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ご近所付き合いは大事

 シャントルはホールに決まったわけだが……。


「らっしゃっせ~。その辺の席どーぞ。注文どぞ~。ありゃっした~。……こんな感じか?」


「シャ、シャルちゃん……。もう少し丁寧に、ね? もう一回やってみよう?」


「うう~……」


 ホールはルリの仕事なのでルリに指導を任せた。なかなか難儀しているようだ。

 そうなんだよなぁ。ルリはもっと働いて、苦労すべきなんだよなぁ……。


 と、ウェイトレス姿の少女二人を観察している場合ではなかった。

 今日は区内会があるのだ。


 平民区は北区、南区、西区、東区とわかれていて、それぞれ区内会という自治会がある。

 俺たち西区の区内会会議が今日、集会所であるというわけだ。


「じゃ、俺はちょっと出かけてくるから。ルリ、その間にシャントルにいろいろ教えといてくれよ」


「はーい」


 ちなみに今日は定休日である。





 * * *





 この世界において、近所付き合いはいわば保険の代わりだ。

 生活を保障してくれる制度なんてないので、周りとの助け合いが命綱である。

 俺も以前、近所のボヤ騒ぎで消火活動を手伝ったものだ。


 そしてその”近所の助け合い”を組織化したものが”区内会”だ。


 こういうと区内会というのはとてもいい制度のように思える。

 俺も今まではそう思っていたとも。

 だがそれは必ずしも正しくないということを俺は今日思い知らされた。


「……というわけで、今月の炊き出しは『三日月亭』のカタギリさんにお願いするということで。よろしいですかな?」


 区内長さんの声に賛同するようにパチパチと拍手がなる。


(チ、チクショウ……!!)


 炊き出し。

 貧民区で教会主導でやっている慈善活動だ。

 教会の人々だけでは人手が足りないのでこうして平民区の住民も協力しているのだ。

 ここの人々はちゃんと白の日(日曜日みたいな曜日だ)には教会に行ってお祈りをする者が多い。

 教会への協力に賛成な人が大多数である。


 万一、区内会の決まり事を無視したら俺のような引っ越して日の浅い新顔はどうなるか。

 そんなのは火を見るよりも明らかだ。


 面倒な仕事でも、ことわると白い目で見られることになる。

 残念ながら受けざるを得ないのである。


 あ~、タダ働き……やだな……。







 区内会の後、早速シスターさんとの話し合いがあった。

 運のいいことに、シスターさんは大変な美人さんであった。

 水色の髪と垂れ目が特徴的な、おっとりお姉さんだ。

 名前はセラルタさんというらしい。

 

 当日の役割分担や必要な物などの確認をして、そのままシスターさんと商店通りで買い出しをすることになった。


「今回は私たちに協力していただけるということで、改めて深く感謝申し上げますわ」


 ぺこりとお辞儀をするシスターさん。

 その動作に連動して、果実がたゆんと揺れたのが修道服越しにもわかった。


(ほぅ……)


 慈善活動なんて面倒だと思っていたけれど、エロいシスターさんと無料で触れ合えると考えれば悪くないのかもな。

 俺は低音ボイスで返事をする。


「いえ、感謝だなんてとんでもない。僕も日頃から何か自分にできることはないかと考えていたんです。むしろこの機会を与えてくださったことに僕が感謝したいくらいです」(キリッ


「まぁ! なんて心の澄んだお方なのでしょう……」


「いえいえ。時間ももったいないですし、行きましょうか。さあ、僕と手をつないで…………って、なんだ?」


 集会所から通りに出ると、そこは人でごった返していた。

 いや、正確には道の両端が人でいっぱいだった。

 ちょうどこれからパレードでもやりそうな雰囲気だ。


「……祭りか?」


「おや、カタギリさん知らないのですか? 賢者ヨハネス様ですよ」


「ヨハネス様?」


「世界各地で悪しきを罰し、善を為すために活動しておられる徳の高いお方です。魔術にも精通されていて、特に聖魔法に関しては人類史上最高峰だと言われています。かの魔神を討伐した勇者サクリードをも凌ぐとか」


「へぇ~。すごい人ですね」


 この状態では目的の店までいけないし折角なので賢者様の姿でも拝んでおくか。

 この世界のトップクラスの人間がどれくらい強いのか知るいい機会だ。


 しばらくすると、金髪のイケメンが警備や取り巻きらしき集団に囲まれながら現れた。

 あれが賢者様か。


 そして良く見えないが、なにやら魔物を台車にのせてゴロゴロと引いているようだ。



「おお! グリフォンだ!!」

「賢者様が悪しき魔物に天罰を下してくださった!!」

「賢者様万歳!!」

「さすが賢者様。単騎でグリフォンを討たれたらしいぞ!」



 オーディエンスの声が聞こえてくる。

 単騎でグリフォン討伐、か。なかなかやるもんだ。


 賢者様の実力は本物らしい。

 だがグリフォンは縄張りに入らなければ、襲ってくることのない魔物だ。

 だから賢者様はグリフォンをこうして見世物にするためだけに狩ったということになる。


 ……俺は思う。

 グリフォンにだって、グリフォンの生活があったんじゃないか?

 ただ生きようと必死だっただけなのにどうして殺されねばならなかったのか?

 俺も以前は魔物を虐殺して世界をまわっていた時期もあるが今は違う。

 魔物とて、殺さずにすむなら殺さない。

 だから俺もシャントルを助けたとき、ああして投げ飛ばすだけにーー



「しかし賢者様はどうやってこのグリフォンを討伐されたのだろう。首の骨がぽっきりと折られているが……」

「ああ、首にものすごい力で掴まれた痕がある」

「それに見ろ、あの翼を。めちゃくちゃな方向に曲がっている。あれではまるでーー」

「そうだ。まるで、”首を怪力で掴まれ、力任せにぶん投げられた”かのようだ」

「いったい賢者様の魔法とは……不思議だ……」



 …………。

 ………………。


 まぁ、いろいろ考えたりはしたけど、魔物は人に害を為すのでとりあえず殺しておいて間違いはないと思うよ。


 いや、それはともかく。

 どういうことだ? 

 俺が出会ったグリフォンに特徴が酷似しているようだが……。

 本当に賢者様が倒したんだよな?


 気になった俺は【神眼】を使って焦点を賢者様に合わせた。

 そして【アナライズ】で鑑定……っと。


「えっ!? レベル50!?」


「? どうかしました?」


「あ、いえ……」


 隣のセラルタさんに変な顔をされてしまった……。

 いや、そうじゃなくて、レベル50だと?

 レベル50って言うと、ちょっと強い冒険者程度だぞ?

 シャントルはレベル55だと言っていたので、ヨハネス様はグリフォンに殺されかけたシャントルよりも弱いことになってしまう。


 こりゃグリフォンを討伐したんじゃなくて、死んでたグリフォンを持ってきた、が正しいみたいだな。

 でもさらに【アナライズ】をすると、彼が賢者と呼ばれる理由も少し見えてきた。


 伝説級(レジェンダリー)武器(ウェポン)の杖、『グリットクロス』を持っていたのだ。

 聖魔法に関してのみ、レベル150相当の魔法を扱えるようになるものだ。

 さらに魔法全体に対してプラスの補正があったり、魔力上昇の効果だったりと伝説級の名に恥じぬ性能をしている。


 たぶんそれでもあの金髪イケメンの魔力では足りないだろうから、その辺はきっと魔石やらの装備で補っているのだろう。

 なんか見ちゃいけないものを見ちゃったようだな。

 あの賢者様は豪華なアイテムで彩られたハリボテの英雄のようだ。


「セラルタさん。そろそろ行きましょうか」


 俺たちはその場を後にした。

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