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戦時の王都

 15万もの兵を率いるとなると、一日の行軍速度はせいぜい10キロ強が限度だ。


「メーレまでは80kmほど。一週間はかかるな……」


 出陣にあたってゲヘナーには一つだけ懸念があった。

 ――物資だ。

 魔境で知られるグランテ火山で食料を調達するのは難しい。。

 Lv.90を超えるゲヘナーならば死ぬことはないかもしれないが一般兵の平均(アベレージ)はLv.45。むやみに山に入れば全滅は免れられない。


「う~む……。……ん? そうだ! そうではないか! 物資などそこらに溢れているではないか!!」


 ゲヘナーは満足げに髭を撫でる。


「さっそく調達するとしよう」 


 椅子を立ち上がった彼は部下を招集した。





* * *




 王都、商店通り。


「なっ、何するんですかぁ~~!!」


 ルルエは兵士に羽交い絞めにされていた。

 彼女にできることはただ踏み荒らされる自分の店と舞い散る紙切れを眺めることだけだった。


 自分が大切にしてきた古書が次々に破れ、裂け、踏みにじられていく。


「ちっ、大したものはないか。次に行くぞ!」


「「「はっ!」」」


 目じりに涙を溜め、地面に座り込むルルエの横を大勢の兵士が通り過ぎていった。


「ど……どうして……ひどい……」


 いきなり理由も告げられず店を荒らされたのだ。

 ルルエは放心状態だった。


 そんな彼女に近寄る男がいた。


「嬢ちゃん、大丈夫か?」


 ばっと顔を上げるとそこには肉屋の店主がいた。


「おじさん……」


「災難だったな。俺の店もやられたよ。あいつら、店の商品勝手に持っていきやがった……」


 ゲヘナーの物資枯渇を回避する秘策。

 それは至極単純かつ確実な方法だった。

 

 すなわち、民衆から略取することだ。


「俺たちだけじゃない。奴ら、そこらじゅうで同じことをしてるよ」


「なんでこんなひどいことを……」


 ルルエは涙をぬぐう。


「あいつらにとっちゃ市民は家畜かなんかなんだろ。……ってちょっと待て。あっちの方角は……」


 肉屋の店主は兵士たちが向かった方に視線をやった。






ーーside ゲヘナー ーー


 我々は国民から物資の提供を受ける権利があり、義務があるのだ。

 国民であるからには外敵と戦う軍に協力するのは当然のこと。

 戦争時、市民の財を使うは兵士の権利である。


 今、そうして多くの民から物資を回収しているわけだ。


「ここは……」


 とある店の前に着いた。店の看板には『三日月亭』と書いてある。

 見覚えがあるなんてものではない。

 このみすぼらしい店を見ていると怒りがこみ上げてくる。


「おい! 次はここだ!」


「「「はっ!」」」


 この店は大罪人が保有していたものだ。

 故に、そこにある物はすべて国の物になる。

 のだが……


「いや……待て。まず私が見て来よう」


 部下の兵士にやらせようとおもったが気が変わった。

 この店は私が直接入ってやろう。

 手ずから罰を下してやろうではないか……!!


「おのれぇ……忌々しい下民が……」


 手に力が入る。


 中はいたって普通の定食屋だった。

 木のテーブルに椅子、少し大きめのキッチン。

 食糧庫の中のものはすべてダメになっているだろう。

 

 件の冒険者崩れの店主は民衆の話だと既に逃亡しているらしい。

 逃げるとは今更に自分の愚かさに気づいたか。

 ああ……本当に忌々しい。

 偶然とはいえ、あのようなクズに後れをとるとは。


「……ん?」


 店の内部を見分していると地下へ続く階段を見つけた。

 なるほど、やましい物はここに隠していると見た。


 階段を下るとそこには――


「なっ、なんだこれはっっ!?!?」


 武器が並んでいた。

 それも並みの武器ではない。一目で一級品、いや、規格外とわかる武器ばかりだ!


「そ、そうか! 奴はやはり敵国の間者だな!? こうして秘密裏に王都に武器をそろえ、敵国勢力を集めて武装蜂起しようとしていたに違いない!!」


 確信を得た。

 やはりあの男は外道だったか。

 見た目がパッとしないのもある意味スパイに適していると言えよう。


 きれいに並べられた武器のうち、鈍く光る漆黒の剣を手にとる。

 いや、取ろうとした。


「ぬうぅっ!?」


 お、重すぎる……っ!

 私の手を離れた剣は床にふわりと落ちた。まるで羽毛か何かのように。


「なんだこの剣はっ!?」


 面妖な……!

 おそらくまともな武器ではないな。

 力と引き換えに使用者に大きな負荷を伴うような魔剣・邪剣の類だろう。


 しかし他の武器を試しても結果は似たようなものだった。


 ある弓は手に取ろうとした瞬間に棘が出てきたり、ある杖は掴もうとするとすり抜けて取れなかったり……。


「ぐぬぬ……む?」


 きれいに陳列された武器とは別に、乱雑に木箱に入れられている武器を発見した。

 だが、


「うおっ!? この杖カビが生えているではないか! この短刀もホコリをかぶりすぎているし、こっちの斧は持ち手の部分に何か飲み物をこぼした跡がある……!!」


 ここの武器はダメだ。

 どれも管理がなっていない上におそらく性能も低いのだろう。


 もういい。

 この店から得られるものはない。


 私は油をまいて地下室から出た。

 そして店中に油をまいていく。

 二階の居住スペースも含めてだ。


「敵の拠点は潰しておかねばなぁ」


 外に出ると私は火を放つ。


「ふふ、ふははははっ!!!」


 いかん。

 笑いがこみ上げてきた。

 悪を断罪するということはこれほどまでに痛快なことだったとは。


 火は見る見るうちに大きくなり、数分後には店を包み込んだ。

 赤く輝く店を後に、私は兵を率いて歩き出した。





* * *





 ゲヘナーが放火してからわずか1時間後。

 火は消えていた。

 誰かが消火したのではない。元から聖がDIYで作ったこの店は耐火性、耐久性に優れているのだ。


 オリハルコン筋コンクリート製の店は火が燃え広がることはない。

 油が燃え尽きたらそれで火は収まるのだ。


 だが内装はそうはいかなかった。

 テーブルやら衣服やら、そういったものは燃え尽きてしまった。


 聖たちがこれに気づくのはもっと後になってのことである。


 

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