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聖の縁日

縁日編スタート!

次章がハードな予定なのでこの章はほのぼのパートです。


4,5話程度の予定。

 収穫祭、とはどの世界にもあるようだ。


 王都リールベンの収穫祭の規模はデカい。出店(でみせ)が立ち並び、パレードがあり、人々が溢れんばかりに道を埋め尽くす。王国の騎士団も演武をしたりするらしい。


 去年はまだここに住んで間もなかったこともあり、屋台巡りをするだけだった。だが今回は違う。飲食店であるからには俺たちも屋台を出店するのだ。


 すでに場所取りも役所への申請も済ませている。

 だが決まっていないことが一つ、何を売るかだ。


 決まっていないのであれば会議だ。カンファだ。ブレストだ。


《第一次戦略会談》


「というわけで皆に集まってもらった。さて、早速ではあるが意見を募りたい」


「はい」


 まず手を上げたのはルリだった。珍しく真面目な表情、ピンと伸ばした腕からはやる気が感じられる。


「うむ、言ってみたまえ」


「おもち」


「ねぇよ、おもち。そもそもこの国にお米ないから。次、誰かないかね?」


 いや、おもち好きだけども。和食が恋しいな。


「じゃあハイ」


 今度はシャルが手を挙げた。


「うむ。シャントル君」


「肉」


「……ふむ」


 肉、というとかなりざっくりしているが……しかし無難ではある。

 それに基本は焼くだけで良さそうだし、前科があるシャルはともかくエルやルリなら作れそうだ。


 肉はありだな。

 串焼きでいいだろう。


 だがまだ決定ではない。他の意見も聞いておこう。


「肉、ということだが前向きに検討しよう。一応他の声も聞いておきたい。何かないかね?」


「ん」


 小さい手が挙がる。エルである。


「うむ。幼女君」


「ビスケット」


「「「(……カワイイ)」」」


 ルリが慈しみの表情でエルを撫で始める。あ、エルさんちょっと嫌がってる。

 ビスケットねぇ。保存が効くという利点があるが……屋台で出すのに保存とかないし。それにビスケットだと串焼きとかと違って匂いで釣れない。


 でもせんべいの屋台は日本でもあったな。

 ビスケット……せんべい……う~ん。


 なにか閃きそうで閃かない。

 ここはさらに意見を募ってインスピレーションを得る方法で行こう。


「ルリ、おもち以外でなんかないか? ルリの好きなものでもなんでもいいから」


「私の好きなもの……卵焼き?」


「卵焼き、か……」


 せんべい……卵焼き……たません?


「うん『たません』はありだな」


「たませんってなんだ?」


 そう言ったシャル以外の面々も疑問符を浮かべている。たません好きなんだよなぁ。日本にいたとき、祭りに行けば必ず食べていた。


「たませんってのは、薄いぺらぺらのせんべい、ああ”せんべい”ってのは異国のビスケットみたいなもんだ。そのビスケットもどきに卵焼きを挟んでソースをかけたやつだ」


 本当はマヨネーズもあればいいけど、それは厳しいだろうな。


「へぇ~。よくわかんねぇけどうまそうだな!」


 雑な感想をいただいたところで俺は結論を出すことにした。


「出品するのは『串焼き』と『たません』だ。いいな?」


「は~い」


「ん」


「おう! 串焼きなら任せとけ!」


「任せません」


 方針は固まった。あとは試作を作って仕入れをすればいい。

 でんぷんはあるとして肉と卵は追加発注だな。


「シャル、親父さんに肉の追加頼んでくれないか?」


「あ~……この時期に追加で頼むのは厳しいと思うぞ」


「え? なんで?」


「祭りに向けて注文が増えるからな。そもそもの肉の在庫がなくなっちまうんだ」


「なん……だと……?」


 今店にあるのはファミレスで出す分しかない。肉が圧倒的に足りないではないか。


 仕方ない。自分で調達(・・・・・)するか。

 なあに、あてはある。


 馬車で一日、クイックスライドで30分の距離にグランテ火山というところがある。出現するモンスターはLv.100前後。この辺では断トツの魔境だ。故に人の出入りもなく食肉になる魔物を狩っても乱獲扱いにならない。

 臨時で肉を仕入れるにはあそこしかない。


「ひとまず、これにて会議はお開きとする。各自決戦(お祭り)に備えて休息をとってくれ。以上!」





* * *



ーーとある王国軍騎士視点ーー


 非番の日を利用して私は馬を走らせていた。無論、理由がある。

 この度私は近衛騎士団への昇格試験を受け、合格を勝ち取った。


 このヴァイツェン王国最強の精鋭たち、近衛騎士団である。かつては勇者とともに強力な魔物と戦ったという。


 そんな最強の騎士団に入れるとあらばそんな名誉なことは他にない。

 しかし同時に自分にその資格があるのかと疑問に思った。若手のホープと呼ばれ、同期はもちろん先達の騎士たちとも互角以上に渡り合ってきた自負はある。


 私のLv.85というステータスはそれを裏付けているだろう。


 だが真なる強さを持った者しか近衛騎士団には入れない。その強さを求めて私はこうして『グランテ火山』へと馬を走らせているのである。

 Lv.100を超える魔物との戦闘、常に命の危険が付きまとうことは言わずもがな。気を抜けば一瞬で死ぬ。

 無謀だ。

 無謀だがこれを乗り越えれば私はきっと今より一段強くなれるだろう。

 これで死ぬならば私は所詮その程度であったということだ。


 火山に一番近い村の馬小屋を借り、馬を休ませることにした。ここからは自分の足で行こう。


 さあ、いよいよであるか。







「火山ではあるが……暑くはないな」


 ゴツゴツとした岩肌を想像していたが、以外にも植物も多い。ここ数十年は噴火していないらしいしこんなものか。山頂に近づけば様相も変わるとは思うが。

 山に入ってから30分ほど経つがいまだに魔物との遭遇(エンカウント)はない。


 しかし油断は――


「%$*’&%#ッッッ!!!!」


 ――ッ!

 なんだ!?


 ――ドドドドド……


 地面が揺れはじめる。

 ダメだ。まともに立つのも難しい。激しさはさらに増していく。

 そしてついには地面が大きく盛り上がった。


「ぬっ!?」


 違う!

 これは地面ではない! 巨大な魔物だ!


「いかんっ!」


 なんとかその場からステップし、魔物の背と思しきところから離脱する。

 そうすると魔物の全貌が見えてきた。


「亀のような……全長15mはあるぞ……ッ」


 棘のある甲羅がギラリと光る。あんなもので突進されたらひとたまりもない。

 亀のような魔物はギロチンを彷彿とさせるような口をカチカチとならして、狙いを私に定めている。

 恐ろしい。だがそれに臆する私ではない。


「【クイックステップ】【抜刀切り】!」


 先手必勝。

 相手の首に鋭角に切り込む。いかに力のある魔物とて首を切られれば死ぬしかあるまい。

 ――だが、


 ――カキンッ。


 目の前で砕け散る愛剣。達人級(マスタリ―)のそれがいともたやすく砕けた。


「ば、ばかなっ!?」


 すぐ横にはニタリと笑う魔物の頭があった。噛みつかれれば鎧など紙同然。


(やはり私には早かったか……)


 死を悟ったその瞬間、


「カメニクハッケン!」


 という謎の声、あるいは魔物かなにかの鳴き声とともに亀がふわりと20mほど浮かび上がり空中で激しく燃え始めた。


「グゥアゥッ!? ウァッ……ゥァ……」


 助かった、のか……?

 亀の断末魔は徐々に小さくなっていき、すぐに聞こえなくなった。


 あれほど強く思えた魔物が一瞬で絶命した。


 これが魔境『グランテ火山』……。

 Lv.85に達した私さえ理解の及ばぬ領域だ。


「カメ……ビミョウダナ……」


 どこからか聞こえる人間の声のようなものが不気味だ。この秘境に人間などいるはずもないというのに。


「ソウダ!テアタリシダイ、マモノヲヤイテミヨウ!!」


「(なんだ?)」


 奇妙な、おそらくは人語を解するような知能の高い魔物の声が響く。知能をもつ魔物は古龍など一部に限られ、そのすべてが規格外の力を持つ。おそらくこの声の主こそがこの山の頂点に君臨する王者なのだろう。


 次の瞬間、山の至る所に雷が降り注いだ。

 そしてそこら中から魔物たちの悲鳴が聞こえる。地獄だ。ここは地獄だ。


 王の気まぐれでLv.100を超えるような魔物さえろうそくの灯のように簡単に消えてしまう。


「私に『グランテ火山』は早すぎた……! はやく離れねば!」


 急いで下山を決断。

 一目散に、ただ逃げることだけに専念する。


 そして一瞬振り返ったとき、山頂付近に人型の魔物がいるのが見えた。両手を広げて雷を操っているようだ。


「(あれが……グランテの王……!)」


 大きさは人間と大差ないように見える。


「コノヤマノニクハ、ゼンブオレノモンダ~~!!」


「(また鳴いた!)」


 雷の轟音が鳴り響き魔物たちが逃げ惑う阿鼻叫喚の中、私は必死の思いで山から脱出を果たしたのだった。




 その後、城に帰った私は皆に『グランテ火山』の話をした。

 これを聞いた国の上層部はこの魔物を《グランテ・ザ・タイラント》と命名。特別指定討伐対象に追加された。


 さらに『グランテ火山』の脅威度を上げる決定も為された。

 かの魔境の魔物は山の縄張りから出てこないというのが救いだった。


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