???の縁日
――セイside――
ルルエさんに公衆の面前で辱められるところだった……。ていうかルルエさん、女の子なんだからそういう官能小説に対して恥ずかしがれよ!
大量の本を抱えながら俺たちは三日月亭の屋台へと帰還を果たした。
「あ、お父さんとシャルちゃん。おかえり~」
「計算通りです」
踏み台に乗って卵を焼くエルと、レジ役のルリ。しっかり仕事はやってくれたようだな。
「おつかれさん。こっからは俺だけで大丈夫だから3人とももうちょい祭りを楽しんできていいぞ」
「う~ん……嬉しいけどやっぱり怪しい……。普通ならお父さんはそんなこと言わない」
少し目を細めてルリがじっとこっちを伺う。
優しくしたら疑われるって、ルリは俺にどんなイメージを持っているのか問いただしたくなる。
「確かになぁ。な~んかセイっぽくないよな」
シャルまで疑い出した。
「う、うるさいな。ほら行った行った!」
「むぅ~。まいいや、行こ、シャルちゃんエルちゃん」
「行く」
「そーだな。まだ食い足りねえぜ」
3人はなんだかんだ言いつつも遊びに行った。まったく、変なところで勘がいいよなアイツら。
ワンマン営業を始めて10分、ずいぶんとゴツい客が来た。
身長は2mを超え、隆起した筋肉が服の下からでもわかる。
「串焼きを一つ」
「はいよ」
俺は肉を焼き始めた。
調理中もチラリと客の方を見る。
重心のブレが一切なく、歩き方も熟練された武人のそれだ。岩のように静かにこちらを見ていたその客が口を開く。
「……人払い感謝します。久しぶりですな、サクリード殿」
「そっすね」
静かな、低い声色は相変わらずだ。祭りが始まってからずっと俺のことを監視していたこの男の名はガイアス・ディ・グレゴリウス。王国軍元帥の一人にしてこの国の最高戦力たる近衛騎士団団長。世界でも最強の一角に数えられる人物だ。
もっとも今は市井に混ざるために平民らしい服を着ている。身長と筋肉のせいでまったく混じれてないけど。
「こうして話すのは二年ぶりですな。私としては積もる話もあるのですが、今日は雑談をするために足を運んだわけではありませんからな」
「悩み相談くらいなら乗りますよ」
「先に結論から言いますと、力を貸していただきたい」
「えっと、理由は?」
「それは今は言えませぬ。ただ女王陛下の危機である、とは伝えておきます」
女王を引き合いに出されると弱い。彼女には少なからず恩があるし、それを抜きにしても手は貸してやりたい。だが……
「俺は戦うことしかできません。しかし、あなたは他に戦力を求めるほど弱くないと思いますが? 今ってレベルいくつです?」
「なんとか100を超えて、今はLv.103になりましたぞ。……確かに凡夫なる相手にならば遅れを取ることはないと自負しておりますが……此度は少々やっかいな相手でしてな」
このオッサンにそう言わせる相手か。
かなりの大物だろうな。
ごほん、とガイアスは咳ばらいをしてから声を落として言った。
「確証はありませんが……敵方には『剣聖』が居そうなのです」
「『剣聖』……だと……?」
……だれだ?
名前から有名な剣士の人っぽい感じはするが……。
なんか「知ってて当たり前」みたいな空気があるので聞くのは恥ずかしかったが、小さなプライドは捨てて素直に聞くことにした。
「あの……『剣聖』ってなんですか?」
「『剣聖』とは何か……ですか。そうですね、私にとって『剣聖』とはいつか超えねばならぬ相手であり、あの強さのみを極めんとする生き様には尊敬の念を抱くところもあります。しかしやはり私はあの男とは相いれないでしょうな」
あれ、聞きたい答えと違う。
なんかあれだな。熱く語ってくれたが『剣聖』がよく分からんから全然話が頭に入ってこないな。
もういいや。
とりあえず、すごく強い人ってことだろう。
「『剣聖』相手だとガイアスさんでも勝てないんですか?」
「まず勝てないでしょうな。奴はLv.130を超えると聞いています。さすがは『四聖』の一角といったところでしょう」
またでた……。
だから『剣聖』も『四聖』も分からないんだよ!
そうやって人が知らない用語ばっか使うのやめてよ!
「サクリード殿。ご助力いただけませんか?」
「あ、はい。大丈夫です」
剣聖氏のことは置いておくとして、女王を見捨てるという選択肢はない。
「本当ですか! ありがたい!! ……いやはや、これで陛下もすこしは元気になるかもしれませんな」
「ん? あいつ今元気じゃないんですか?」
言うと、ガイアスはぎょっとしたような顔をしてこっちを見る。「まじかコイツ……」とでも言いたげな表情である。
そして「はぁ~」と大きなため息をついた。
「……サクリード殿これはあまり言いたくなかったのですが」
「な、なんでしょう」
「2年前、あなたが書置きだけを残して王城を飛び出してしまわれた時の陛下のご様子はもう見ていられませんでしたよ」
「え」
「3日間部屋にこもられた後、ようやく王としての職務に戻られたのですが……なんだか感情のない機械のようでした」
「……(あわわ……)」
「それでも陛下が身と心を壊すことなく責務をまっとうしてこられたのは、世界各地でのあなたの活躍を聞いていたからです」
「…………」
「1年前、あなたがこの国に戻られて定住すると聞いた時など、言葉では言い尽くせぬほど喜んでおいででした」
そこまで……。
これは罪悪感が半端ではない。
さらにガイアスは続ける。
「陛下は聡明であられますが同時にまだ18歳の少女なのです。いくら頭が良くとも感情の整理を上手くできるほど人生経験があるわけではありませぬ」
「はい……反省しました……」
罪滅ぼしか恩返しか。
理由は腐るほどあるみたいだし、あいつのためなら勇者の全力をもって協力したい。
「でも手助けにしても、状況くらいは教えてもらえないと動きようがないですよ」
「む……そうでしょうな。しかし事情があってそれはできんのです」
う~ん……。
俺が困惑しているとガイアスは「サクリード殿の正しいと思うことをしてください」とだけ言うと、仰々しい礼をして帰っていった。
この時にはすでに事態はかなり悪い方に進んでいたと俺が知ったのはかなり後のことだ。剣と槍、王と王、騎士と騎士。国を二分する大戦にまで発展することになる戦いは後に『ヴァイツェン決戦』と呼ばれる。
王国全土、果ては全世界を巻き込む大激戦の火ぶたは落とされていたのである。
暇なときにボチボチ書ければいいと思っていましたが、これからはちゃんと更新頻度あげようと思います。月に20回の投稿を目標に頑張ります
ちなみにルルエさんは本屋で働いてしまったがゆえにいらない知識を蓄えてしまった不憫なサブヒロインです。




