1章10話 Explore Central States.
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荻号の家で一通りの説明を終えた第四の創世者は、帰宅の準備を始めた。
「さて、皐月さんが起きたので今日は帰りますね。お茶、ごちそうさまでした」
「帰るんかーい!」
織図が軽快につっこんでいた。
「皆さんも、これより日常生活に戻っていただいて構いません。先ほどの話は、基本的にはあまりこちら側で話したり記録に残したりしないでください。何者かが聞いているかもしれませんので」
「逆に言うとセントラルは安全な空間ですか?」
「あそこはゼロすら不干渉の世界だよ」
恒の質問に、恐ろしい答えが返ってきた。
「何か聞きたいことがあれば、セントラルには常駐していますのでそちらで話してください。尚人、小春、お片付けはした? 荻号さんに遊んでいただいたらよくお礼を言いなさい」
「はーい」
さて今日の仕事は終わったとばかりに子供たちを連れて帰宅してしまったユージーンをみていると、恒は混乱してしまう。彼は日常生活を続けながら創世者をやっている。
快適なライフワークバランスを保っているのだろうが。
「荻号さんはどうしますか?」
「飯食ったらすぐ行くかな。暇だし」
やっぱりか、と恒は納得する。
「第四の創世者は僕たちを手駒にするつもりがあると……俺たち、何か彼の役にたつっけ?」
「例えば戦わないって言って一度もセントラルに行かなければ、それで済むものなのかしら」
「いや、作戦に加わることになるから呼び出されたんだと思うよ。自由意志で参加するように仕向けられる。何もかも全て彼の手の内だ」
遼生とレイアが唸っている。レイアは逃げ腰だ。
恒も悩ましく思う。
先ほど呼ばれたメンバーを思い出すに、旧XXの神は呼ばれていなかった。
文型神は力量不足で必要ないという解釈なのだろうか。
「だったら、トレーニングはしておきたいな」
「皆さんが集まっているうちに、セントラルに行ってみませんか?」
恒が提案する。一年以内に呼ばれるということは、トレーニングをしておかなければならない。
ほかの神々に任せることはできるが、任せきりにもできない。
「いいね。そう休みも取れないし、行き方も含めて全員で確認しておきたい」
「私はまだ春休みだけど……皆で行くのは賛成」
遼生とレイアも同意した。
「せーので行ってもお前ら陽階で、俺らは陰階なんだろ?」
織図があくびをしている。
それもそうかということで、とりあえず三人で偵察に行くことにした。
「セウルさんは陽階ですよね。どうされますか?」
「私は一度帰宅してから行くよ、所用があってね。ではセントラルで会おう」
そう言い残して、セウルは転移で消えてしまった。
『コード2 陽階神 藤堂 恒より中央神階へ入階申請』
三人は同時にシステムを使ってみる。
個神認証の光を受けると、新たな神階、正式には中央神階(Central States)本部へと転移した。
独特の浮遊感もなく、ただ景色が切り替わるような軽い入りで転移は完了した。
「きた……」
中央神階へ入るとインフォメーションボードが立ち上がり、自動案内が開始された。
【位置情報: Central States 陽階第3区画 エントランス】
だだっぴろい、石造りのホールのような場所だ。
造形は異なっていたが、そこはかつての神階を思わせた。
「同じ場所に来たね」
「同時に同じ場所で申請すると、同じ場所に同時に来る、ってことでいいのね」
遼生とレイアも現れた。
「織図さんと荻号さんは陰階に飛んだんだろうな」
全員所属が陽階神なので、陽階に飛ばされている。
説明を見ていると、セントラルに召喚されている間は帰属世界で時間が進まず、帰属時空に戻るときは同刻に戻ると書いてある。最大50日連続で滞在できるそうだ。
何時間召喚されていたところで、時間経過はないとのこと。
「つまり荻号さんの家に戻るんだね」
「いろいろ情報が出てるね、各自確認してみよう」
【基本情報】
名前:藤堂 恒
年齢:24
絶対力量:2312
Mind Gap:10
Physical Gap:3
陽階順位: 11180/11201位
全体順位: 24468/24540位
技能:飛翔術・Mind Break・Mind Gap・Mind Control
特殊技能:全神具適合
アトモスフィア:樗色
居住区: 陽階第26区画136号室
(いや、当然だけどこれ最下位に近い順位だな)
12年ぶりに自分のステータスを見た恒は、この12年の通知表を見た思いだ。
中央神階では位神戦などはなく、ポテンシャルをもとに機械的に順位をつけていくと言われていた。第四の創世者が各自を直接観測しているため、神体測定なども必要ない。
絶対力量はかつてフィジカルレベルと呼ばれていたが、より正確な補正値となっている。
ありのままの結果を見せつけられている。
「順位見てへこんだ」
「僕も……昔は極位とれるぐらいいってたと思うんだけど、このステータスじゃあねえ。ゴミかな?」
「お互い、順位は聞かないことにしようね……このご時世、他人と比較するのはよくないよ。ほら、多様性っていうじゃない! 弱いのだって個性!」
遼生は自虐し、レイアは開き直っている。
いくら2023年の人間社会が多様性を尊重する社会だとはいっても、ほかの神々は激しい競争の中、厳しい格付けのもとに自由を制限されながら生きている。
平和ボケしているのはこの三人ぐらいだ。
「まあこうなるよな、俺たちだけが人類だからな」
「順位、相手にはわかんないんだっけ」
「格下だとは分かるでしょ」
「マインドギャップだけは減ってなかったな」
三兄妹は戦ってもいないのにボロ負けした負け犬の気分だ。
「まあそれは後で真剣に考えるとして。宿舎みたいなのがあるんだね。部屋を見に行ってみない?」
「行こう!」
「俺は陽階第26区画136号室って出てるけど」
「僕は137号室だよ」
「私は138号室。連番になってるね」
「よかった、三人は近くにしてもらえたんだね。あれ、このコンシェルジュってなんだろ」
「押してみる?」
「押しちゃえ」
三人はわちゃわちゃしながらそれぞれボタンを押す。
『何かお困りですか?』
「うおっ!」
女性型インターフェイスが恒の前に現れた。
銀髪に紫の瞳の、清楚で白い制服を着た美しい少女だ。目を奪われるほどの美貌の持ち主だが、生気を感じず、周囲に光を纏っている。彼女は恒と目が合うと一礼する。
『お待ちしておりました。中央神階・陽階へようこそ、陽階神 藤堂 恒様。専属コンシェルジュのセシルです。ご用がありましたら、何なりとお申し付けください』
「よろしくお願いします。セシルさんはA.I.ですか」
『はい。外見、声、名前、性別、服装等はお好みに変更することができますが』
「その容姿はあなたが決めたんですか?」
『私が決めました』
「ではそれで大丈夫です、その姿でいてください」
恒はA.I.とはいえ人格を尊重する。
以前の神階のシステムでは、位神はアトモスフィアの供給と引き換えに、身の回りの世話をする使徒を擁して使役していた。その流れを汲むのだろうが、第四の創世者は模造生命などの不幸な存在を創らず、A.I.で対応しているのだろう。
特に恒も遼生もVible Smithの模造生命であり、所有物として虐げられていたため、上司の倫理観を感じられるのはありがたい。
「宿舎に行きたいのですが、ルート案内をお願いします」
『かしこまりました』
遼生には女性型、レイアには男性型コンシェルジュがついていたそうだが、他神のものは見えないように設定されている。
「ルイスくん、顔がいい。尊い。これなら毎日でもセントラルに来ちゃう。やる気も出る。QOLのために大事だと思う」
レイアは自分のコンシェルジュを色々と自分好みに設定しなおして満足していた。
「生身の彼氏がいるのに?」
設定変更をしなかった遼生がレイアに尋ねる。
「大智くんには神階のこと話せないから。遼生さんだって、絶対かわいい子に変更したんでしょ。このドスケベ!」
「やだなー濡れ衣は。面倒だからデフォルトのままだよ」
まあ、それぞれの考えもあるだろうし、好きにやってほしい。恒はそう思う。
「てかレイアに彼氏いたんだ」
「理学部3年の大智くん。モデルやっててかっこいいの。先月、友達の紹介で付き合って2回目のデートで告られたんだ。写真見る?」
恒はそっちの方がショックだ。
女神級の美貌を持つレイアがモテるのは当然だった。
「詳細情報いらないよ。一般人と付き合うなら節度を持って付き合いなよ」
「わかってるよ。宿舎いこ!」
「まさか徒歩で行くのか?」
目的地に効率的に到着できるよう、それぞれのコンシェルジュには転移ナビゲートシステムというものが実装されていた。気を取り直して三人は転移サークルに入って宿舎に転移する。
「じゃあ、恒の部屋から入ってみよう」
『藤堂様、開錠前にルームテイストを選択してください』
セシルが恒の希望を聞いてくる。
「ルームテイスト?」
インフォメーションボード上の選択肢をみると、ラグジュアリーホテルやアジアンリゾートテイスト、高級旅館など世界各地のホテルやリゾートを模したものがある。
「さすがは亜空間。何でもありだな」
「いやーここに泊まれるの? もう第四の創世者様に忠誠誓うしかないなー。持つべきものはセンスのいい上司よねー」
レイアが乙女心を鷲掴みにされていた。確かに、以前の神階はどことなくデザインが古めかしかったが、中央神階は現代的、近未来的でスタイリッシュなデザインの部屋も多い。
「たしかユージーンさん、米国のアーキテクト(公認建築家)やデザイナーの資格も持ってるでしょ」
「あれだけ資格持ってて小学校教師しか使ってないの勿体ないないよね」
恒はユージーンが資格マニアだったことを思い出す。
どの資格も、軍神として生物階滞在中にささっと大学に通い正規の教育課程で簡単にとってしまったらしいが、恒も遼生もレイアも生物階に常駐していたのに真似できなかった。
何故そんなにと聞いたこともあるが、諜報活動に役立つから職務上の必要性があった、と言っていた。
モダンリゾートテイストの部屋を選んで、三兄妹はリゾート気分に浸る。
「一生に一度の贅沢旅行に来たみたいだ。最高のオーシャンビューだし、プライベートビーチまである」
「ここでぐーたらしながら作戦に参加しなければいいんじゃない?」
レイアはくつろぎすぎてベッドで流体化している。
遼生は目の前のビーチで泳ぎ始めた。
恒は冷蔵庫のシャンパンと、テーブルに用意されたオードブルをいただく。
一通り施設を堪能したところで、遼生がわれにかえる。
「うーん、こんな設備を利用だけしておいて貢献しないとか許されるかなあ。神階って無能は資源の無駄だから殺すみたいな世界だったじゃん」
「間違ってない。でもここはNo-bodyの世界じゃないから」
「だけど私、ほぼ最下位に近かったよ。何も戦力にならないよ」
「待って」
三人が思い思いにゴロゴロしていると、遼生がインフォメーションボードを二度見する。
「さっきより順位が下がってる」
「ええ……私もだ。相対評価だから、ほかの神々の順位が上がってるんじゃないの?」
何もしなければ、そのうち本当に最下位になる。
「これ、最下位になったらどうなるんだっけ」
「どうもならない。トレーニングルームの優先権がなくなるだけ、罰則もない。肩身は狭くなるし発言権もたぶんないけど」
恒は覚えていることを思い出す。ついでに、セシルにも確認するが、本当に罰則は何もない。
「よしわかった。このまま役立たずでぐーたらしてるくらいなら、神に戻してもらうしかないな。生物階に与える影響も皆無、死んでも復活できる。ノーリスクなのにリスクを怖がるのは愚かだ」
遼生は遂にストイックな世界に戻る決断をした。
「それに、あの頃のどんな無茶もできていた感覚が懐かしくないかと言われると嘘になる」
「懐かしくないよ……」
「私はもう痛いのも辛いのもいや」
遼生とは異なり、恒とレイアは神に戻りたいとは思わない。
普通に生きたいというのが夢だった。
「でも、第四の創世者が僕たちにも協力してほしいと思っているのは確かなんだ。彼は直接αθάνατοを攻撃することができないから。それなのに君たちは設備だけ使って怠惰にしているのかい?」
遼生は罪悪感を抉るような笑顔で畳みかける。
そう言われると、恒もレイアも心苦しくなる。
「僕は戻ってもいいと思っているから、神に戻るよ。どうやってお会いできるんだっけ。作戦本部に行くか、インフォメーションボードで謁見予約でもとるのかな」
遼生がインフォメーションボードをいじっていると、まさに会いに行こうとしていた人物が現れた。
「呼んだ?」
恒は座っていた椅子から転げ落ちそうになった。
レイアは飛び起きてベッドの上に正座した。
遼生はびくっとなったがすぐ正式な作法で一礼する。
「インターホンを鳴らしてくればよかったね」
ユージーンの姿をした第四の創世者は広々としたソファにかける。
どうすればよいものかと思いながらも、恒と遼生は直立不動、レイアは正座だ。
「すみません。まさか本当にいらっしゃるとは思わなくて」
「何か悩んでいるみたいだけど、個人面談が必要かな?」
遼生が即答する。
「αθάνατοへの攻撃に参加するために、元の状態に戻していただけますか?」
「いいよ」
ユージーンの姿を保ち、薄く微笑を浮かべる第四の創世者の表情からは何もうかがえない。
先ほど荻号の家で会った彼とは少し違う。
近未来的なローブを着ているからか、少しクールに見えた。地球で人として子供たちと接する時と中央神階のトップとして君臨する時では、表情や態度、言葉遣いを使い分けている。物腰は穏やかだが、目は笑っていないし恒たちと馴れ合わない。
「俺もお願いします」
「恒くんはまだ迷っているみたいだけど」
彼の前で隠し事は意味がない。
「兄のいう通り、失うものがなければ躊躇する必要はないです。ただ、こちらに参加している時に限り、という条件でお願いできますか」
「地球に戻れば人に戻れる。志帆梨さんのことも心配だろうしね」
「ありがとうございます」
最後にレイアに視線が向けられたので、レイアは肩をすくめる。
「私はもう少し考えてもいいですか」
「いいよ、もちろん。強制ではないから気にしないで」
「うう……そのお言葉、真に受けていいやつですか?」
レイアは裏読みをしすぎて怖がっている。
「こういうのは自由意志でないと意味がない。では遼生くんと恒くんはどうするかな、君たちには“基準となる状態”がない。12年前の君たちがそのまま成長し続けたはずの状態、にするのが自然かな。こういう感じにしてほしい、というのはある?」
聞き方が美容師みたいだな、という感想が出てくる。レイアがはっと気づいて質問する。
「それ以上に強化することもできるんですか?」
「できるけど、バランスが不安定になるから段階を踏んでね」
第四の創世者は二人の希望を聞くと、二人の額に手をかざす。
「楽にしていて、すぐ終わるから」
「心の準備をするのでNumerical Rating Scale(NRS)とかで教えてもらっていいですか?」
「NRS、VAS、VRS、FPSすべて0だよ」
「ごめん、翻訳して」
二人の医師の問答に、遼生はついていけない。
要するに、痛みは全くないと言っている。
『暗号解除』
夢を見ているような不思議な感覚を味わう。
気が付くと、恒と遼生は二人でベッドに横たわっていた。
どれほど時間が経ったかと思うが、レイアが傍についていた。
「遼生さん、恒さん、大丈夫だった?」
「なんともない、寝てただけだ」
「俺も……」
「二人とも、ステータスを確認してみて」
第四の創世者は海を見ながら背を向けたまま二人に声をかける。
【基本情報】
名前:藤堂 恒
年齢:24
絶対力量: 69,932,312
Mind Gap: 35
Physical Gap: 253
陽階順位: 8/11201位
全体順位: 18/24540位
技能:飛翔術、追跡転移、超空間追跡転移、Mind Break、Mind Gap、Mind Control
特殊技能: 全神具適合
アトモスフィア: 樗色
居住区: 陽階第26区画136号室
「は?」
と恒が言ったので、恒の許可を得て遼生も恒のステータスを覗き見る。
「すごい。でも僕もなかなかだよ」
【基本情報】
名前:八雲 遼生 / Issac Smith
年齢:29
絶対力量: 71,045,193
Mind Gap: 34
Physical Gap: 330
陽階順位: 7/11201位
全体順位: 17/24540位
技能:飛翔術、追跡転移、超空間追跡転移、Mind Break、Mind Gap、Mind Control、MRI、生体構築、Frame Trap
特殊技能: 全神具適合
アトモスフィア: 碧色
居住区: 陽階第26区画137号室
「ちょっと体を動かしてみたくなるね」
遼生はテンションが上がってきたらしく肩を回している。
「人間社会でトレーニングも何もしていなかったのにこんな強くなるもんですか?」
恒は何が起こったのかと第四の創世者に問いただす。
「神体の体力、運動能力的ピークは100歳だからね。まだまだ成長の余地があるんだよ」
最終的にどうなってしまうのか、わがことながら末恐ろしい恒である。
「極位も超えてて驚きました」
「それは勿論超えるよ。君と遼生君は先代極陽に道義的に許されないレベルで生体情報を改造されているんだから。さらに訓練によって飛躍的な成長をみせる」
「そういえば俺たちは生体兵器として作られたんですよね……」
何故自分が呼ばれたのか、わかった気がした。
かつてABNT抗体をコードした模造生命を創り出すプロジェクト、IVAAA。
神格を無視した実験動物以下の扱いを受けた遼生はABNT抗原を投与され続けたし、恒はADAMに監禁された。
その実験体として生み出された23名は死亡し、生き残ったのは二個体だけだった。
「君の神体にはまだ数々の能力が眠っているが、12歳の君にはまだ全てを引き出せなかった。24歳の状態ならできることも変わるよ」
神とは時間をかけて成長する生物だ、ということを思い出す。
恒はもともと模造生命として作られ、絶対不及者とぶつけて殺される予定だったが、幼くてもその役目に耐えられるよう最大限の性能が付加されていた、ということだ。
「それに全神具適合を持っているのは過去から未来に至るまで、私を除くと6柱だけだ。もっと自信をもっていい」
「いや、意外と多くないですか」
恒、遼生、レイア、荻号、セウル、セトがそうだ。神具のアトモスフィア型を気にせずに使ってみると言えるのは、確かに稀有なことかもしれなかった。
「それから、二人ともアトモスフィアの放散をおさえて。レイアが埋没してしまうよ」
「すみません……相手を埋没させるのは初めてで」
「ごめんレイア、気づかなくて。苦しい?」
強すぎるアトモスフィアは周囲を傷つける。
レイアは不満そうに口をとがらせていたが、吹っ切れたように第四の創世者に願い出た。
「なんか二人に埋没されるのは悔しいので私も戻してください」
「そんな理由で?」
レイアも我慢できずに戻ることになった。
今度は逆に恒が見ていると、レイアも10分ほど気絶していた。
「そろそろ起こしていいよ」
【基本情報】
名前:藤堂 レイア / Rhia Mater
年齢:18
絶対力量:17,809,153
Mind Gap: 12
Physical Gap:118
陽階順位: 20/11201位
全体順位: 40/24540位
技能:飛翔術、追跡転移、超空間追跡転移、Mind Break、Mind Gap、Mind Control
特殊技能:全神具適合
アトモスフィア: Fair Gold
居住区: 陽階第26区画138号室
「この中では私が一番弱いんですね……ショックです」
ステータスを確認しながら、レイアはベッドのすみで体育座りをする。
「まあ、年齢が一番若いのもあるし、君はお兄さんたちみたいに違法改造されてないから気にしなくていい。極位級は余裕で超えてるし、その若さで大したものだよ」
二人の兄に気後れしてかわいらしくいじけるレイアを、第四の創世者がフォローする。
「なんか、あなたに励まされると急にどんぐりの背比べしてる感じでへこみます」
「君は弱くないよ、本当だ。ためしに私と対戦してみる?」
「えっ、こわいです。それって一億回ぐらい殺されるコースですよね、無理無理の無理です」
レイアはなぜ指名されたのかと震えあがる。
遼生と恒もえらいことになったと青ざめてしまう。
「では対戦ではなく話をするだけなら?」
レイアは身の危険を察する。
「絶対OHANASHIだけじゃ終わらないやつじゃないですかー」
「支度ができたらおいで。じゃあ、またあとでね」
「ふえぇ、こんなの罠です。支度って遺書とか身辺整理的なやつですよね?」
第四の創世者がその場から消えると、レイアは鼻水がたれそうになりながら遼生と恒をふりかえる。
「直々に指名されちゃったぁ……」
「ご指名入りましたー」
「お……応援してるよ。骨を拾ったりとか……残ってれば。骨あるかな」
遼生は明後日の方向にコールするし、恒は視線をそらす。
「他人事だと思ってるでしょ」
「と、とりあえず今誰がトレーニングルームに入ってるか確認する? 満室だったらできないし、ほら」
「待って、その前に着替えしなきゃ」
三人は私服からトレーニング用のウェアに着替える。
複数のウェアから選択できて、遼生と恒は機能性の高いアスリートのようなボディスーツを選んだ。ほどよく筋肉をアシスト、急所を防御してくれて心地よい。
レイアは体のラインが出るのが恥ずかしくて、ヨガウェアのようなスポーツウェアを着ていた。
それでも十分に機能的だ。
「何か中央神階って感じがしないね。ジムみたい、スポーツウェアもめっちゃかわいい」
レイアは先ほど指名されたこともつかの間忘れて、「持つべきものはセンスのいい上司!」と言って讃えていた。
「思えば何であんな装飾の多い聖衣を着て戦ってたんだろうな、位神戦とか。衣装重いとだいぶ不利でしょ」
「陽階神は有職故実重視ってとこあったから……」
ここでは儀礼的なものは必要ない。
第四の創世者がいうよう、実務組織なのだ。
「軽く体ほぐしてアップしてから行く? 即死は嫌だよねえ」
「死んでも生き返らせてくれるみたいだけど」
各自の部屋に小さなジムのようなスペースが附属しているので、三人はそれぞれ部屋に戻って一時間ほどトレーニングに没頭することにした。
トレーニングマシンも数十台置いてあり、充実している。
一見普通のジムのようにも見えるが……。おや、と恒は足を止める。
「ダンベルの単位がおかしい。ベンチプレスの単位もおかしい」
恒の顔が引きつる。よく見るとキロではなくトン表示だ。
1、10、50、100トンと並んでいる。キロ表示のやつはどこかな、と探しているとセシルが背後からアドバイスをしてくれる。
『藤堂様でしたら、50トンから始めてみられてはと』
「キロじゃなくて? 普通にバーベルごと潰れてしまいますけど。そうなったら助けてもらえます?」
『潰れませんよ。私は藤堂様の状態を把握したうえでご提案しております』
セシルの澄み切った笑顔に、そうですかというほかにない。
とはいえ人類の感覚が抜けない恒は怖気づいて1トンから始めてみると……持ち上がってしまった。
「あれ、持てる。軽い。度量衡の表示間違ってませんよね? そっか、重力が違うとか」
『重力は1Gに設定していますよ』
結局「あれ?」と言いながら100トンも持ち上げられてしまった。まだまだ余裕がある。
我ながら「嘘でしょ」となるが、セシルは驚いていない。
(都内のジムに通っていたときは、100㎏でもやっとだったのになあ)
神に戻ったから、人外の腕力が出るのだろうか。
『筋繊維そのものが強靭なのとアトモスフィアがパワーアシストをしてくれるので、皆様数百トンぐらいは平気です。慣れてくると、今度はベンチプレス自体に重力をかけていきますね』
とはいえ、腕力を使うシーンが思い浮かばないが。
戦闘はたいてい宇宙空間となるので、重力はあまり影響しなくなる。
「へー……学ばせてもらいました。ランニングマシンはないんですか?」
『フライングマシンやジャンピングマシンならあります』
「一回説明してもらっていいですか」
神々は一歩の歩幅が大きく、走るというより飛ぶので、ランニングマシンだとあまり意味がないようだ。
フライングマシンは様々な抵抗を与えながら飛翔速度を向上させるマシンで、ジャンピングマシンは超重力下での跳躍力を鍛えるマシンだ。
それぞれ人一人が入る筒のような形状をしていた。フライングマシンは空気抵抗で頭がはげそうになるし、ジャンピングマシンは体験してみると膝や腰にくる。
その他のマシンも、セシルに使い方だけ習ってシャワーを浴びた。
待ち合わせの時間になったので、三人は転移ナビゲートシステムを用いて作戦本部に再集合することになった。
◆
【アドレス:作戦本部 エメラルド島 スペース15】
作戦本部は宝石や鉱物の名前のついた250の浮遊島から成っている。
それぞれの島には山や草原、砂漠、湖にジャングル、多様な環境があり、それぞれにミーティングスペースや多目的ホールが設置されている。
風光明媚な自然が織りなすまさに楽園のような場所だ。
そのうち15の浮遊島は許可がなければ入れない制限エリアで、恒たちは「許可がない」ほうだ。
恒たちが着いたのは一番大きな島で、ほかの神々もいるのだろうが、それぞれ別の島か個室で過ごしているため会わない。
因縁をつけられても困るのであまり他神とは会いたくなかった。
遼生はプロテインバーをかじってスポドリを持っていた。初めてきた割に、慣れたものだ。
三人は現在陰陽階に入階中の神々の名を検索する。
登録されている神々のうち、半数ほどが入階している。
「結構きてるね」
「まあ、魅力的な施設だからな。戦闘民族みたいな古代勢もいるし」
「荻号さんのこと?」
遼生がすかさず答えるあたり失礼な話だが、誰も否定しない。
「たしかに。……俺より強い奴に会いに行くとか、世界の終焉を見に行くってコールドスリープで未来に来たんだよね」
「だいぶ頭がおかしい人だな……」
遼生が突っ込むが、冷静に考えるとヤバイ人だ、と恒も同意する。
味方でいてくれる限りは非常に頼もしいのだが。
ちなみに、中央神階で身に着けた技能は元の時空に持ち帰れない。その時々のパワーバランスが変わってしまうからだ。もし中央神階で身に着けた技能を持ち帰れるなら、頻繁に極位を取られてしまう。
「荻号さん、トレーニングルームを利用してる」
「飯食ってからって言ってなかった?」
「来るの早いな。しかも既に何百回も戦ってるし。共存在も使ってるのか」
トレーニングルームに荻号の名前が表示されている。
特に隠さない限り、トレーニングルーム内部の様子は公開される。荻号はフラウ(FRAU)という陽階の古代神と戦闘していた。
原則順位は公開されないが、上位20位は順位が公開されている。
フラウはプライマリの女神の個体だとわかる。プライマリの例にもれず、プラチナブロンドの美しい個体だ。
陽階に関してはプライマリ軍団が上位集団を席捲していた。
「うわ短い名前の人たちに囲まれてる」
「名前が短いから古代勢だってすぐわかるよね……現代名がほとんどない」
遼生と恒はランクにくぎ付けになる。
神階オールスターズだけあって、かつての枢軸叙階一覧の数値を軽く凌駕している。
ただ、未来にいる神々の殆どがランクインできていない。
基本的に、神々のもととなるG-ES細胞の継代数が進むと劣化するため、低継代数の古代の神のほうがハイスペックとなる。
その影響を受けないのが劣化部分を修復したり違法改造した模造生命だが、未来側にはそういった存在が何柱かいるようだ。
「チートだらけじゃん……あ、あと名前の短い未来勢も少しいるよ。2241年から来たR.O.Iって人とか。いや待てよ、これ仮想死後世界アガルタの高度学習型A.I.でしょ。実体化したんだね」
「今日一番の悲報だ……思わぬところでネタバレ食らった」
未来視をしてきた恒が遼生に確認する。
遼生の肩ががくっと落ちる。
「つまり、兄さんはケネス・フォレスターを止められてない。少なくとも、現在から繋がる未来では。でも、第四の創世者が呼んでいるということは敵ではない。どんな人なんだろう」
「今日はR.O.Iは来ていないね、来たら直接会ってみようかな」
「待った、マインドギャップ見て? 余裕で埋没するよ」
マインドギャップ94層、フィジカルギャップ1531層と出ている。
迂闊に会ってはいけない。年齢がUNK(UNKNOWN)となっているのも不穏だ。アガルタ世界出身ということは、~億年単位で仮想世界を運営していたという経歴もありうる。
「まずいな。ブリーフィングで呼ばれたときに看破されたかもしれない、未来側から俯瞰されると丸裸になる」
「向こうは兄さんのこと認識してるのかな?」
「まあ少なくとも知っているだろう。僕は彼にとって過去の人間だしね、隠さなくても全部暴かれているかもしれないし」
そのほかに陽階で見知った名前はセウル(5位)、遼生(7位)、恒(8位)、レイア(20位)。
陰階では荻号(1位)、バンダル・ワラカ(14位)、織図(17位)、比企(19位)、鐘遠(20位)がランクインしている。
「この死亡回数って何? トレーニング中に何回死んだかってこと?」
「ひえ……戦闘狂だよう。ごめん、何やってるか見えない。フレームレート追いついてる?」
レイアは荻号とフラウが試合っているライブモニタを見ながら難しい顔をして目をこする。
確かに、砂漠のような場所が映されているばかりで、画面上には誰も見えない。
時折派手に砂が舞い上がったりするので、何かが行われているのは分かる。
「荻号さんはIDEAを、フラウさんはBlank Encyclopediaを使っているね。どちらも多機能超神具のようだ。これは使ってみないとわからないな」
レイアには見えないが、遼生は見極める。
「えっ、見えてる? どっちが押してる?」
「よくわからないけど、力量差はあまり感じない。さすがプライマリの神だね」
「私のほう見ながら言わないでもらっていい……?」
レイアが先回りして白旗をあげる。
「荻号さんの絶対力量初めて見た。13億もあったんだ、全歴史中一位ってことになるよね」
「何その13億って数値、インドの人口かなんか?」
さすがに神に戻っているようだが、それにしてもすごい。
余裕の陰階一位、全体一位だ。
そりゃ、それだけの外れ値ならNo-bodyの器にするよな、という印象である。
「でもその正体は農家でフィドル奏者なんだよね。こんなの絶対おかしいよ!」
レイアが身も蓋もないことを言うが、間違っていないので仕方がない。
「なにげにフラウさんも1億あるね。フィジカルギャップって四桁いくことあるんだ……しかも若いし」
「神体の体力ピークは100歳だって言ってたしな。第四の創世者もピークの状態で連れてくるだろうし。外れ値の人たちに頑張ってもらうしかないな」
「僕たちも足手まといにならないようにしよう。とりあえず僕は恒と一試合願おうかな。実力も近いし、お互い肩慣らしに。あと、殺してもお互い恨みっこなしだ」
「いいね、ひと汗かこう。慣れのためにもお互い一回ぐらい死んだほうがいいね」
恒も賛成だ。
物騒な言葉を発する兄二人に、レイアは自分を指さす。
「私は?」
「あとで試合してもいいけど、その前に個人レッスンあるでしょ」
「やっぱりあの御指名、なかったことにできないかなぁ」
レイアは魂が抜けたような顔をしながら特別申請を出していた。
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★作中図の用語補足
【総合順位】
絶対力量をもとに陰陽含めて算出されます。
【第一名義】
主に用いている名義です。本名、通称の別は問いません。
【第二名義】
普段は用いない本名、通称がある場合に記載します。
【特徴】
特殊個体…No-bodyに特別な目的で作られた個体です。
純血統…いわゆるプライマリの神々です。金髪を特徴とし、G-ES細胞を継代していません。
低継代数…プライマリに次ぐ、継代数20までの神々です。
一般…継代数が20以上の個体です。
模造生命…神階の遺伝子操作技術で生み出された神々です。
【管理権限】
空間管理権限の上限です。
5D…五次元空間まで。
4D…四次元空間まで。
【絶対力量】
旧神階のフィジカルレベルに相当しますが、各種ステータスで補正をかけています。
フィジカルレベルより真の力量に近い数値となっています。
【死亡】
Central States内のトレーニングスペースで訓練中に死亡した回数です。
【殺害】
Central States内のトレーニングスペースで訓練中に相手を殺害した回数です。
【強化】
第四の創世者から神体強化(改造)を受けたかの別。
Yes…強化を受けた。
No…受けていない。招集された状態そのまま。
補正…人体→神体への補正を受けたが、強化を受けてはいない。
【M.G】
マインドギャップ。
【P.G】
フィジカルギャップ。
【Availability】
訓練中に何%の出力で戦っているかを示します。
【招集年】
第四の創世者がその個体を招集した年です。