ひとりぼっちの魔女と居場所を失った少年
「息災か?少年」
私は公園で寝ていた少年に声をかける
彼の場合は家出と言うよりは追い出されたと言った方が合っているだろう
数日前から公園に住み着いていることを知っている
彼がいつ追い出されるか分からない
「そく……さい?分からない」
目を覚まし私の声に反応する
痩せており数日ろくに食べ物を食べていないと分かる
「分からない事を分からないというのは良い事だ。全てを聞けと言わないがな。少年、私と共に来い」
私は少年に手を差し出す
「迷惑になる」
「私が来いと言っているんだよ。迷惑上等、人が生きる限り迷惑はかけるものだよ。迷惑をかけた分どう生きるか決めるそれが人間だ」
そう言うとゆっくりと少年は手を取る
(罪滅ぼしにはならないけど私がこの子を育てよう)
私は決意を胸に笑みを零す
家に帰り風呂に入れて服を着させる
魔法で作ったサイズぴったりの服である
「何それ?」
興味深そうに私の元に来て魔法を指差す
「魔法だよ、人は使えない、魔女特有の力」
「綺麗」
初めて見る魔法に目を輝かせている
「……ありがとう、そう言われるのはいつぶりだろうか。……外に出ても大丈夫のように君に私が常識を教えてあげよう!!」
メガネをかけてホワイトボードを持ってくる
この世界について、魔女と人間の関係性、社会の常識やルール、法律など様々なことを教えこんだ
運動もさせ程々に鍛えさせる
物覚えがよく数ヶ月した頃には外に出しても恥ずかしくない位の成長を遂げた
買い物も一人で出来るようになり金の稼ぎ方も覚えた
後は一人暮らしして働いていける歳迄ゆっくりと待つだけ
「シズハ様、魔法を教えてくれませんか?」
「懲りないなぁ、人には使えないと言っているだろうが」
杖で頭を叩く
「い、痛い」
何度も魔法を教えて欲しいと言われているが魔女の力を人は使えない
だからこそ魔女狩りが行われた
「居ないんですか? 使えた人は」
「居らんよ。知る限り、私は花に水をやってくる」
立ち上がり外へ出る
ジョウロを持って花に水をやる
私は花が好きだ、咲くと綺麗だからでも物によっては直ぐに枯れてしまう
悲しいが人も同じ、人と共にいることは出来ないから花を育てる、何度植え替えても変わることの無い花々を
「シズハ様は花が好きですよね?」
「まぁね、花は好きだよ」
「長寿なのはどれです?」
「何をいきなり……う〜む、花に関しては分からんな。ただあの木は私の物心着いた頃からあったぞ」
大きく育った木を指差す
樹齢100年を超えている立派な木である
生まれてからずっとこの付近に暮らしているのでこの大きな木と共に育ったと言っても過言ではない
「えぇ、魔女って長生きなんですね」
「私からすれば他の生物が短過ぎるだけ、それよりも惚れた女はどうだった?」
「……振られました」
「それは残念、お前は人間の中では結構上の方なのだろう?」
「そうなんですか?」
「知らん」
いつも通り他愛のない会話を繰り返す
魔女狩りは終わっているがまだ極力外に出るのは避けたい
街には出るが長居はしない
人は私を恨んでいる、その逆も然り
同胞を無残に殺した人間への復讐心は消えていない
「もう二度とあのような悲しみが生まれぬよう私は祈り願い続ける」
日々が過ぎて少年が18になった頃、私は一人暮らしを進める
「お前はもう立派に育った、1人で生きていけるな」
「……私は貴方の元で暮らしたいです」
「魔女と人間の関係性は話した。今もあるとは言いきれないがお前を巻き込むわけには行かない。時々手紙は送れよ」
「……分かりました。シズハ様、今までありがとうございました!!」
お礼を言い少年は身支度を整え家を出た
1人になった部屋で椅子に座る
「子が旅出すとはこういう事か」
私は少年の居なかった頃と同じ生活をしていた、時々届く手紙を見て返すと言う行為も増えた
退屈だが有意義なその日々は長くは続かなかった
「魔女の生き残りを殺せ」
「……ここまで……か」
銃で撃たれ血塗れになり力無く壁に寄りかかっている
意識はあるが動けない
水遣り中に不意をつかれ防御が間に合わず弾丸を食らった
急所を外した数発の弾丸は手や足、胴体を撃ち抜いた
政府がやっていないだけで魔女狩りは終わっていなかったのだ
(人間とは恐ろしいな。こんな技術を持つとは)
目を閉じて死を覚悟する
楽しかった日々を思い出し笑みを零す
叫び声が聞こえる
断末魔と入り交じっているが違う、悲しく力強い叫び声だ
「シズハ様!!……やったのは貴様らか!!殺す」
少年が最悪のタイミングで帰って来ていた
一番後ろにいた兵士から銃を奪い撃ち殺し私を撃った2人を反撃する隙を与えずに撃ち殺す
私の元に駆け寄り泣きそうな顔で私を見る
「逃げ……なさい……私が……殺したと……」
「傷が深い、魔法で治らないんですか?」
「……傷が……多い……」
脈打ち流れ出す大量の血を確認して言う
少年が止血を試みるが流れる血の量は一向に減らない
私は笑い魔法を使う
「時間はない、魔法を使いたいか? 魔女の力を受け継ぐか?」
「シズハ様?……はい!!」
「ならば力を授けそう。これは君の力となる。我が名はシズハ、古代の魔女にて水の魔女、我は彼の者に力を与える、我が問いに応えし汝に我が力の原点を授ける」
援軍としてきていた兵士が今になって到着する
「どうなってる!!」
「君はもう魔女になった。育ての親としての最後の言葉、後悔なき人生を歩みなさい我が子よ」
魔法が切れ始める
あくまで僅かな時間、魔法で延命していただけであった
最後に言いたい言葉を口にする
「…………」
「そして救われた者からの言葉、真っ暗な人生が君のお陰で光が見えた、ありがとう……アズ……ハ……」
魔法が消えて力無く倒れ意識が遠ざかる
「あの時、手を差し伸べて頂き感謝していますシズハ様、貴方の意思は私が継がます!!」
涙を流しアズハは立ち上がる
その姿は少年では無かった、美しい女性の姿をしていた
「お前魔女か!! 2人居たなど聞いていないぞ」
「私はアズハ、水の魔女だ!!魔女狩り、貴様たちを私は許さない」
「撃て!」
弾丸は確かにアズハに当たったがすり抜けている
地面から現れた水の剣が銃を切り裂く
「だが私には目的がある、くだらない人間の余興は終わりだ」
「何を言っている」
「お前たちも《《来い》》、私が全てを変える。口答えは許さない」
アズハは魔女狩り達と共にこの場を去る
去り際に魔法を使う
「狂い咲き咲き誇れ、美しき花々よ。安らかに眠りなさい、愛しき者」
季節関係なく咲き誇った綺麗な花々が私を囲む




