教会へ
「ふい~……。ようやく終わった~」
「お疲れ様です、カタギリさん」
大量の食糧を教会の中に運び込む。
炊き出しは一週間後なので、今日は保存の効くものだけを買ってきた。それでも結構な量だ。
「「「お母さん! おかえり!!」」」
教会に着くや否や、わらわらと数人の子供たちが飛び出てきた。
この教会で暮らしている孤児たちだろう。
「あらあら、みんないい子でお留守番できた?」
「あたりまえだよ! オレがちっちゃい子の面倒見てやったんだぜ!」
「そう。いい子ね」
「わたしはお洗濯したよ!!」
「えらいわねぇ~」
セラルタさんは慈愛に満ちた顔で、子供たちを撫でまわしている。なんか、ほっこりするなぁ。
うちのルリ(見た目は16歳だが実年齢は1歳)もあんなふうに素直だといいんだけどな。
「ところでお母さん、その人誰?」
「ダメだよお母さん! しらない人連れて来たら! 悪魔だったらどーするのっ!?」
あ、悪魔……??
第一印象は大概悪い俺だが、さすがに悪魔扱いされたのは初めてだ。
そ、そんなに悪そうな顔してるだろうか……。
「こ、こらっ!! 失礼なこと言うんじゃありません! この人はカタギリさんと言って、炊き出しを手伝ってくれるんですよ!」
セラルタさんが叱りつけ、子供たちに謝らせる。
子供たちは素直に「ごめんなさ~い……」とぺこりとお辞儀をした。
「すみませんカタギリさん……。こんなでも悪い子たちではないのです。どうか許してあげてください……」
「いえ、気にしてませんヨ?」
本当はだいぶ傷つきました。
「最近、この子たちは何かあるとすぐ悪魔だ、悪魔だと騒いでいて……。ほら、賢者様がきているでしょう?」
「……?? 賢者様が来ているとなんで悪魔の話になるんです?」
「え? ああ、カタギリさんはご存じないのでしたね。賢者様がここに来た理由は悪魔の討伐のためだと噂されているのですよ」
「へぇ……」
賢者様が、悪魔がこの街に潜んでいるという情報をつかんで倒しに来た、という話が市井で広まっているらしい。
悪魔は魔神の下僕で、知性があり、並の魔物とは一線を隔す存在だ。
まず倒すのは不可能といわれている。
しかし、この街に悪魔がいて俺がそれに気づかないとは考えられないが……。
だがもしいたら、あの賢者には荷が重いだろうし調べておく必要があるかもしれない。
「それより、お荷物も重かったでしょうし、お疲れではありませんか? 粗茶しか出せませんが少しここで休まれていってはいかがですか?」
調べておく必要が…………ある、かもしれないが……今は目の前の天使を優先することにした。
「いやぁ、では遠慮なく休ませてもらいますね」
家にもどったらまた仕事だもんな。ちょっとくらい、いいよね。
「ふふ、では私はお茶の用意をしてきますね」
セラルタさんはそう言って、俺に「お構いなく」と言う間も与えず厨房の方へ歩いて行った。
しかしシスターってなんであんなエロく見えるんだろう……。
聖職者という不可侵な神秘さがスパイスとなって、より官能的な美を引き立たせる。
聖書曰く、かつてアダムは蛇にそそのかされ禁断の果実を口にしたという。
セラルタさんという禁断の果実を食すのはいけないことだ。常識的に。
だが俺の中には蛇がいる。
そしてとびきり甘く優しい声でこう囁くのだ。
「おにぃさん、彼女いなさそうですね。わかります」
と。
……え?
いや、これは現実に聞こえた声だ。
気づくと、隣にタヌキ耳の少女が立っていた。8,9歳くらいか?
「えっと、きみは?」
「わたしはエルといーます。おにぃさん、5+8=?」
「13」
「なるほど、頭は切れるようですね。ですが、それもわかっていました。わたしの計算通りです」
「は、はぁ」
なんなんだこの娘?
すんと澄ました顔で立っている。が、尻尾はブンブン振れている。
「次のしつもんです。2×3=?」
「6」
「ほほぅ? ずいぶん”そーめい”なようですね。むろん、わたしの予想通りでしたが」
いや、本当になんだこの娘……。
俺がどう対応すればいいのか手を焼いていた時、目の端でセラルタさんがパタパタとこちらに駆けてくるのが見えた。
「こ、こらエル! カタギリさんが困っているでしょう? すみません、この子、算数を教えてからずっとこの調子で……」
「そ、そうでしたか……」
エルはセラルタさんに抱き上げられながらも「計算通りです」などと言っている。
変わった子だなぁ。
そんなことを思いながらいただいたお茶を啜った。
……ふむ、せっかくだし、お茶のお礼に夕食を作ろうか。これでも定食屋の店主である。
「休ませてもらうだけでは悪いので、一つ料理を振る舞わせてもらえませんか? ただの庶民料理ですが」
「まぁ、本当ですか? ぜひお願いしますわ!」
「計算通りです」
セラルタさん(とエル)の快諾も得られたところで、俺は早速作業に取り掛かることにした。
厨房で料理していると、なぜかエルが手伝いを申し出てきた。
さらに意外なことに、エルは結構手際がいいのだ。包丁さばきも上手いし、料理の才能を感じてしまった。
そんなカンジで俺はチビッ子達とセラルタさんにちょっとした料理をふるまい、子供と少し遊んでからようやく帰ったのだった。
* * *
「らっしゃっせ~。その辺の席どーぞ。注文どぞ~。ありゃっした~。……こ、今度こそどうだ?」
「…………うん、バッチリ!! カンペキだよシャル!!」
無事帰宅したのだが……。
コイツ、なんの成長もしていない……っっ!!
唯一、朝と違う点はルリの心が折れていることだけである。
渇いた笑顔にハイライトの消えた目でシャルに称賛を送るルリを正視できない。
俺は今度ルリに美味いものを食わせてやろうと決心したのだった。
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