夾竹桃でおままごと
わたしが子供の頃、母と祖母は商店街で店をやっていた。
その店の裏は駐車場になっていて、近所の子供達と一緒に遊ぶにはちょうど良かった。
店の裏手だから、親もそこまで心配しない。
引きこもりのわたしもすぐに部屋に戻れるので安心。
ずっとそこで遊んでいたわけではないが、その駐車場は遊び場としてはとてもいい場所だった。
その駐車場には、夾竹桃が一本生えていた。
ピンク色の花を咲かせる、細い木だったような覚えがある。
美しい花だった。
わたしたちはその花で遊んだ。
女の子らしい事が好きではなかったわたしは、おままごと遊びもあまり好きではなかったと思う。
だが、この夾竹桃の木の下で、花や葉を集めてそれらしき事をしていた記憶はある。
わたしにとって夾竹桃の花はおままごとの花だった。
美しい濃いピンクの花びらを集めて小さな器に盛る。
花びらや葉の細い傷口からは白い、粘りのある液がにじみ出てきて、ベトベトした感触だけが手に残る。
糊のような不快感が好きではなかったし、水で洗い流しても、また花を触れば同じように指につく。
でもどんなに気持ち悪くても、わたしたちは夾竹桃で遊んだ。
本当に、美しい花だった。
夾竹桃に毒があるということを知ったのは、あれはいつの事だったのだろうか。
多分、小学生の頃。植物図鑑を見ているときだったと思う。
弱い毒なのだろうと思った。それは間違い無い。
なぜなら、毒があると感じた事がなかったから。
次に認識を改めたのは、友人が貸してくれた短編集。
夾竹桃のお皿を作る話。
人を死に至らしめる毒なのだと気がついた。
でもまだ信じられなかった。
だってわたしたちは生きている。
けれど、夾竹桃には毒があるのだ。
人を死へと追いやる毒が。
あの美しい花に。
わたしたちが遊んでいたあの駐車場。
愛してやまなかったあの花。
わたしたちの誰をも傷つけなかったあの花。
あの愛しい花は、本当に夾竹桃であったのだろうか。あの美しいピンク色には、本当に毒があったのだろうか。
わたしの記憶の中にその答えはない。
ただ、美しい濃いピンク色の花と、子供たちが戯れている。あふれるような強い光の中で。