表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空の舟  作者: 桂正 一葉
6/11

5話

頑張って話を煮詰めているんですが気づいたら鍋の中は空っぽ

なんてことばっかり




朝早くに役所についた。

普段からあまり人が来ないのか、いたのは受付に1人とそこにはどう見ても農家には見えない人が2人いた。

「こんなに書類用意してどうすんだよぉ!俺は読み書きが大の苦手なんだぞ!おい、なんとかしてくれよぉ!テン!」

大柄な人間は隣にいた小柄、いや、中肉中背の人に助けを求めていた。

「僕はペンが握れ無いんだよ。どうやって書類を書くのさ」

テンと呼ばれた男は自身の手を広げて見せた。

そこに人間としての手は無く、枝のように細く伸びた三本指があった。

人間族ではないようだが、よく見る異人でもない。どのような種族なのだろうか。

「ほら、早く書いてくれよ。リク」

テンは手を左右に揺らしながら言う。

「そんな突き放すなよぉ、頑張れば握れるだろ?何とかしてくれよぉ」

テンはリクと呼ばれた大男がおたおたしているのを面白そうに笑っている。いい性格している。

「あのぉ!私が!代筆を!しますから!」

受付の人が必死に声を張り上げているが、大男は自分にいっぱいいっぱいで聞こえていないらしい。

「開いてる受付があれだけだと俺たちの番までは時間がかかりそうだな」

「彼らを手伝えば良いではないか?

「しかしなぁ…変な絡まれ方をしないか?」

無駄に屈強な大男のリクと種族不明な異人のテンの二人組を見る。

「何を心配しているのだ?問題が解決すれば受付も、あの2人も助かって私たちも質問ができる。ここに突っ立っているよりはいいだろう」

俺が考えているうちにアニザは頭を抱えて蹲ったリクのいる受付まで行ってしまった。

蹲ってもまだアニザの方が身長が足りない。アニザは爪先立ちをしてやっと届いたリクの肩をつつく。

自分の世界で迷子になっていたリクはそれに気づいて振り向く。

「代筆ができるそうだぞ」

「何!?そんな事をお願できるのか!?」

勝手にお手上げをしていたリクは助け舟に豪快に乗り込んできた。

「すまんなぁ!さっそくやってくれるか!」

リクはただでさえ響く声をアニザに唾が届く距離まで顔を近づけて聞かせている。

アニザは流石に両手で耳を塞いだ。

「私ではない。受付が言っている」

アニザの指さした方へリクは勢いよく顔を向けると

「ありがとう!受付さん!」

受付の人も耳を塞いだ。


「いやあ助かったよ!一時はどうなるかと思ったよ!こう言うのが巡り合わせって言うんだろうな!」

代筆が無事終わったリクが俺にお礼をする。

「いや、気にしなくていい。おかげで俺たちも用事が早く済んだよ」

結局の所新しい情報はなかった。この国とエヴォルとは離れているし、ダメ元だったので予想通りといえば予想通りだった。

「それに俺じゃないぞ。教えたのはこの子だ」

「そうか!そうだったな!優しい子だ、こういう子でいっぱいだったら世界は幸せだろうなぁ!」

「私は大したことはしていないぞ。つついただけだ」

「言うのは簡単だが行動に移す奴は一握りだぞ!ほれ、手をだしな!」

言われたアニザが手の甲を上にして出すと、リクは”逆、逆”と言って右手でパーをしてみせ、アニザもそれに倣うとリクはそこにはポップな木のマークをあつらえた小さな包みを乗せた。

「お礼だ、ここらでは珍しいキャンディだぞ!」

「見かけによらないものを持っているんだな」

やばい、この子思ったことをすぐ口にする

「いいよ、僕らそういうの気にしないし。素直なのはいいことじゃないか」

俺が焦ってフォローしようとするのを見てテンがヘラヘラとしながら返した。

「あまりここに馴染まない格好をしているが、何をしていたんだ?」

アニザが質問した。興味津々なのを隠しきれていない。

飴をもらったからか、彼らへの距離感が近くなっている。

「最近ここらでは倉庫荒らしの被害があったらしくてね、事情を聞いた僕らは用心棒として雇ってもらうために、ここで手続をしてたんだよ」

”見かけによらないでしょ?”とテンはおどけて付け足す。

「倉庫荒らしということは泥棒か?」

「話を聞く限りは獣だな!倉庫で盗まれたものは無いみたいでな。襲われた倉庫は森に近いし、刈り入れ前で作物がなかったから倉庫を荒らしただけで去ったんだろう!」

「そう言うことだから、森に近づかないように気をつけてね」


「見た目によらず、ずいぶん親しみ易い2人だったな」

アニザはもらったキャンディを眺めている。

大股で踏み込んでいく会話にこっちはヒヤヒヤしたぞ。

「今日は朝からいいことをした。いい一日になりそうだな」

でも、アニザが言っているように、彼らはいいやつらだ。雇われ用心棒なんてゴロツキのようなやつがわんさかいる中、珍しい2人組だった。

親切がうまくいったんだ。素直に褒めるべきだろうな。

「これは?」

「昨日は頑張ったからな。駄賃だ」

リクがキャンディなら昨日の手伝いにもお礼を渡さないといけないだろう。

「好きなものを買っていいぞ、俺も旅で買い込むものがあるがあまり付き合わせても悪いしな」

彼女はまだ俺にも話していないことで落ち込んでいる。

ここはのどかな町だ。たまには1人で伸び伸び散歩するのもきっといい気分転換になるだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ