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エルの縁日

 先日の会議から約一か月が過ぎ、ついに収穫祭の日がやってきた。王都全体がお祭りムードだ。

 見事俺の選別を乗り越えて屋台用の肉に選ばれたのは鹿っぽい魔物だった。臭みがあまりなく、程よく脂ののったいい肉だ。


 あと最近、『グランテ火山』で推定Lv.200以上はあると思われる魔物が出たらしい。新種の魔物で確か人型で……名前は《グランテ・ザ・タイラント》っていうらしい。『グランテの暴王』とはまた大層な名前だ。グランテ火山にそんな大物がいるとは思わなかったがLv.200超の魔物など決して珍しくはない。いるところにはいるもんだ。


 ただ、俺がこの前グランテ火山に行った時にはそんなのいなかったような気がするんだけどなぁ。


 それはそれとして俺は屋台を組み立て、あとは時間を待つだけになった。


「よし、とりあえずこんなもんだな」


「あ、お父さんテント出来たんだ!」


 エルと遊んでいたルリがトテトテと歩み寄ってくる。シャルとエルもそれに続く。


「おう」


「あれ? なんかこの鉄骨部分だけキラキラしてない? ていうか神々(こうごう)しくない?」


「レンタルの屋台セットを借りたんだが骨組みの金属棒が足りなくてな。俺の槍で代用した」


神造級(ディバイン)武器(ウェポン)をこんなことに使うなんて……」


 ルリが呆れたような声を出す。


「べ、別にいいだろ。それよりシフト発表するぞ」


 ばん、と紙を屋台内のテーブルに広げる。



ーーーーーーーーーーー

16:00~18:00 セイ、シャントル

18:00~20:00 ルリ、エル

20:00~ラスト セイ

ーーーーーーーーーーー



「20時からお父さん一人でいいの?」


 珍しいものを見たという表情で俺を見るルリ。確かに平等を愛する普段の俺であればこんなシフトにはしないだろう。でもまあ、たまには三人に羽を伸ばす機会を与えてやろうという粋な計らいをしてみたのである。


「いいよ。最後は遊んで来い」


「やったー!」


 無邪気に喜ぶルリ。

 シャルは「ふ~ん」みたいな感じでさしてテンションが上がっている風でもなかった。そしてなぜかエルにいたってはちょっと残念そうだった。

 むむ、これでもご褒美のつもりだったのに……。


 なんて考えているうちに日は傾き、人々の喧騒はそのにぎやかさを増していく。


 ――すなわち、祭りが始まる!





* * *





――エルside――



 どうもエルです。8歳です。

 狸の獣人です。今は「れすとらん」で「しぇふ」をやっています。


 わたしには夢があります。それはセイのお嫁さんになることです。


「エルちゃん、最初どこ行きたい?」


「お腹すきました。なんか食べたいです」


 ルリも優しくて好きです。ただ、ベタベタしすぎるのでたまに困ります。エルは抱き枕ではないのです。

 シャルさんも最初はちょっと怖かったけどもう慣れました。ぶっきらぼうだけどシャルさんもとてもいい人です。


 エルは孤児です。私には本当のお父さんとお母さんがいません。でもセラルタお母さんがいるので寂しくありません。

 だけど教会にくる人はみんなエルたちのことをかわいそうだといいます。エルたちは”あわれ”だそうです。エルたちのことを不幸だと言います。


 そう言う人たちは寄付をしてくれるし、きっと優しい人たちなんだとおもいます。

 でもどうしてエルが不幸だって言うんでしょうか。エルは幸せです。エル以外の人にエルの幸せを決めてほしくありません。


 きっとみんなエルたちをかわいそうだと思っているに違いない。そう思っていました。

 だからセラルタお母さんが連れてきたぼやっとした男の人、つまりセイを見たときもきっとエルたちを”あわれ”だと思っているんだと思いました。

 

 でも違いました。


 セイはいつだってエルたちと”たいとう”でした。私たちを下に見ないし、かわいそうだと思っていないのは雰囲気でわかりました。


 孤児であるエルたちに自然に話しかけたりもしていました。

 びっくりしました。

 エルは知っています。孤児は”みぶん”が一番低いって。

 そんな孤児であるエルたちと”たいとう”に話すセイに本当にびっくりしました。


 だから普段は教会の子やセラルタお母さん以外とはしゃべらないエルも自然に話しかけていました。


 こうやって、なんとなくちょっと昔のことを思いだしていると肩をぽんぽんってされました。

 あ、ルリが焼きマシュマロを買ってきてくれたみたいです。


「はい、エルちゃん!」


「ありがとうです」


 マシュマロはとろっとしてとてもおいしいです。教会にいた時もたま~にセラルタお母さんが買ってきてくれました。

 ルリはいろいろと世話を焼いてくれます。お母さんみたいです。

 

 そういえばルリもセイのことがとても好きみたいです。本人の前では決して言わないけれど、たまに周りの人に「お父さん自慢」をしています。最初は「お父さんはいつも覇気がない」とか「ぼやっとしてる」とか「なんか枯れてる」とか言いたい放題だけど話の最後になると結局いかにセイがすごいかを語り始めます。


 この前は本屋さんの店員さん(ルルエさんっていったっけ?)もセイのことをすごいって言っていました。実はとっても強い人だって言ってました。

 

 お肉屋さんをやっているシャルさんのお父さんも「いけ好かないヤローだがそれなりに信用できる奴だ」って教えてくれました。


 セラルタお母さんも「真面目で誠実で、素敵な人」だと言っていました。たぶんですが、セラルタお母さんだけ騙されてる感じがします。


 なんだかんだでセイは周りに認められてるみたいです。

 でもそれでもみんなはセイのことをはっきり知ってるわけじゃないとエルは思います。きっとセイはもっとすごいんです。


 うまくいえないけど、強いとか優しいとかそういう簡単なのじゃなくて、もっと奥の方というか……。うう、言葉が浮かばないけどとにかくセイはもっとすごいんです!


 だからセイのすごさを知ってるエルがセイのお嫁さんになってあげるんです。でもエルはまだ”けっこん”できません。だから今はセイに彼女さんができないように祈ることしかできません。


 それでエルはときどきセイに彼女さんがいないことを確認するように、彼女さんがいないでほしいという願いを込めて「彼女いなさそう」って言うようにしています。


「エルちゃん! 射的! 射的やろうよ!!」


「やります」


 ルリがぴょんぴょん跳ねてます。

 あ、景品に葉っぱの形のぬいぐるみがあります!


「ルリ、ルリ! あれほしい!!」


 ぐいぐいとルリのワンピースを引っ張ります。


「え? あの緑のぬいぐるみ? 任せなさい! これでも《弓士(アーチャー)》なんだから!」


 そう言ってルリは射的屋さんのおにいさんが貸してくれるパチンコを構えます。


「くらえ! 秘技、三点バースト!!」


 パンパンパン、とルリは三回連続で一気に打ちました。見事全部命中してぽとんとぬいぐるみが落ちました! やった!! さすがルリです!


 葉っぱはなぜか好きです。頭に乗せたくなります。

 あとでセイに自慢しよっ。

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