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王との会合

 

――聖――



 聖は足に力を入れ、高く跳びあがった。


(【神格顕現】)


 空中で勇者としての姿、銀髪金眼になる。


 大きく跳んだ聖はアーチを描いて貴族区をまたぐ。

 【サイコキネシス】で速度を調整してふわりと王城の門前に着地すると、カツカツと地面を鳴らしながらそのまま門兵の眼前に近づく。


「こ、これは勇者様! いかがなされましたか!?」


 門兵の一人が問う。


「王に話がある。悪いが通してくれ」


「それは……。いかに勇者様とは言え、事前に話を通していただかないと……」


 門兵は聖のただならぬ雰囲気に戸惑いながらも、門兵としての職務を果たす。

 無論、それで聖が「はいそうですか」と帰るはずはない。怒りを含んだ声で聖は答える。


「そう言うのであれば、そちらも前もって言っておくべきだな」


「は?」


「前触れのない襲撃……。かの王は我が友に刃を向けた。であればその意を問い、その(げん)に理が無ければ剣を交えるのみだ」


「ッ!?」


 驚いた、などというありふれた言葉では言い尽くせないほどの衝撃を門兵は受けた。

 勇者から「王と対立することをいとわない」と言われたのだ。


 勇者との友好関係がヴァイツェンの強みであり、他国がヴァイツェンを攻めようとしない理由でもあった。


 勇者の守護があってこそのヴァイツェン。

 そんなことは子供だって理解している。


「ゆ、勇者殿……!」

「ご、ご冗談を……」


 門兵たちが慌てるが、当の勇者たる聖はというと王城を見上げているだけだ。


 門兵と話していては仕方がないことも入城の許可など下りないこともわかっていた。聖は当て身で門兵を昏倒させる。

 「うっ」というかすかな声とともに門兵たちが眠ると、聖は『心域』から槍を取りだした。


「はっ」


 目の前で軽く槍を振るった。

 ブォン、という音がしたと同時に、城の周りに張られている不可視の物理結界、魔法結界が破壊される。


 城の中では警報が鳴り響いていることだろう。

 聖は表情一つ変えず、城の中へと歩みを進めた。




* * *



――王華騎士団副団長ジジル――



「何が起きた!? 早く情報を伝えろっ!」


 『近衛騎士団』に代わり軍の指揮権の大部分を持った『王華騎士団』。その副団長であるジジルは頭を抱えていた。


 『王華騎士団』の団長であるゲヘナーが満身創痍の状態で城壁に突き飛ばされてきたばかりか、物理結界と魔法結界が相次いで破られた。


 つい先日、大きな顔をしていた『近衛騎士団』を解散に追いやり、事実上この大国において5本の指に入るほどの権力を手にしたばかりだというのにどうしてこうなるのか。


 だがそんなジジルの耳を裂くように爆音が飛び込んできた。


「――ッ!? 今度は何だ!?」


「城門が! 城門が破壊されました!!」


「なんだと!?」


 ジジルは唇を噛みしめる。

 不快さを隠そうともせず、大声で部下に指示を飛ばした。


「侵入者を捕まえろ! その場で殺してもかまわん!」


(まったく……このような失態、ベイル陛下にどのように言えばよいのだ……!)


 ジジルはドンと強く机を叩いた。




* * *



――聖――




 廊下を闊歩する聖の周りには何人もの兵士が倒れ伏していた。

 皆一様に気を失っており、そしてなにより傷一つ負っていなかった。


「変わっていないな、2年前から」


 かつて勇者として聖は王城で暮らしていた。だから中の構造はよく知っている。

 一切の迷いなく、聖は玉座の間を目指していた。




* * *


――国王ベイル――



「ベイルどうする。俺も向かうか」


「いえ。『剣聖』様にはここに残っていただかないと」


 玉座に座るブロンドの長髪の男とその横に立つ短髪の筋肉質な男。

 ヴァイツェン王国の現国王のベイル・ギゥ・ヴァイツェンと『剣聖』の称号を持つジーク・ランドハートという名の男だ。


 正体不明の侵入者がいること自体は当然ベイルも知っている。だがまったくと言っていいほど慌てていなかった。

 なにせ、隣には『剣聖』がいるのだ。万に一つも『剣聖』が侵入者ごときに負けるとは思っていなかった。


 ベイルの考えは決して過信ではない。実際、剣聖ジークの強さは絶対的だ。近接戦では勇者以上という評価もある。レベルは134に達し、既に人外の領域である。

 筋肉は決して膨れ上がってはおらず、しなやかで密度が濃い。そのためスピードを殺すことはない。


「俺の目的は強き者との戦闘だ。それさえ守ればいくらでも手を貸そう」


「ありがとうございます、剣聖ジーク」


 ところで、と少し間を開けてベイルがジークに尋ねた。


「あなたなら勇者サクリードに勝てますか?」


「無論だ。人も殺せぬ弱者に俺が負けるはずがない」


「ふふっ……。実に頼もしい……」


 ジークの返答にベイルは満足そうに笑った。





* * *


――王華騎士団副団長ジジルーー



「まだか! まだ侵入者は見つからんのか!!」


「すでにすべての場所に兵を向かわせていますが……玉座へ続く廊下に向かった兵が戻ってきません……」


「おい……それは冗談にならんぞ……。玉座の間への侵入を許すなど……」


 嫌な汗がジジルの額を伝う。

 だがその嫌な予想はこのすぐ後に現実のものとなる。




* * *



――聖――



 いつもここに入れば真ん中のバカでかい椅子には彼女が座っていた。


 ――女王、ロザリー・フィ・ヴァイツェンが。


 聖はかつての生活を思い出し、すこし躊躇ったが、その分厚い玉座の間への扉を蹴破った。

 部屋の中に足を踏み入れれば、そこにいるのはたった二人だけ。ブロンドの髪の男と深い藍色の短髪が特徴的な男。


「勇者サクリードという。今日は貴殿に話があってやって来た」


 聖は大きくはないがそれでもよく通る声で告げる。


 ブロンドの男、すなわちベイルは少なからず驚愕を顔に出していた。一方で剣聖ジークは目を細め、聖を値踏みするように眺めている。


 すぐにいつも通りに作り笑いを浮かべたベイルは聖に問う。


「まさかかの勇者様がこうも物騒な方だとは。して、いかようですか?」


「今朝、私の友が貴殿の命により殺されかけた。その真意を問いたい」


「今朝……というと、ああ。あの定食屋の一味ですか。彼らは敵国の間者だったのですよ」


 その言葉に聖はわずかに声を大きくして返す。


「そういう話はもういい。私が聞きたいのは、平民や獣人の孤児ならば貴殿の都合で殺していいと本気で考えているのか聞かせよ」


 ベイルはすこし怪訝な顔をする。いったい何が不満なのかわからない、というのがベイルの率直な思いだった。王が弱者の生命権を握るのは当たり前だ。そこに疑問を持つという発想自体おかしい。ベイルはそう信じていた。


「ふむ、そうですね。ではその勇者殿の御友人は特別に温情ということで、今回は警告のみにしましょう。実刑は免除とします」


「それは私の質問の答えではない」


「……どうやら勇者殿は博愛主義が過ぎるようだ。けれど、そうですね。確かに私も驕っていたかもしれません。勇者殿の友人に刃を向けてしまったことを謝罪しましょう」


 ベイルは軽く頭を下げる。


 王からの謝罪。

 破格すぎる対応だった。

 だが聖は逆に拳に力を込める。


「今のが……謝罪だと?」


「……何か?」


「別に椅子に座ったままであろうと構わん。上からの目線のままでの言葉も、まったく感情のこもっていない言い方も許す」


「…………」


「だがな――」


 聖が金色の眼でベイルを睨む。燃え盛る烈火を思わせる視線だ。


「貴様が自分の考えに一切の疑問を抱いていないのは許せんぞッッッッッ!!!!」


「――ッ!?」


 一瞬、聖から魔力があふれ出しステンドグラスを割った。

 ベイルの心臓が、脳が、最大限のアラームを鳴らす。


(これはまずい……!!)


 勇者を本格的に怒らせた。

 ベイルはそれを今、真に理解した。


 なんとかこの場をやり過ごす策を練るベイル。だが一方で剣聖ジークは終始腕組をしているだけだ。そのジークはベイルの焦りを見て、仕方なしとばかりに口を開いた。


「しかし勇者よ。お前は今この国の王にとんだ無礼を働いている。王の守護を任される身としてはお前に罰を与えてやらねばなぁ」


「…………」


 聖は視線をジークに移す。

 ジークの目的はただ強い敵と戦うことだけ。そんな時、目の前に現れた勇者は格好の獲物に見えた。


「どこの騎士かは知れぬが私と刃を交えるというか」


「騎士ではない。俺は『剣聖』。剣聖ジークという」


「貴殿にようはない。剣を収めるがいい」


「そうはいかねぇ――なぁっ!!」


 ジークが地面を蹴る。

 一歩で間合いを詰めると聖に斬りかかる。だが、剣は大きくからぶった。


「む、いないだと――ガハッ!?」


 ジークはいつの間にか天井に打ち付けられていた。


(この俺がッ……!)


 天井から落ちるとジークはすぐに体勢を立て直す。

 そしてまたも聖に向かって斬りつける。だが今度は斬りつけるモーションに入ってから急激に剣筋を転換させ、聖の手首を狙った。


 派手ではないが剣技としての練度の高い技だ。戦士にとって腕の腱を切られればそれは敗北を意味する。


(取った……!)


 が、ジークの手にぬるりとした嫌な感触が走る。

 そこには、ジークの剣の柄には、聖の手が添えられていた。


 まるで魔法のようにするりと剣が聖の手に移っていく。

 あっけに取られていると気づけばジークの首には剣が当てられていた。


(武器を……攻撃中に奪うだと……!?!?)


「もう一度言う。貴殿に用はない」


 聖は冷たい声を放つ。

 剣こそジークに向けられているが、その金色の眼はベイルを見ている。まさしくジークは眼中になかったのである。


「ぐっ……この俺が……ッッ!!」


 圧倒的な実力差。それを目の当たりにし、ジークは言葉を失う。


 聖に睨まれていたベイルはハッと何かを思いだしたような顔をした。


「ゆ、勇者殿。我々の相手もいいですが、前王たるロザリー殿下はどうしているか知っておいでですか?」


「なに?」

 

「悲しいことに彼女もまた反逆を企てていたのですよ。国の安全を守る身としては――ぐっ!?」


 目にも止まらぬ速さで移動し、ベイルを掴み上げる。


「ロゼに何をした……」


 今まで以上の怒気が聖の言葉からあふれ出している。


「ま……まだ何もしていませんよ……。ただ……地下牢に……」


 聖がベイルを放す。

 そして槍で床を突き大穴を開ける。


(チッ……すまんロゼ。待っていてくれ……!)


 かつて自分が救い、そしてそれ以上に自分を救ってくれた少女を想いながら聖は地下牢を目指した。

都合により2日ほど更新が開きます。

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