第3話 噂
慶は、相変わらず自分の特殊な能力を使わないように気を付けながら生活をしている。
クラス内でも相変わらず……と言いたいが、前日のテストの一件から慶に少しの変化が起きていた。
「慶、おはよう」
可愛らしい声に慶は、顔を上げ声のした方へ振り向き返事をする。
「あぁ、おはよ」
「慶、昨日の数学の宿題の最後の問題がどうしてもわからなかったの。教えてくれない?」
美由は、慶を見つめて可愛らしくお願いをする。
「どこまで解けてる?」
美由はノートを広げ慶に見せる。
「途中までできてんじゃん。後、ここのところをここに当てはめるだけで解けると思うよ。やってみ」
慶は、美由のつまずいたところを素早く見つけ解りやすく説明する。
「あぁ、わかった! やってみる」
その場で解いてみる美由。それを見つめる慶。
周りのクラスメイトがそんな二人をみてくっつけようとかヒソヒソ噂している。そんなことに気づかない慶と美由。
「できた!」
「うん、あってる」
「ありがとう」
「おう」
これがきっかけで美由は、慶を頼りにするようになり一緒にいる時間が増えた。
「美由、慶とどうなってるの?」
「付き合ってるの?」
「告っちゃえば?」
美由の友人達は、美由に話を持ちかける。
「えっ?」
友人達の言葉に驚く美由。
「嫌だなぁ「えっ?」じゃないって!」
「そうそう、好きなんでしょ?」
「とられる前に捕まえちゃいなよ!」
「美由可愛いからいけるって!」
美由が友人達に言われているとき、慶も同じように言われていた。
「慶、良いよな可愛い彼女で!」
「告った?」
「付き合っちゃえば?」
「隣のクラスの安藤にとられる前に告れよ!」
友人達は好き勝手言いたい放題だった。
慶は自分の持つチカラのため一歩進むのを躊躇してしまう。それは、自分のせいで美由に迷惑がかかるのが目に見えていたからだ。慶の心の奥には美由を想う気持ちが少なからず芽生えていた。
美由も慶と同じように想っているような雰囲気はあるが、慶の持つ何かに一歩踏み込めずにいた。
そんなふたりを何とかしようと思っている、慶の友人の香山憲
「慶、お前なぁ、美由ちゃんにいい加減告れよ」
「憲その事は、そっとしといてくれよ」
「美由ちゃん待ってると思うぞ」
「・・・・・」
そんな時に事件が起きた。
「慶、憲! 美由知らない?」
「あっ? 朋代が知らねーのに俺が知ってるわけないじゃん」
憲が朋代に少し文句を込めて返事をする。
「美由いないの? いつから?」
慶は内心、心穏やかでは無いが表情に出さず、憲とは違い美由を心配している。
「私がトイレから帰って暫く待っても美由帰って来ないんだもん」
朋代は捲し立てるように慶や憲に伝える。
慶は校内を走り回り美由を探すが何処にもその姿はない。
「美由……」
ここはどこだろう…
どうして私は…?
トイレから出たら先生に呼ばれて…一緒に歩いて職員室に向かってたら突然眠気が…。
少しずつ覚醒する頭とピントが合い始める視界。
辺りを見回しても誰もいそうにない。
部屋の中にただ一人…。
「助けて……慶」
美由は心の奥で慶に助けを求めていた。
怖くてこれからどうなるのか不安で、泣きそうになってきた時、わずかにドアが開いて光が差し込んできた…。
コツコツ
誰か入って来るけど逆光になっていて顔が見えない。
ガタガタッ
立ち上がろうとしたけど、身体が椅子に拘束されているようで身動き取れずじたばたする。
その間にも足音と人影は近づいて来ていて…。
「いや~~~!!」
とうとう大声を上げてしまう。
「…さん」
じたばた暴れ回る私に近づいて来てしゃがみ込んできた人影。
「たす…け…て」
見上げた私の眼に映るその顔は…。
「美由さん」
「え!? あなたは…」
その声もその顔も私の良く知る人物だった…。