1章4話 Kenneth Forester, the founder of AGARHTA Gateway.
「ハル、今忙しいかい? 君に聞きたい事があるんだよ」
声を弾ませながら遼生の所属するラボに入ってきたのはケネス、最近知り合い親交のある研究仲間である。
ダークブラウンの毛と瞳の、人懐っこい白人青年だ。
テクニシャンが別の部屋にいるので室内には遼生だけだった。
白衣を着たバイオ系の遼生とは違い、理論系のケネスはラフないでたちである。
ハルオというのは英語圏では呼びにくいのだそうで、遼生はハルという愛称で呼ばれることが多い。
ちなみにケネスの愛称は、何の変哲もなくケニーといった。
ケネスは理論演算と人工知能の研究に取り組む優秀な若手研究者だ。
遼生は恒に頼まれたゲノム創薬のタスクを端末上で複数走らせていたが、思いがけない来客で自動設計に切り替えて作業の手は止める。
話をしながら作業をしていると、ミスを頻発してろくなことにならない。
最近、ケネスはよく遼生のラボを訪れ親しく交流していたが、何かと遼生の研究に首を突っ込みたがり、二言目には共同研究をしようと持ちかけるのが常だった。
分野が違うので共同研究も何もないと思うのだが、ケネスには何やら研究のビジョンがあるらしい。
今日もその交渉なのかと思いきや、訊きたいことがあるときた。
遼生は学部と大学院を首席で卒業し周囲に一目おかれていたうえ、莫大なサイエンスグラントと、複数の企業と個人で契約した研究費を持っていて目立つ存在ではあった。
一方、ケネスは遼生に勝るとも劣らぬ優秀な人材ではあるものの、まだ目立った業績を上げていないため研究資金の調達に苦労しているのだそうだ。
このところ、夜になるとたまに二人でバーに飲みに行っては、ケネスの愚痴を聞いていた遼生である。ケネスの性格は情熱的でユーモアに溢れ、野心家でもあった。
「やあ、また新しい発明でもしたのかい? 君の頭脳はアイデアの宝庫だね」
「よせよ、ハルほどじゃないさ。君が去年の間にいくつ論文を書き特許を取ったか、僕は数えては悔しがっているんだよ」
そうは言うものの冗談めかした口調で、ケネスはパイプ椅子に腰をかけ大らかに笑う。僻んでいるわけではない、ケネスの研究も確固とした成果の手応えを感じている。
「君ももうすぐ大きな仕事が完成しそうじゃないか」
ケネスの研究成果が世に出れば、かなりのインパクトを与えるであろうことは必至だ。
「で、何 聞きたいことって」
「それなんだけど、マインドスキャナで君の記憶を撮っただろう? 分析結果が出たんだよ、まずそれを話そう。結果は僕しか見てないから安心してくれ」
「お、それは楽しみだな」
ケネスの発明というのは、マインドスキャナという脳の海馬の活動パターンを分析し脳記憶の読み取りを可能とする装置だ。
従来のようにfMRIを用いた記憶読み取り技術は装置が大型なうえに、詳細な記憶の読み取りは不可能で、とても実用に耐えるものではなかった。
しかし彼は画期的ブレイクスルーと新しいアルゴリズム、新規の観測系によってヘルメット型の記憶読み取り装置、読み出しソフトウェアを開発し、迅速に詳細な記憶をスキャンできる実用的なものを実現した。
ケネスはマインドスキャナの実証テストの為に大学で数十人のボランティアを募り、遼生も「人数が足りないから」と誘われテストを受けた。
テストは30分ほどの簡単なもので、質問者の質問に答えながらマインドスキャナで脳に浮かんだ答えのイメージを読み取るというものだ。
その解析結果が出たので持ってきたという。
マインドスキャナの解析プログラムはデータが膨大となるうえケネスの微調整が必要なため、スキャンから解析までには数日の時間がかかったという。
スキャンされた記憶は、個人情報保護の観点に基づいて匿名で保護、分析されるとのことだった。
「君、過去にとてもエキサイティングで非日常的な経験をしただろう」
「随分と漠然としているけど、何のことだい?」
「本当は分かってるはずだ」
ケネスは遼生の機嫌を損ねたくはないらしく、雑談を交えながらのらりくらりとして詳しい内容には触れてこない。
暫く話を聞いてみると、ケネスは奥歯にものがはさまったような物言いではあるが、どうやら遼生の少年期の記憶に興味があるらしかった。
過去の記憶。
それは遼生が触れられては不味い部分であり、ケネスが事前に説明を怠っていた部分であった。
ケネスは被験者にマインドスキャナの性能について全て明かしておく義務があったはずだ。
「だいたい、マインドスキャナで過去を読み取れるものなのか? そういう説明は受けていなかったな。僕が聞いていたのは、カレントな記憶の読み取りだと――」
「勿論、そういうつもりはなかったんだよ。マインドスキャナはある程度過去の記憶の読み取りは可能だが、誓ってそんなことはしていない。でも君の記憶の書き込み度はカレントなものより過去のそれの方がシグナルが強かったんだ。だから過去の記憶の方が優先的に引っかかった。僕は知らずに解析した、知っていたら犯罪だ」
ケネスに悪気は全くといってなさそうだ。
記憶の覗き見が可能だとしたら、一体合衆国の何の法令に反するのかは分からないが、少なくともプライバシーの侵害にはあたるだろう。
「もしよければ真相を教えてくれ。マインドスキャナの性能の改善に役立つからね。特に、君の少年時の記憶について聞いてみたい。例えば、そう、君が人間ではなかった頃のことなど」
じっ、と遼生の瞳の奥を覗きこまれる。
まるで看破をかけられているように錯覚した。
「君ががっかりすることを教えようか?」
遼生はケネスにいたずらっぽく微笑みかける。これ以上、踏み込ませてはならない。絶対にだ。
「思春期特有の妄想だよ、そのことを言ってるのかな。そんなものまで読みとられてしまうなんて、恥ずかしいじゃないか」
照れくさそうに笑う遼生に、彼は冷たい水を浴びせるような口調で真面目な顔つきで尋ねるのだった。
「妄想じゃなくて事実なんじゃないか? それ」
何の根拠があって、ケネスは決めてかかっているのだろう。
彼がマインドスキャナから何の映像を読んだのか。
引っかかりを覚えた遼生は水面下での探り合いを放棄しケネスに看破をかける。
ケネスの得たマインドスキャナの分析結果を知ったとき、彼は人工的な記憶看破は遂にここまできたのかと驚愕した。
暴かれた……遼生の過去が――。
マインドスキャンを受けた時、遼生のマインドギャップは問題なく機能していたはずだが、それでもなお心層を透過して過去を暴かれたということだ。
マインドギャップは既知の分析機器の看破原理には対応できていた。
ということは、従来型とは全く異なる測定原理の装置をケネスは創り上げたということなのだろう。
遼生が予想だにできなかったケネスのブレイクスルーは、革新的なものだ。
恐ろしいほどに。
たじろいだ遼生を研究者のまなざしで注意深く観察していたケネスは、確信を得ているようだった。
「で、どうなんだい?」
”過去の看破は、マインドブレイクでも難しい筈なんだけどな。僕の記憶のシグナルが強かったというが、やってしまったのか。本物の天才なんだね、ケニーは”
妄想だと誤魔化すことにも失敗すれば、あとはもう遼生に使える言い訳はない。
ケニー、君は疲れてるんだよ。そんな中途半端な返しはケネスをますます悦ばせる結果になるだろう。
ケネスの態度は、彼がマインドスキャナで読み取った遼生の記憶データの正確性に、絶対の自信を持っているということを示していた。
遼生は今となってはマインドイレースを使えないことを悔しくもどかしく思う。
「もっと踏み込んで聞いてもいいか? INVISIBLEって何だ? 世界は12年前に生まれ変わったってどういう意味だ?」
ケネスの放った言葉の一撃が、クリティカルに遼生を打ちのめした。
形式的に疑問形ではあったが、ほぼ断定ともいえる訊ね方だ。
もはや十分だった。
「折角だから、これを見せたい。君のプライバシーについては、ごめんよ」
ケネスはデータの入った小型のシート型モバイルを持ち出してきていて、混乱から立ち直れない遼生に手渡した。
再生をかけると、断片映像ながらかなり鮮明なフルカラーのデジタル映像が流れ始めた、1シーンが1分程度。
数十カットにもわたる遼生の過去が、あまりにも赤裸々に切り取られていた。
植物状態だった頃の記憶、神階の風景や神々の姿、神具の存在やセウルとの遣り取り。
レイアの消滅、恒とのこと。
宇宙が再生を果たした、忘れがたきあの日のこと。
遼生がこれまで何度となく助けられていた彼の写真記憶が、仇となったのだ。
「断片映像は再生できた、でも情報が少なくて僕にはそのストーリーの全容は分からない。聞きたいのはそれだ、妄想じゃこういうデータにはならないんだ。鮮明だろう? 全87サンプルのうち、君の記憶の鮮明度がチャンピオンデータだと先に言っておくよ」
ここ数週間の間に、何故か遼生に急接近してきたケネスという天才を侮ってはならなかったのかもしれない。
ケネスとは親しくなり、随分とフランクな話も日本での経験や家族の話もしてしまった。
所詮は人間相手だ。
警戒をしていなかったしする必要もなかったのでマインドブレイクをかけたこともなかった。
遼生はマインドスキャンを受けるべきではなかったのだ。
この時代の人間の創作する装置を、まだ前時代的で稚拙なものと侮っていたのは遼生に落ち度がある。
ケネスは緻密な計算のもとに遼生に近づいてきていたのか、はたまた何か運命の巡り合わせなのか。
「目つきが変わったな、君。顔色も悪いぞ」
とっくにやり込められていたのだ。
彼が遼生にマインドスキャナを受けさせた時から。
馬鹿正直に生きてきた遼生は、舌先三寸で器用に立ち回る恒と違って相手を傷つけない嘘をつくのが苦手だ。
言い訳じみた弁解でしどろもどろにならないうちに、ケネスを追い返すことに決めた。
彼は上手だ、一枚も二枚も。
彼の好奇心をはぐらかすすべを、遼生は知らない。遼生はモバイルの映像を閉じた。
「世界5分前仮説ならぬ、世界12年前仮説か? 興味深いね。でもケニー、マインドスキャナについてはとても印象的だが少し改良が必要なんじゃないかな。妄想を事実として拾ってるからね」
「ある意味で発表できないデータであることには変わりないよ、でも妄想じゃない」
ケネスが同意しつつ、ぴしゃりと線引きをする。
「そして悪いんだけど今からやらなければいけない実験があるんだ、忙しくてね。過去の妄想と付き合う時間が惜しい。あの頃僕は病んでいた、現実と空想の境がつかなくなっていたに違いないよ……。だから思い出したくない」
「構わないよ、実験をしてくれ。どうぞごゆっくり。邪魔だというなら外で時間をつぶして待ってる。いくら待ったって時間は惜しくないよ」
「いやにエキサイトしてるんだねえ……」
話を続けたくて仕方がない、という表情のケネスに遼生は閉口する。洗いざらい喋るつもりはさらさらない、それどころか、何にも先駆けて恒からの頼まれごとを優先しなければならなかった。
どうしたものかと遼生が言葉を選んでいると、ケネスは興奮がひと段落してきたのか真顔になった。
「残念ながら、もう一度言うけどマインドスキャナは過去の記憶と妄想の区別ぐらい判別できるんだ、ハル。それに君の記憶の中で出会った人は調べたところ実在している、だから僕は興味深い、君が過去に一体何を体験したのかと思ってね」
確かに、遼生の体験が事実だというなら、遼生の記憶はケネスを惹きつけてやまないだろう。
この宇宙はかつて未来人たちによって管理されていた。
未来人たちは自らの手で生み出した暴走機械に翻弄されていた。
極めつけに遠未来からやってきた最後の人類、INVISIBLEによって世界は12年前にリセットされ、再び世界は未来からの襲来者の脅威に曝されている。
少しでも冷静に考えようものなら、出来の悪い空想話でしかない。
誰一人真面目に耳を傾けようとする者はないだろう。
「とても事実だとは思えない、まるでファンタジーだよ。なのに事実だ、面白いのさ。この矛盾をどう説明する?」
ケネスは少年のように無邪気で柔軟な考えの持ち主らしい。
「簡単さ、どちらかが真実ではないんだよ。君は僕の認知機能に問題があった、とは考えなかったのかい?」
遼生はくいさがってみる。
「よせよハル。君の認知機能に問題があれば、マインドスキャナが真っ先に捉えてるじゃないか。まあ異常といえば気になる点はあるよ、君の視床下部は異様に発達して強いシグナルを放っている。でもそれは君の知能の高さに直結してこそいても、決して妄想や病気じゃない」
マインドスキャナを診断に使う、そういう考え方もあるか。
脳に異常があれば診断はプログラムを走らせるだけで自動的につくのだ。
そしてケネスは異常がみられた時点で遼生という被験者を不適切なサンプルとして弾いていただろう。
ところでマインドスキャナではアトモスフィア産生機構を読み取れなかったのだな、と遼生は安堵する。
「僕が空想だと言っているのに、何故と問い詰められても困る」
「君の見たワンダーワールドを再現し、僕もこの目で見てみたい。無限のイマジネーションを解き放ち、それを現実のものとして手に入れてみたいんだ」
ラボの中の静寂が痛いほどになってきたとき、救いの神から運よく遼生のモバイルに通信が入ってきた。
赤く明滅していることからケネスにも着信があったことは分かるため、気を利かせて席を外そうとする。まさに助け舟だ。
「ちょっとスタバでコーヒーを買ってこようかな。君は?」
「ありがとう、ソイラテをグランデで」
ラボの扉を半開きにしたところで、ケネスは振り返る。
「そのデータ、コピー取って構わないよ。君の記憶だからな。見返して思い出に浸るのもいい。何か思い出したら、教えてくれ」
ケネスがドアを閉じて席を外すと、恒の立姿がデスクのフラットモニタ上に乗る。
恒から見える遼生がドアのある方向を見て呆然としているので、恒は事情を察して悪びれ、
『もしかして来客だった? 悪かったね、連絡しなおすよ』
「人生最大の失態だ……しくじったよ」
そうは言いつつもケネスのモバイルから先ほどのデータを取得し、自らのモバイルに移す。
『そんなに落ち込まなくても、また考えればいいんだし。ユージーン先生もいるからこっちもこっちでやってるし』
恒は忙しい遼生がドラッグデザインをしくじったとばかり思っているらしく、見当はずれの励ましをくれる。
後で連絡をしなおしたほうがいいのかもしれないが、遼生は切りだした。
「そうじゃないんだ」
研究所からケネスの向かうであろうコーヒーショップまで、このラボから徒歩で五分程度かかる。
コーヒーを注文し、戻ってくるのに最低でも十分。
遼生はケネスがすぐには戻ってこないであろうと見越し、恒にありのままこの場所で起こった出来事を伝えたのだった。
遼生の話を聞きながらも淀みなく立体モニタのオブジェクトを操作し会話を続けていた恒の動作が凍りついたのが、モニタ越しにもよく分かった。
事態の重さを知り、ユージーンも手を休める。
レイアも両手で口元を抑えて目を見開いていた。
『マインドブレイクは技術的にはもうすぐだと思っていたけど。それより、どこまで深く読まれたのかなあ……』
「浅く部分的にだよ、映像データと、僕がケネスを看破した限りでは。そっちに今、データを送る」
看破するか、されるか。
それはかつての神々にとって命のやり取りと同じものだった。
平和ボケしていた遼生にはなかなか懐かしい駆け引きではある。
神階では、相手に手の内を読まれることが最も自らを不利な立場に追い込むことになる。
心を読まれたものが、戦わずして敗北を喫するのだ。
『読まれた記憶の中に、EVE(仮想死後世界)の情報は入っていた?』
「なかったよ、有る筈がない。概念はともかく僕はEVEの世界を見たことがないからね」
EVEの世界に行くことができるのは基本的には死んだ人間のみだ。
特例として陽階枢軸神であったユージーンや死神であった織図、メファイストフェレスぐらいのものだ。
遼生は確かに一度死にセウルの体液で蘇ったが、EVEへのダイヴは一度たりともしていない。
それよりEVEもそうだが、ケネスに核心部分である遼生の正体やINVISIBLEをストレートに知られているのがまずいと遼生は思うのだが、恒はケネスにINVISIBLEを知られたことより、仮想死後世界という概念を知られてしまったことの方を気にしている様子だ。
時刻を気にする。
ケネスが戻るまであと、五分少々だ。
恒は端末上で遼生の記憶データを受け取り、開封しているようだった。
『遼生くん私の声が聞こえるか? マインドスキャナの装置のサイズって、どのくらいだ?』
ユージーンが思いついたように尋ねる。
「おおよそですがヘルメット大です」
『そう、それはとても薄くできるんだね。……なら彼から手渡されるものすべてに警戒をしたほうがいい。ペン一本、ピルの一錠に至るまで、マインドスキャナが搭載されているかもしれないよ』
彼にそう指摘されて、遼生はぎくりとした。
ケネスを疑いたくはないが、コーヒーを受け取る前に看破をかけた方がよさそうだ。
「気を付けます。そこまで小型化できるとは思いませんが」
恒はユージーンの質問とは別に、腕組みをして遼生の記憶データを見ながら、何かを深刻に考え込んでいる様子だった。
『気になることがあるんだけど、その人のファミリーネームって何?』
「Kenneth Foresterだよ」
恒とレイアが顔を見合わせた。
二人とも気の抜けたように揃ってぽかんと口が開いていた。
「何、どうしたの恒、レイア?」
『そこにいたのか、プロフェッサー・フォレスターは』
Kenneth Forester、それは恒の未来視の中の仮想死後世界アガルタ創始者の名に他ならなかった。
遼生との出会いもまた、未来世界を揺るがす一つの重要なピースとなっていたのだ。
”まさか、この世界にいるべきではない僕がアガルタ設立に一枚噛んでしまったっていうのか……”
セウルに引き続き……遼生までもが飲み込まれていたとは。
「マインドイレースが使えたらなあ……試してみようかな」
遼生は痛切にそう思う。
人間になってからというもの、まだ真面目に遼生はマインドイレースを試していない。
もし何らかの方法でマインドイレースがかけられるのなら。
セウルの時とは違って、それだけで時を戻せるのだ。
『荻号さんなら使えるけど、フォレスターの記憶を消してもいいんだろうか』
「どういうこと? INVISIBLEのことまで知られてしまったんだ、放っておけるわけがない」
『ずっと不思議に思ってたんだ。一体誰が、アガルタの中に神具や神々という概念を造ったんだろうってことを。このまま時間がすすめば、兄さんってことになるけど。俺たちが存在しなかった正史では、それは一体誰だったんだろう?』
何故、神階でお馴染みの神具がアガルタの中に存在していたのだろう。
どこからきたアイデアなのか、恒はINVISIBLEの見せた未来視の中の映像に、時代を錯誤した不自然な事実が多すぎることに納得がいかなかったものだ。
未来が過去に、過去が未来に影響し因果が複雑に絡まり合ってしまっている。
これからどうなるものか。
遼生の記憶を垣間見たフォレスターが神具を模して仮想世界の中で実現してしまうかもしれない。
しかし、もしかしたらと思う事が恒にはあった。
神具と仮想死後世界、これらのアイデアにもともと神々からの影響はなくて、あるいは。
それらは全て天才クリエイター、ケネス・フォレスターのイマジネーションの産物だったとしたら。
『神階という世界を発案したのは、フォレスターだったんじゃないのかな。けど、例えばそれを思いつく前に兄さんに出会ってしまったとか』
――君の見たワンダーワールドを再現し、僕もこの目で見てみたい。
ケネスの言葉が、遼生の耳にこびりついて離れない。
遼生は逆算してしまった。
仮想死後世界アガルタ開設までは、残すところあと95年――。




