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反撃前夜

 メーレにて。


――ドゴォォォッッ


「!? 何事かっ!?」


 突然の爆音。

 近衛騎士団団長だった大男、ガイアスは急いで窓に駆け寄り外を見た。


「むむっ!」


 モクモクと砂煙が立ち上る中、数人の人影が見えた。

 小柄なシルエットが3つ、かなり小さめな影が1つ。そして普通くらいの大きさの影が一つ。


「もしやあれは……!」


 ガイアスはその人影の集団が何者なのかすぐに察しがついた。

 そして剣も持たずに屋敷を飛び出した。


「陛下! 陛下ぁ!」


(サクリード殿が陛下をお救いくださったか!! おお、我らが王よ……!)


 ガイアスの走るスピードはさらに上がっていく。

 あふれ来る涙を抑え必死に走った。

 ただ、自らの主の無事を確かめたいがために。


「陛――――ほぁっ!?!?」


 だが飛び込んできたのは光景は思っていたものと違った。

 敬愛する我が主、ロザリー・フィ・ヴァイツェンは確かにいたのだが……。


「このダメ英雄! アホ!! マヌケ!!」


「申し訳ございません! 申し訳ございません!」


 必死に額を地面に擦りつける勇者と……。

 それをゲシゲシと蹴っているあるじの姿。

 それを見ている三人の少女たち。


「こ、これはいったい……」


 ガイアスの感激の涙など吹き飛んでいた。





* * *


――side ガイアスーー



 私はひとまず陛下とサクリード殿のご一行をメーレ城内にお連れした。

 メーレの領主殿には今は別の仕事をしてもらっているのでここにはおられないが、領主殿も我らの心強い味方の一人だ。


 サクリード殿のお仲間の三人にゲストルームで休んでもらっている間、我々三人は場所を談話室に移してテーブルを囲んでいた。


「なるほど……ベイルが武力行使に出たと」


 私はサクリード殿と陛下より事のあらましを伺った。

 ベイルめ。よもやサクリード殿にも刃を向けたか。


「そう。セイのおかげで何とかなったけど」


「ひひっ、恐縮です」


 サクリード殿はこめかみから汗を垂らしながら目を細め、手をこねている。

 ……時々、この方が勇者なのか疑問に思ってしまう。


 しかしお二人はどうされたのであろうか……。

 サクリード殿はいつも以上に卑屈っぽくなっているというか……。それに陛下も陛下でぷりぷりしていらっしゃる。


「……あの、いかがされたのですか?」


 私は思い切って聞くことにした。


「えっ? なにが?」


「いえ、その、陛下のご気分が優れないようで……」


 途端、サクリード殿の眼が泳ぎ出した。

 なんとわかりやすいお方か。


「いえね。ちょぉ~~っとセイが粗相しちゃっただけよ。ね?」


 にこっと笑ってサクリード殿の方を向く陛下。サクリード殿が「ひぃっ」と消えそうな声を漏らした。


「あ、いや、その……$%*.&#」


 ごにょごにょ言いながらサクリード殿は俯いてしまった。

 母親に叱られている子供のようだ。


「セイはね、お店の倉庫のカギを閉め忘れたんだって」


「は、倉庫のカギですか?」


「そう。神造級(ディバイン)武具(ウェポン)が山ほどあってエリクサーみたいな国宝級のアイテムで埋め尽くされてる倉庫のね。メーレに跳んでる最中に急に『やべっ』なんて言うものだからびっくりしちゃったわ」


「!?!?」

 

 はぁ、と陛下がため息をつく。


「で、でも! 神造級武具は要求筋力値が高いからLv.200はないと持てないと思うし……アイテムも俺しか開けられない箱に入ってるし……」


「うふふっ、セイ君ったらおつむが弱いのね。剣聖はLv.400以上なんでしょ? 神造級武具が取り放題ってだけで大問題でしょ?」


 終始にこにこと笑っている陛下が怖すぎる。


 そんな陛下をみてサクリード殿はふっとほほ笑んだ。

 かと思うと不意に床に膝をつき、実に見事な土下座をした。


(サクリード殿……土下座に抵抗がなくなっていらっしゃる……)


 不憫だ。

 ここまで洗練されたフォームは一度や二度の土下座では得られまい。

 あなた、いったい何度土下座してらっしゃるのですか……。


「ま、それはもういいわ」


 陛下のお声にサクリード殿がバッと顔を上げた。


「だよな! そんな小せえこと気にしてる場合じゃないよな!」


 急に元気になったサクリード殿は揚々と陛下の隣に腰掛ける。

 サクリード殿、私は聞こえてしまいましたぞ……今陛下が「チッ」と舌打ちしたのを。


「あ、そういえばガイアスさん。他の騎士団メンバーはどうしたんですか? メーレに集結してるんじゃなかったんですか?」


「ああ、団の者にはそれぞれ書簡を持って各地の諸侯のもとに向かわせております。メーレの女王政府への協力を要請しておるのです」


「ほぇ~……。行動が早いですね」


「陛下から事前に命を受けておりましたゆえ」


 そう。

 陛下が幽閉される前――どころかベイルが台頭する前に受けた命である。

 『自分に代わる王政が強引に建てられた場合はこうしろ』という詳細な命を託されていたのだ。


 つまり、こうなる可能性をずっと前から考えておられたのだ。

 陛下の先を見る力にはいつも感心させられる。


 しかし腑に落ちないところも多々ある。

 まず、このメーレを拠点に選んだ点だ。


 王都に近いここでは体勢を立て直すのが難しい上、攻められやすい。

 陛下のことだから考えあってのことだとは思うが……。


 いずれにしても、私はただ陛下について行くのみだ。


「陛下、まずは何をされるおつもりで?」


「まずはメーレ政府の樹立宣言。それとベイル王に対する宣戦布告ね」


「いっ、いきなり宣戦布告か!? もうちょっと休んでしっかり準備してからの方が……」


 サクリード殿の言はもっともだ。

 私もサクリード殿に同意である。

 だが陛下は意見を変えなかった。


「短期決戦でなければ勝機はないわ。相手はこっちの宣戦布告なんて待たずに攻めてくるでしょうし。それに準備は整っているわ」

 

 陛下の凛とした声がメーレ城の談話室にこだました。


 ああ、そうだ。

 これだ。


 これが我らが王だ。

 

 決して揺らがぬ精神と知略をそなえた少女。

 私には見えぬものを見ている。


 そこからは私もサクリード殿も意を唱えなかった。

 この王を信じようと決めたのだ。



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