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ルリの縁日

冒頭だけ三人称です。

 射的屋の若い男が葉っぱのぬいぐるみをルリに渡した。


「いや~よかったねルリちゃん! はいこれ!」


「よかったです~」


 ルリはそのままエルにぬいぐるみを渡してついでに頭を撫でた。

 無表情だけどちょっとテンションが上がるエル。ぬいぐるみを抱いて「むふー!」とわずかに息を荒くしていた。


「ところでルリちゃん、今日はお兄さんはいないのかい?」


「お父さんは店番してますよ!」


「へぇ、じゃあ久しぶりに羽を伸ばせるってわけだ。いやぁルリちゃんも大変だねぇ、グータラなお兄さんがいると。……ところでさ、このあと時間あったりする? よかったら俺と――」




「……は?」




 底冷えするような冷たい声。誰もがそれがルリから発せられた声だと理解するのにわずかに時間を要した。事態をいち早く察知したエルが射的屋の男に向かって必死にブンブンと首を横に振る。

 「危険。ナンパはやめて撤退しろ」の合図であった。


 男は知らなかったのだ。

 セイの悪口はルリの地雷だと。


 何気ない一言、『グータラなお兄さん』というたったそれだけの言葉がルリの逆鱗に触れた。


「あ、あれ? ルリちゃん、どうしたの?」


「別にどうもしませんけど。それとあなたとはもう話したくありません。今後一生話しかけないでください」


 ルリの軽蔑するような眼。

 氷の刃を思わせるような鋭い声色。

 普段のルリからは想像もつかない姿だった。


「ご、ごめん。別にそのただ俺はルリちゃんと祭りを楽しみたいなって思っただけで……。ホント、ナンパとかそういうんじゃないんだ。ごめんね?」


 急に誘われたことに警戒しているんだろうと勘違いした男はなおも話を続ける。


「話しかけないでっていいましたよね? ぬいぐるみありがとうございました。失礼します」


「あっ、ル、ルリちゃん……」


 キッと踵を返し、エルの手を引いてすたすたと歩くルリ。

 追いすがるように男は手を伸ばすが空振りに終わる。


 だが一番かわいそうなのはルリでも射的屋の男でもなく、巻き込まれたエルだった。





* * *





――sideルリ――


(またやっちゃったなぁ)


 私は先ほどのことを後悔していた。

 自分ではお父さんのことを好き放題に言っているくせに他人が言うと許せない。あの男の人だって、本気でお父さんのことを軽蔑してるわけじゃないってことはわかってる。


 怒ってはダメと頭では考えていてもどうしてか自制が効かなくなるのだ。


 それでも前よりはマシになったと思う。初めてお父さんが悪く言われているのを見たときは身体が勝手に悪口を言った人に向けて弓を構えていた。

 その時はお父さんも側にいたのでなんとかなった。放たれた矢をお父さんが空中で掴んでくれたおかげだ。もうずいぶん前、私がまだ生まれてちょっとしか経ってない時、だいたい一年くらい前のことだ。


 そのあと、お父さんは必死に相手に謝っていた。ぺこぺこと情けなくお辞儀をしていた。

 

 その時の人は、それはもう調子に乗ってお父さんに罵詈雑言の嵐をぶつけた。ガラの悪そうな男で、私は『そんな人死んだってかまわない』と本気で思った。


 だからLv.300のお父さんが、本当は勇者で魔神から世界を救ったお父さんがどうして言い返さずにいるのか分からなかった。『強いんだからやっつければいいのに』って。


 男は今度は私を寄越せと言ってきた。

 弓で攻撃されかけたんだから謝罪しろ、形で示せと。


 そのときになって私は私が弓を撃ったせいでお父さんがこんなにも謝らなくちゃいけなくなったんだって分かった。


 お父さんは『この子だけは勘弁してください』って言って、結局大金を払うことになった。本当に不満だった。お父さんは悪いこと何もしてないし、相手の人だって怪我一つしてないのに。

 でもルリが悪いってこともすごくよく分かった。


 だけどお父さんは怒らずに「これからいろいろ知っていけばいい。怒ってくれてありがとう」と言って頭を撫でてくれた。


 お父さんは怒らない。

 冗談っぽく怒ることはよくあるけど本気で怒ることはめったにない。


 馬鹿にされても舐められても見下されても怒らない。ましてそれを理由に力を振りかざすことなんて絶対にない。

 私は力で勝つだけじゃダメだってことをお父さんから学んだ。


 私はお父さんが大好きだ。

 ちゃんと背筋を伸ばしてシャキっとすればかっこいいし、文句を言いながらもいつだって助けてくれる。

 私にはまだ愛情の種類とかは分からないけど、きっとこれは恋に近い。だからいつも照れ隠しのようにお父さんのことを本人の前で素直に褒められない。


 と、急に袖を引っ張られた。エルちゃんだ。


「ルリ、一つ聞いていいですか?」


「なに?」


「ルリの部屋で寝たときに思ったけど、どうしてルリの部屋にはセイの着終わったシャツがあるんです?」


「匂いを嗅ぐためだよ。どうして?」


「…………」


 エルちゃんが言葉を失っている。どうしたんだろう? 好きな人の匂いを嗅ぎたいと思うのは変じゃないと思う。ごく普通の、常識的なことだ。


「じゃ、じゃあセイの使用済みスプーンがあるのは?」


「ペロペロするためだけど?」


「えっと、セイの部屋の壁に小さい穴を開けているのは?」


「ずっと見守るためだよ」


「……セイはルリの部屋に入った事はあるの?」


「入れるわけないよ! 年頃の女の子の部屋に入るなんて許さないから!」


「……(セイが)大変そう」


「ホント、(お父さんの相手は)大変だよ」


 エルちゃんが遠い目をしている。

 どうしたのかな? 変なエルちゃん。


 

変態黒髪和風少女ホムンクルスですか…

業が深いですね…

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