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1章9話 Launch of Central States.

 空地で遊び終えて帰ってきた子供たちは、荻号の家になだれ込んできた。


「いや、あの、尚人君と小春ちゃんのお父さん。この子たち何か体力ありすぎません? 普通に走ってたら急加速してくるんですけど……人間の動きじゃないですよ」


 本気で鬼ごっこをして息があがった恒は、子供たちのパワーに圧倒されて上着を一枚脱いでいる。

 レイアと遼生が涼しい顔をしているのは、途中でおいかけっこを抜けたからだ。


「おや、5歳児と3歳児相手にもう息が切れたの? 君は少し運動不足じゃないか?」


 ユージーンはパワフルな子供たちの手が離れて嬉しいらしく、優雅に紅茶をいただいている。


「よく言いますよ……尚人くん、10メートルぐらいを一歩で跳躍してきましたよ、どこの世界にあんな5歳児がいるんですか」

「まあ、みてのとおり最近は色々と大変だよ。皐月さんが。何か人類じゃない感じあるしね、足も速いし。できるだけ私が相手をしているんだけど」


 品の良い若い父親に見えるのに、親も子供もとんでもない怪物である。


「今、50m走何秒ですか?」

「二人とも2秒切ってる。さすがにまずいから、幼稚園のかけっこでは手を抜くようには言ってるよ。子供の動きが早すぎるのは最近の悩みの種だ」

「まじかよ!」


 育児の悩みがおかしすぎるだろ、と織図が隣で笑っている。恒は笑っている場合ではないとまじめに忠告する。


「子供に手を抜けなんて通じますかね。小春ちゃんはマインドギャップあるじゃないですか、おうちに入ろうってマインドコントロールが効かなかったですよ」


 藤堂 恒はとりわけマインドコントロールの得意な旧神だった。その彼が、やり込められている。


「小春にもあるし、尚人はフィジカルギャップがある。二人とも増えるかもね」

「あーあーあー、知りませんよ……同級生が死にかねませんよ、フィジカルギャップは人を殺しかねませんからね。あなたから教わったことですよ」


 恒はぐったりしながらユージーンに注意を促す。恒も幼少期はその非凡さゆえに人類社会に適応するのに苦労していた。


「今は目が行き届くようになったから、監督しておくよ。この状態は育児には最適だな」


 話を聞いていた尚人がユージーンに尋ねる。


「ギャップってなに?」

「ファストファッションブランドのこと。俺も持ってる」


 織図が適当なことを教えていた。

 小春と尚人はふさけて走り回り、荻号の練習室に駆け込んでいってフィドルを持ってきた。


「おごーさん、またヴァイオリン弾いていいー?」

「これはフィドルっていうんだよ」

「ヴァイオリンじゃん」

「また? またって何ですか?」


 ユージーンが今知ったというように荻号に尋ねる。


「こいつら週一でうちに来るぞ」

「そうだったんですか。それはお世話になっております、すみませんでした、知らなくて」


 皐月が子供たちを連れてきて荻号の家で時々遊んでいるということもあって、荻号は子守も板についてきている。


「よし、お前らうるさいな。話にならねーからまとめて面倒みてやる」

「こはるはフィドル弾けないのー」

「いいぜ、バウロンでも叩いとけ」


 荻号はその場に共存在体を呼び出す。

 ゼロは荻号の共存在を没収せずそのまま不可視化したので、荻号がそのまま使っている。子供たちは共存在体を見て大喜びだ。


「わー、おごーさんのドッペルゲンガーだ!」

「どっちと遊びたい?」

「こっちー」

 

 ユージーンは子供たちの水筒とおやつを荻号①に渡してから、「いいんですか?」と荻号②に尋ねていた。


「やけに慣れたリアクションしてましたね。どちらも同じに見えましたがなんか違うんですかね」


 音楽室に去ってゆく荻号①と子供たちを見送りながら、共存在を使ったことのあるレイアが尋ねる。


「バイタルの分割比率で微妙に感じが違うんじゃね? まあどっちでも情報は共有してるからどっちでもいい」

「共存在体ってずっといるんですか? いいですよね」


 遼生に至っては、もしいたら研究が二倍捗るなと羨ましがっている。


「ゼロの置き土産だ、バイタル消費しないならいたほうが便利だろ?」

「そういや、共存在発動中の食費って二倍かかんの?」

「情報は共有しているが代謝は独立だから、食費は二倍かかる。というか俺はそんなに食べんが」

「服は?」

「分割時に二つになるが、それ以降は服飾費も二倍かかる」

「地味に家計圧迫すんじゃん、良しあしだな、共存在も」

 

 織図はどうでもいいことをつっこんでいた。

 恒はひっそりと、たとえ経費が二倍かかっても共存在が使えたら当直も診療も楽でいいだろうなと想像する。

 先ほどからセウルは呆れているのか、一言もしゃべっていない。雑談ももういいかというところで、ユージーンが手をぽんと鳴らした。


「さて、では少し場所を変えましょうか」

 

 ユージーンは片手で空間を撫でると、全員が空間転移に巻き込まれはじめた。


「あーまてストップ! どこ連れていくか先に教えてくれない? ついでに酸素や重力あるかの情報もほしい。この体だと斥力中枢起動するのに時間がかかるし」


 織図が事前の情報開示を求める。


「セトの管理する切離空間と、現空間を重ね合わせ、各時空に生存している旧神らを召喚します。特定の場所ではありません、力を抜いていていいですよ。ここから先は、ユージーンではなく私の本体、第四の創世者としての仕事をしますね」

「やべえ、イキリ散らしちゃう感じ?」


 織図の誰に対しても恐れを知らない命知らずっぷりというか、その度胸を恒は尊敬する。


「古代の好戦的な神々もいますので、襲撃されれば個別に応戦するぐらいです」

「まじかよ。創世者様に挑んでくるやついる?」

「はい。INVISIBLEは普通に敵、な世代もいますからね」

「まー見てくれが永遠に若いのが昔からナメられがちな原因だよな。少し太るか老けるか眼鏡とかかけたら? 俺もタメ口きいたらしばかれる?」


 織図は勝手を言いつつも改める様子はなかった。


「そういえば保護者面談のときはよく新卒だと思われてますね。では雑談はこれくらいにして、移動します」


“第四の創世者”が連れ込んだ場所は、無限に広がる雲の上を思わせる空間だ。

 彼は旧神らを集め、空間上に白い床を作り出す。

 そこへ着地する者、浮遊したままの者、それぞれ思い思いの体勢をとっている。


「セトさん、お疲れ様です。管理権限はあなたに預けておきますが、その姿では不便でしょう」


 “第四の創世者”は空間の中央に佇んでいた絶対不及者セトの神体に再構築をかけ、アトモスフィアの位相をずらして時空神の姿に戻す。

 セトは驚いたように制紐と権衣による拘束から自由を得て禁視を開き、黙礼する。


「感謝する」

「どういたしまして」


 時空神の姿に戻ったセトは自由を満喫するように大きく伸びをしていた。

 第四の創世者は先ほどの人としてのラフな格好ではなく、ゼロが着ていたものと同じ遠未来の素材のローブを着て、目印程度に光環を持っている。

 

「はい! 皆さんが静かになるまで11分かかりました」


 織図が小学校教師の物まねをしてそんなことを言っている。

 第四の創世者は騒然とする旧神らを一瞥して鎮め、注目を引き付けてブリーフィングを始めた。


「改めまして自己紹介をします。私は11次元時空の空間管理者、INVISIBLE/XEROにおよそ紀元二百世紀までの時空の管理統治を委任された名もなき創世者の一体、不便なので第四の創世者(The 4th GENESIS)とでも名乗りましょうか。本体は8次元時空にて不可知の状態にあるのですが、旧軍神、絶対不及者ユージーン・マズローの神体をインターフェイスとしてあなた方の個々の意識に接続しています」


 ややこしい話だが、ここにはそれを理解できない者はない。


「私がこの時空を統括することに異論のある方が83柱いましたが、ほかにはいませんか?」

「やっぱいたんだ……喧嘩売ってきた人」


 恒は予想通りのことが起こったのだと悟る。

 古代の神々の中には血気盛んな者もいて、第四の創世者に挑んで速攻負かされたのだろう。

 その場では既に決着がついていたのか、誰も第四の創世者に挑みかかったり、その真価をはかろうとする者はいなかった。

 セトをすら支配下に置く創世者を前にしてはただ屈服するほかになかった。

 恒はつくづく、神々を統治するのが彼でよかったと思う。

 彼が圧倒的な権限を得ていたからこそ、無益な殺戮や自滅をみずに済んだ。


「てか、多くない? 旧神ってこんなに個体数いなかったよね」


 恒があたりを見渡しながら遼生とレイアに尋ねる。

 ざっと見積もっただけでも、数万柱はいるようなのだ。

 恒が知るだけでも、旧神らの個体数は三千柱を切っていたはずだ。

 第四の創世者はその謎にこたえるかのように説明を続ける。


「ここに集めたのは過去二億年間の範囲で神階に在籍していた者たちのうち、一定の力量を持つ方々です。過去から来た方にはすでに記憶を補完しましたが、今後の空間運営方針を説明しますね」

「二億年分の個体数だったのか! オールスターズだね」

 

 遼生が悲鳴を上げそうになる。恒らが知らない、見るからにアトモスフィアを滾らせたプライマリの古代神らも大勢いた。約一万年前からコールドスリープで現代に現れた荻号は、顔見知りの古代神を見つけて軽口など叩いている。


「過去に遡って神々を呼んだ……」


 確かに、過去のそれぞれの時空では神々は生きているのだが……。

 スケールが大きすぎて、恒はもう第四の創世者が何をしているのかわからない。


「俺たち、一定の力量持ってる扱いでいいんだっけ……? 帰ったほうがいい?」


 恒はこの場にいていいのか自信がなくなってくる。


「以前の状態ならまだしも、完全に場違いだよね。でも帰れないしね」


 遼生が諦めたように大きく頷く。

 現在、ゼロの精神が健全であるために、あの時のように第四の創世者は恒と遼生の抗体を必要としておらず、恒も遼生も戦力たりえない。プライマリの個体であったレイアには資格があるのかもしれないが、ここに居合わせる資格があるのか理解できないぐらいだ。


「すでに伝えている通り、思考機械αθάνατοは広範囲の時空に侵攻を続けています。ゼロと私は手分けをして時空の保護と再生を続けていますが、αθάνατοの存在する時空を消滅させなければ、攻撃は永劫に終わりません。そこで、あなた方に手を貸していただきたく召喚しました」

「時空を超越する創世者同士の戦いにおいて、有機体である我々に何か力になれることがあるのか?」


 古代神の一柱が第四の創世者に尋ねている。


「あります。私は現時空そのものなので、αθάνατοの時空の内部に入ることができません、直接的に攻撃を仕掛けることができないのです」

「それはわかったが、なぜ俺らが思考機械に対して生身で当たって砕けろという話になった?」


 荻号があけすけに尋ねる。荻号に至っては、過去から現在に至るまで、延々と死んで来いと言われてばかりの人生だ。


「αθάνατοの空間は時空転移を繰り返しているため空間歪曲率が高く、座標特定が難しいのです。ここに私かゼロが直接介入すれば、現空間の不安定性を一気に高めます」

「それでも、αθάνατοを直接潰してこいって言いたいんだよな?」

「はい」


 荻号の挑発を第四の創世者は涼やかに受け流す。

 膠着した空気の中、一柱の旧神から声があがった。


「私がひとりで行って片づけてくる。共存在も使えるし、一人で行ったほうが巻き添えを出さずにすむ。セトは空間維持にかかりきりだし、この中では私が適任であろう」


 さあ、一体誰を選出するか、という段階になって二代絶対不及者であったセウルが先陣をきって特攻を申し出た。


「セウルさん、一つ補足を。この時空において、私があなたをゼロの憑依体である絶対不及者へ転化させるのはたやすいのですが、αθάνατοの時空では誰も絶対不及者にはなれません」

「つまりゼロが貪食されるって括りになるからダメってわけか」


 織図がその意味を理解して舌打ちする。

 セウルやセト、レイアが絶対不及者でいられるのは、現時空に限られるという意味だ。


「ん? これまであなたがノーボディの時空にもブラインド・ウォッチメイカーの時空にも行けていたのにですか?」


 恒の質問に、第四の創世者は淡々と答える。


「あれらは全てゼロの内包する時空の中の出来事だったので問題ありませんでした。しかし今回、αθάνατοは完全にゼロの時空の外部にいます」

「相転星を使ってαθάνατοの内部で空間開闢をしてはいかんのか?」


 荻号がけだるそうに尋ねる。


「αθάνατοと対等に撃ち合う唯一の方法として、ゼロの能力の一部を神具に込めて向こうの世界に持ち込むことはできます」


 第四の創世者は荻号の質問を見越していたかのように即答した。一対数万が寄ってたかっての質疑応答状態になっているが、彼の応答には落ち着きと余裕がある。

 INVISIBLE/XEROが神具を作製し第四の創世者に預けたという話を聞いた旧神らは、心強さを覚えたようだった。


「只今をもって、時空管理者として現空間に新しい体制を敷きます。ご不満もありましょうが、シミュレーションの結果最適解だったということでお含みください」


 独断となってしまうが、それは無限の試行の末に仕方ないことだったと説明する。


「まず、神階を復活させ、戦力を現時空へ集中させます。この方法は過去に干渉するため望ましくはないのですが、新たな脅威が繰り返し迫っている間の暫定的な措置です」

「それはいつの時代の神階に準拠するのだ?」


 比企から質問が飛んだ。

 神階とひとえに言っても、時代によってさまざまな形態が存在する。

 まだ神階が現存している時空もあれば、すでに廃止された時空もある。

 そのうちどの時代のものを指すのか、厳密に指定しておかなければ認識を共有できない。


「既存の形式は用いません。アトモスフィアの性質、能力に応じて機械的に陽階と陰階に所属をふりわけますが。この組織は時空横断的な実務者のための機構であり、宗教的な性質を持たないため、位階の上下はなく、互いが能力を把握するためのランクは存在しますが職能を定めません」


 ~を司る神、という、生物階を意識した宗教的な職能神の概念はなくなり、ただの実務組織を形成するという意味だな、と恒たちは理解する。

 つまりそれは、人類に信仰を求めない。


「神体強化や能力付与については、私が生体構築をかけることができますので、個別に申請してください。今回の神階再生の目的は唯一で、ゼロの管理する現時空の保護です」


 各々に提示されたインフォメーションボードのリストの中に、恒は陽階とふりわけられていた。

 レイア、遼生、セウル、ヴィブレ・スミス、ファティナらも陽階のようだ。

 織図、荻号、比企は陰階だ。旧陰陽の区分のとおりだった。


「比企さん、極陽までやったのに陰キャに戻ったか。まあ根が陰キャなんだろ、陰キャどうしよろしくやろうや」

「織図さんってちょっとは怖いものとかないんですか……」

「そりゃあるだろ……生牡蠣とか飲み会翌日の体重とかγGTPの数値とか薄毛とか庭に地植えしたミントとか」

「いやそれ全部あなたに関係ないやつですよね」


 創世者にはため口をきくわ、元極陽を陰キャというわ、織図のメンタリティが破天荒すぎた。しかしこの性格のおかげで、恒はどんな悲惨な時でも悲観的にならずにすんだ。


「ここまで質問がありますか」

「極陽、極陰、至極位は置かないということだな」

「はい。必要ありません。それらはそれぞれの時空で、その時に存在する努力目標の叙階ですので。私が組織する新たな神階(Central States)は、ただの時空管理機構です」

「解階の住民らへの周知はいいのか?」

「彼らもまた私の管理下にありますが、死亡後に復活させることが難しいので、この場には呼んでいません。旧解階の住民の方々への情報の共有は各代表者でお願いします」


 質問の応酬が落ち着くと、第四の創世者は次に、全時空からアクセスできる神具管理機構をたちあげるとの説明をする。

 これまで、神具は大前提として位神に属するものであり、当然ながら個神所有とされてきたが、今後は現存神具を神具管理機構に収蔵し、過去から未来までの旧神らの共同所有物とする。

 そこから所定の手続きに従って一つずつ帯出、返却すれば、誰でも任意のタイミングで神具を使用できる。

 帯出する時空をずらすことで、同一神具の重複使用も可能となる。

 全ての神具は、第四の創世者がアトモスフィアを最大充填した状態で帯出する。

 つまり、神具使用におけるアトモスフィア消費量は常に0だ。

 より適した使用者が適切なタイミングで神具を柔軟に使用することができるため、神具使用のアドバンテージを最大化する。

 神具帯出プログラムはすでに実装されており、自動的に処理される。


「すごい……」


 恒はこの合理的なシステムを立ち上げた第四の創世者に圧倒される。

 彼は旧神ら全員を集める前にかなりの準備期間を経てすべての段取りと演算を済ませており、万全の体制を敷いていた。至高者の業であるかのように、努力や失敗の痕跡はまったく見えないが、かなり試行錯誤したのだろうということは彼の言葉からうかがえた。


「自分のアトモスフィアを使いたい場合は?」

「帯出申請時に条件を付与してください。各自、使い勝手もあるでしょう」


 第四の創世者は荻号に答えながら神具管理機構に登録されたリストを各自にインフォメーションボードとして提示する。


「神具管理機構に新たな神具を登録しましたので、詳細を確認してください」


挿絵(By みてみん)

X1 特3級 DIMENSIONLINKER (KALCUA) 

X2 特3級 TIMEKEEPER (MIIA)

X3 特2級 DEMENSIONEXPANDER (UIIA)

X4 特2級 REPLICATOR (SISTEA)

X5 特2級 STABLIZER(TCCA)

A6 特1級 IDEA

A3 特1級 Blank Encyclopedia

A4 特1級 LOGOS

A5 1級 GEDCT: GED compartment transplanter


などと続いている。


「Xという区分はこれまでにはなかったが何だ?」


 従来の神具管理機構を直轄していた比企が疑問を呈する。


「ゼロの創造した空間創世神具です。これは現時点では創世者、実質私にしか使えませんが、遠隔操作ができます。私の管轄する8次元時空にあるものなので、現物をお見せすることはできませんが、今後のために登録してあります」

「第四の創世者はαθάνατοの時空に間接的に干渉しうるということだな」


 比企が齟齬のないように確認をとる。


「はい。さすがに、あなた方に丸投げということはしません」

「それ以外の神具は第四の創世者様以外にも使えるのですか?」


 レイアがびくびく怯えながら尋ねる。迂闊なことを言って「使え」と言われたらたまったものではない。


「IDEAとLOGOS、これは私が造った超神具で、24万レベルのアトモスフィアがあれば、アトモスフィア型も含めて誰でも使えるように設定しています」

「24万レベルって……ちょっとそれは……」


 レイアは白目になりそうだ。24万レベルは、極位クラスを凌駕する、到底到達できないレベルだ。

 絶対不及者にならなければ扱えないクラスなのに、その手は使えないのだからどうしようもない。お呼びではありませんでした、と言いたいところだが呼ばれているので逃げも打てない。


「SCM-STAR(相転星)とFullerene C60より要求性能は低くしています」


 良心的な設定でしょう、といわんばかりだ。


「面白そうだな、使ってみたい」


 こういう時に反応するのは荻号ぐらいだ。


「Blank Encyclopediaも使ってもらっていい。隙間時間に作っておいた、使い方はナビゲーションを呼び出してくれ」


 局所時空管理者として留守番組のセトの自作神具もあるようだ。

 第四の創世者とセトにとって、時間は相対的なものなので、隙間時間で複数の神具を作製しておくことができる。


「向こう側に持ち込めるアトモスフィア量は限定、もしくは剥奪されるとみられます。神具にアトモスフィア貯蔵性能を付与することが望ましいです」

「では、己も新たな神具を制作せねばならんな」


 比企も創作意欲がわいてきたようだ。各々が咀嚼できたところで、セウルが疑問をぶつける。


「いつ、誰がαθάνατοを攻撃するべきだと考えるか。総攻撃なのか? それとも何回かわけていくのか?」

「強制であってはなりませんので、志願した方が適任者となります。時期は、各々準備ができて今と思い定めた時に私が最適なメンバーを編成し召喚します。とはいえ、召喚するのは概ね一年以内とみてください。同意がなければ呼びません」

「落命した場合は各時空でも死ぬのか? 仮想空間に収容されるのか?」

「生存確率を操作し現時空へ復活させます。基本的に、あなた方はノーリスクで作戦に参加することができます。何度失敗しても、経験は得られます」


 死亡のリスクがない! これはこれまでの常識を覆す手厚いサポートだった。


「新たな神具を使えるとあっては、自己鍛錬にはちょうどいいな」


 これをよいチャンスとして歓迎する古代神らもいる。


「死なない代わりに、αθάνατοを倒すまで一万回死ぬ可能性もあるってことだろ?」

「はい」

「え、その状態からでも入れる保険ってある?」

「新神階に加入することが復活の付帯保証付きの死亡保険のようなものですね」


 第四の創世者は織図の軽口に合わせる。


「自己鍛錬の場として、500ほどの空間を貸し出します。トレーニングをしたくなったら、所定の手続きに従って申請してください」

「セントラルステートだっけ。新しい神階の本部は?」

「亜空間に作戦本部を兼ねて浮遊島を構成します。超空間転移では来れませんので、必ず私に申請してください」

「段取りいいな」

「3年ほどかけて作りましたからね」


 旧神らは十分な時間をかけて新神階のシステムについて理解した。


挿絵(By みてみん)


 そして元の時空に戻ってきた恒、遼生、レイアは、ユージーンの姿に戻った第四の創世者に根本的な質問を投げかける。


「あの、ご招待ありがとうございました。でも何で俺ら呼ばれたんですか? あの錚々たるメンバーの中の一定の水準に達してなくないですか」

「君たちは自分たちを過小評価しすぎだ、君たちには世界を変える力があるよ」

「なにかと褒めて伸ばそうとするのやめてください」

 

 恒が深刻な面持ちでユージーンを牽制する。


「皆それぞれ適材適所で活躍するんだけどな」

「俺らの人生のネタバレ禁止でお願いします」

「そっか、黙っておくね」


 世界の果てを見てきたかのような彼の言葉の意味を、三人ともさっぱり理解できなかった。

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