第2話 疑うクラスメイト
家を出る俺を心配そうに見送っていた母に「わかっている」の意味を込めて母の目を見て大きく頷いた。母は、微笑んで頷き返してくれた。
「いってらっしゃい、気をつけて行くのよ」
母は俺と渚に声をかけた。
「はぁーい、いってきまーーす。お兄ちゃん行くよ」
「あぁ、今いく」
「いってきます」
俺と渚は同じ高校に通っている。俺は3年、渚は1年。
渚に返事をして母親にいってきますを伝え、先を歩く渚のところまで急いだ。
電車は相変わらずの満員電車だった。俺は渚を庇いながら電車に乗り込んだ。
「お兄ちゃん、ありがとう」
「あぁ、もう少しだから我慢しろな」
「うん」
こんな会話をしながら高校の最寄り駅まで満員電車と格闘する兄妹。暫くして高校の最寄り駅のホームに電車が滑り込んだ。
満員電車から解放された俺と渚。高校へ向かって歩き出した。最寄り駅から高校までは近いのが便利である。
「お兄ちゃん、ありがとう! じゃあね」
「あぁ、気を付けろよ」
下駄箱で靴を履き替え、それぞれお互いのクラスへ向かう。
「はよ」
「慶おはよ」
「早いな」
教室へ入ると声がかけられる。
右手を軽く挙げて「あぁ、おはよ」と返事をしながら自席へと向かって歩く。
俺の周りでは宿題を写している者、机に伏せて寝ている者、お喋りに花が咲いている女子たち。なんら変わらぬいつもの光景に、俺は窓から外を眺めて今朝のことを考えていた。母さんの心配そうな顔が脳裏に浮かんでは消えた。教室の扉が開き担任の先生が入ってきた。
「おーい、席につけよ。HR始めるぞ」
先生の声が教室に響いた。
「せんせー、そのプリントの束が気になるんですけど!」
「何やらのお知らせってやつじゃないの」
「テストとか言わないでくださいね」
クラスメイトの声が飛ぶ中、先生は一言
「よーく、わかったな! お前たちの大好きな抜き打ちテストだ!」
担任の先生は、これでもか!と思うくらい笑みを浮かべている。
「えぇーー!」
「聞いてないよぉ」
「嘘だぁ!!」
「無理です」
生徒たちの声が教室に溢れた。
「そりゃ、抜き打ちだからな、言ってないな! あはははは」
豪快な先生の笑いが教室に響き渡る。
「朝イチで抜き打ちなんてないよなぁ」
「あぁ…仕方ないなもしかして[抜き打ちなんて嘘]かもしんねぇけどな…」
ピシーン!!
しまった!!
【授業中失礼します。雛月先生、至急職員室にお戻りください】
俺達の教室だけに放送が流れた。
「先生、呼ばれてるよ!」
「先生、何したの?」
「先生、怒られたら慰めてあげるね!」
生徒の思い思いの声が溢れた。
「心配しなくていい。直ぐに戻るが抜き打ちテストじゃなくて宿題にするから渡しておいてくれ!」
そう言って教壇前の生徒に紙の束を渡して教室から職員室に向かって行った…。
「やった! テスト回避!!」
「イェーーイ!」
俺だけが浮かない表情をしているのを見逃していなかった美由
美由に見られていると気づいていない俺だった。