨大な氷壁の根元、大きくへこんでできた小さな空洞に彼、寺島はもたれかかる様に座り込んでいた。
「お前は必ず、山に戻ってくる」という寺島の予言は、皮肉にも、寺島の死という形で的中した。
歪みそうになる顔をなんとか保ち、寺島に歩み寄って膝をつく。
通常、高山の死体は腐食しない。特に、このデスゾーンの気温は約マイナス35度。家庭用冷凍庫よりも低い温度のせいで、死体はすぐに冷凍保存状態に入るからだ。
寺島もその例に漏れず、氷に閉じ込められていた。
その姿は似せて作られた蝋人形のようで、間宮は未だ実感を持たずにいた。
程よく細い輪郭にはもはや体温は残っておらず、長いまつ毛は氷の粒で飾られている。整った顔貌は五年前と何も変わっていなかった。
どこかで思っていた。死んだなど本当は嘘で、その内いつものようにひょっこり現れて今度はどこの山に登るだのしつこく構ってくるものだと。
目の前の死体は実は冗談で、「やっと戻ってきたか!」なんて飛び起きてくるものだと。
しかし、目の前には寺島の死という現実だけが、どこか遠く存在していた。