第18話 寺田家
今回の更新分は、武 頼庵さまからのプレゼント作品です。
それから五分ほど走り続けると――
「間もなく目的地よ」
運転する佐野さんから声がかかった。
周りを見ると住宅街が広がっている。ここが寺田さんの住む町かとなぜかホッとした気分になった。何事もなく無事についたという安堵感か何かは分からないけど。
「ありがとうございます」
俺は頭を下げお礼を言う。
「いいのよぉ。あ、ほらあそこに仁美さんが立っているわ」
佐野さんが前方を指をさしながら教えてくれた。
母さんが居るということは事を納める準備は進められているという事。
――良し。順調だ。問題はここからだけど……
母さんの前にワゴン車が横付けされ、俺が先に降りて美由と寺田さんに手を差し出して車から降ろした。その後に大野さんも続く。
「母さん。どうかな?」
それだけを言葉にする。
母さんは頷くだけで何も発することなく、俺達を一つの住宅の前へと誘う様に手を伸ばして先を歩いて行く。
白い壁に赤い屋根をした家の前で立ち止まった。
「準備は出来ているわよ。慶……ご両親はちゃんと何も覚えてないわ」
母さんはそういうとその家へと俺達を案内していく。玄関前の表札にはしっかりと寺田の文字が有る。
ようやくついたその家の前で俺は一つ大きく深呼吸をした。チラッと後ろに居る寺田さんを見てから頷くと、彼女もコクンと首を縦に振った。
ピンポーン
呼び出しのボタンを押す。
「はぁ~い」
少し遅れて女性の声が聞こえる。たぶんお母さんだろう。
ガチャ
ドアが開かれて現れたのはウチの母さんと同じくらいの女性で、エプロンを付けたままだ。
「あら?」
俺達を見てそんな声をもらす。
「え~っと……どちら様……」
「お母さん!!」
女性の声は俺の後ろから飛び出した寺田さんによって打ち消され、そのまま飛び出した彼女が女性にしがみつくことで続きが出て来ることは無かった。
俺はその様子を見ながら心の中で喜んでいた。いつの間にか隣にいた美由は大きな瞳から流れ出る涙を拭う事をせず黙ってその様子を見ていた。
「良かった……」
彼女はそう言うと、いつの間にか俺の手を掴んでいた。俺はその手をギュッと握りしめ、美由としばらくそのままだったその光景を見ていた。
武 頼庵さま素敵なプレゼントをありがとうございました。




