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契約

 俺たちはいったん店兼自宅に戻っていた。しかし、本当は人助けなんてしてる余裕ないんだけどなぁ。こっちだって過労でしにそう………………ん??


「そうか!!」


「お父さん急にどうしたの?」


「ーーひらめいたよ。この灰色の脳細胞が、最高の策をね」


 こうしちゃいられない。

 俺は装備を整え、早速『黒の森』に向かった。とある羊皮紙を携えて。







「う~~……。久々に城壁の外に来たけど、やっぱ森に行くのやだな……虫が多そうだ」


 陰キャラ……ではなくインドア派で文化系な俺は出かけようという決意も容易に揺らぐのである。

 とはいえ、今回はさすがに人命もかかっているので帰ろうとは思わない。


 俺は無言でルリに手を差し出した。ルリがその手を握ると同時に、スキルを発動する。


「【クイックスライド】」


 Lv.150に到達すると獲得できるスキルで、高速で移動することができる。

 制御はすこし難しいがとても便利なスキルだ。


 街を出てわずか5分。

 俺たちは『黒の森』に着いた。


「さて……【エクストラサーチ】」


 広範囲の索敵スキルを発動する。

 半径5キロメートルの敵の位置と能力、状態まで感知できる。

 我ながら高ランクスキルたくさん持ってるのはずるいよな…………とぉっ!?


「【神眼】っ!!」


 【エクストラサーチ】で見つかった敵の中に、”疲労状態”と示された人間を囲んでいるブラッドロア(大型のオオカミの魔物)の群れがいた。

 ここからはだいたい3キロ離れている。


 遮蔽物を無視して遠方を見渡せるスキル、【神眼】で敵を確認する。

 赤毛の少女が片膝をつき、今にも魔物に倒されそうな様子が確認できた。


「【ボルテックライナー】!」


 高出力の電撃を走らせるスキルを放つ。

 この【ボルテックライナー】も非常に優秀なスキルである。

 威力もだが、何より射出速度がかなり速く射程もレベルに比例して広がる。


 12発放ち、すべて一撃でブラッドロアを屠ることができた。

 少女は何が起こったのかわからず、周りを見回しているようだ。


 とりあえずオオカミは排除したが……。

 残念なことに少女のいる位置はグリフォンの縄張りだったようだ。


 【エクストラサーチ】で表示されたマップで、大きな赤い点が少女のところに向かっている。

 おそらくブラッドロアとの戦闘で気づかれたのだろう。


 だが俺にとっては好都合である。


「ルリ、すまんがここで待っていてくれ」


 俺は【クイックスライド】で少女のもとに向かった。





………………

…………

……





 オレは自分の目が信じられなかった。

 オレに襲い掛かろうとしていたブラッドロアが一匹残らず消し飛んだのだ。


 どこからか飛んできた閃光がブラッドロアを次々に貫いて行った。

 いや、貫いたというのは正しくない。

 ブラッドロアを骨も残さず蒸発させていったのだ。


 かなり高名な魔術師でなければあんな芸当は不可能だろう。

 どうやら、勇者級の猛者が救ってくれたようだ。

 おそらくは音に聞く賢者様の所業だろうな……。

 ちょうど王都に寄っていると知り合いが言っていた気がする。


 ともあれ、はやくここから移動しねぇとヤバい。

 一度聞いたことがる嫌な音が近づいてきた……! 

 ――グリフォンの風を切る音だ。


「ぐ………っ!」


 立とうとしても力がうまく入らない……っ!


 それでも何とか立とうとするオレの周りが、急に陰になった。

 空を仰ぐとそこには、


「グォォォオオオオォォォォォォォオオッッッ!!!」


(グリフォン…………!)


 ――勝てない。

 オレは悟った。

 これはオレのような中堅冒険者が相手にしていいヤツじゃない。


 グリフォンを見ると、心なしか笑っているようにさえ見える。


「グゥ……グルル……」


 グリフォンが唸る。

 チッ……奴の喉を鳴らす音にさえ恐怖を覚える自分がいる。


(死にたくねぇ……ッ!)


 無慈悲にグリフォンが前足を大きく振り上げる。


(助けてくれッ!)


 迫るグリフォンの爪にオレはそっと目を閉じ――


「――危なかった。君がシャントルさんだね?」


 その声にハッと目を開けると、黒髪の男が見たこともないスキルを展開しグリフォンの攻撃を完全に封じていた。

 半透明の水色の障壁を何度も引っ掻いているが、ビクともしていない。


「……えっと、シャントルさんであってるよね?」


「あ、ああ……」


「今は何とか防いでいるが直にこのバリアも破られるだろう…………。さすがグリフォン。強力な魔物だ!」


 そうなのか……? 障壁(バリア)は微動だにしていないし、傷一つなさそうなのだが。


「だがたった一つ、僕たちが助かる方法がある」


 男はそう言うと、グリフォンに背を向けてオレに一枚の紙を手渡した。

 さっき、「直に破られる」とか言ってなかったか? 

 背中向けてていいのか……?


 オレのそんな疑問に男は気づくこともなく、話を続ける。


「僕とある契約をしてほしいんだ。そうすればグリフォンをなんとか退けられるかもしれない」


 契約……。

 ダメだ。

 パーティとはぐれてから一睡もせず飯も食えてないせいか、意識が朦朧としてきた。


 視界も妙にぼやけてきて、男から渡された紙に「社員雇用契約」なんて書いてあるように見えちまう。


「君の協力が必要なんだ。さあ、そこにサインをしてくれ。大丈夫、なにも危険なことはない」


 渡されたペンを握る。理屈はわからないがこれに書けばオレは助かるらしい。

 サインを書こうとして……手が止まる。


(いいのか……? 本当に書いてしまって)


 男が胡散臭すぎる。だが、この男がいなければオレが死ぬのもまた事実……。


「どうした? 手が止まっているよ。助かりたくはないのかい?」


 そうだ。

 助かりたい。

 オレはまだ死にたくないのだ。

 迷っている場合ではない。


 オレは契約書に自分の名を書き始めた。


「そうだ……それでいい。いい子だ」


 書き終えたところでオレは意識を手放してしまった。





………………

…………

……





 気を失ったシャントルが握っている紙を取り、バッグにしまう。


「クク…ククク……クハハハハハッッッ!!」


 いやぁ。順調、順調。

 おっと、先にグリフォンを退治しておかないと。


 【デナイアル】という防御スキルを解除し、グリフォンの首をつかむ。


「よっ……と!」


「グオオォォォーーーー」


 そのまま山の向こう側に筋力(ちから)任せに放り投げておいた。


 今回の俺の策を改めて説明しよう。

 俺たちの目下の課題は従業員の確保だ。


 そこで俺は疲弊して正常な判断力のなくなっているシャントルならば契約もさせやすいと踏んだのだ。

 後で回復して冷静になれば騙されたことに気付くだろうが、命を救われた手前、断り辛いに違いない。


 シャントルの親、すなわち肉屋のおやじが反対するだろうって?


 だがよく考えてほしい。

 まず、もし自分の娘が冒険者をしていて死にかけたなら、その親はどう思うだろうか。


 当然、冒険者なんてもうやめてほしいと思うはずだ。

 そう思っていたら、帰ってきた娘がなんとファミレスの従業員契約を結んでいるではないか。

 安全な街中の、ファミレスである。


 一体どこに反対する余地がある?


 俺は自分の才能が怖いぜ……!

こんなカンジの人として最低な主人公ですが、よろしくお願いします。

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