新しい仲間
騒動から数日が経過し被害のほとんどなかった平民区や貴族区はもちろん、貧民区でも日常を取り戻していた。
そしてなんと今日は……セラルタさんからお食事会に招待されているのだっ!
なんでも「大事なお話があるのでお食事でもしながら」とのことらしい。
大事なお話……。
なるほど。
なんていうのかな、モテ始めると心に余裕ができるよね。
すがすがしい気持ちだ。そうだ、教会の方に向かってお祈りでもしておこう。ん? そういえばあの教会の神様ってなんだろう。前もこんなこと考えた気がする。
俺はスキップをしながら教会に向かった。
* * *
「ああ! カタギリさん、よく来てくださいました!」
「いえ、僕もお会いできて嬉しいです」
「今日はちょっと奮発したんです。ここの子たちと作った料理、食べていってくださいね?」
「はい! よろこんで!」
食卓には豪勢な料理が所狭しと並んでいる。チビたちもキャッキャと大変嬉しそうである。
「今回の騒動ではここがまさに戦場となってしまいましたから、ショックを受けた子も多いんじゃないかと思ったのですが、私が思っていたよりうちの子たちはたくましかったのですね」
走り回る子供たちを眺めて感慨深そうにセラルタさんが呟いた。
「知らない内に立派に成長するんですかね。うん、本当に立派だ」
シスターの豊満な2つの宝玉たちを眺めて興味深そうに俺は呟いた。
ああ、本当にルリとシャルを連れてこなくてよかった。あんな未発達のガキどもにこの神聖なる時間を邪魔されてはたまったものではない。
「さあ! みんな席について、冷めないうちに食べるわよ!」
パンパンと手を鳴らしてセラルタさんは遊んでいた子供たちに促す。
「そういえば今日はシャントルさんはいらっしゃらないのですか?」
「えっ!? ええ、用事があるみたいで。シャルに用でもあったんですか?」
無論、二人には黙ってきただけである。
「そうですか。近所の方がシャントルさんにお礼を言いたかったそうで。シャントルさんには私も是非お礼を言いたかったですわ。あ、もちろんルリさんとカタギリさんにも感謝していますよ?」
「ははあ、そうでしたか。えっと、近所の方っていうのは……」
「お隣の墓地にお住まいのアンドリューさんです。『あやうく二度目の死を迎えるところをシャントル嬢に救っていただいた』とそれはもう感謝しておいででした」
「へ、へぇ」
苦手なゴーストにずいぶん好かれてしまっているシャルさん。
帰ったら教えてやるとしよう。
というかご近所さんっていうか同じ敷地内だから同居人では? まあなんでもいいけど。
「お母さん。お腹空いた」
セラルタさんの隣に座っていたぽんぽこ幼女ことエルがクイクイとセラルタさんの袖を引っ張った。
「そうね。いただきましょうか。……大いなる天の恵み、聖なる恩恵に感謝を」
「「「感謝を」」」
教会の食前の祈りらしい。俺もつられて「か、感謝を」と言ってしまった。
祈りが終わった途端、子供たちはご馳走にがっつく。いやぁ、本当においしそうに食べるもんだ。
目の前の席でセラルタさんもスープに口を付けていた。
ほんの少しだけ前に身を出して、丸いスプーンでコーンスープをすくっている。そのとき、彼女の至高の宝玉が一瞬むにゅっと食卓に乗った。
「ブフォッ!?」
「カタギリさん!? 大丈夫ですか!?」
「す、すいません。むせただけです」
「そうでしたか」
ニコッと微笑んで食事を続けるおっぱいさん。じゃなくてセラルタさん。
(いかん。あれは危険だ)
俺はむにゅりとテーブルに当たってわずかにひしゃげるそれに激しく心を乱されていた。
かつて魔神さえ討伐したこの俺がこうも追い詰められるとは……。落ち着け、落ち着け。クールになるんだ。
あまりの衝撃に俺のもつフォークがカタカタと震える。
「それでですね、お話というのが……」
「え? ああ、話。そうでしたね」
まずい。
思考が乱される。
いや、ある意味で思考は目の前のゴールデンアップルただ一点に集中しているともいえるが。
「えっと――エルの――なんですが***で…………が、、」
「なるほど」
話がまるで頭に入ってこない。
だってセラルタさんが料理に手を伸ばすたびに……いや、みなまで言うまい。
「***で…………それで――――」
「僕もそう思います」
あ、やば。
鼻血でそう。
よし、いったん素数を数えよう。1、2、3、5、7、……
「しかし……なのでしかたなく***――」
「僕もそう思います」
17、19、21……あっ、21は素数じゃない。
「で、どうでしょうか?」
「僕もそう思います」
「まあ! よかったわね。エル!」
ん? なんの話だ?
全然話聞いてなかったから適当な相槌をしてたら何か決まってたっぽい。
なんかいいことでもあったのかな?
「それじゃあカタギリさん。エルをよろしくお願いしますね。ちょっと変わった子ですけどしっかり働いてくれると思いますよ」
「は、はぁ(……なんのことだ?)」
「エル、ちゃんとたまには帰ってくるのよ?」
「わかってる。休みの日には遊びに来る」
「では、エルの就職を祝って……乾杯!!」
「「「かんぱ~い!!」」」
チビッ子たちがぶどうジュースを掲げる。
一方でなんとなく状況がわかった俺はダラダラと冷たい汗を流していた。
そんな俺の心境など知る由もないセラルタさんがほろりと目じりに涙を浮かべながら口を開いた。
「子供の旅立ちは嬉しくもあり、寂しくもありますね。でもよかった……決してすべての子がちゃんと働いて稼いでいけるとは限りませんし、ずっと教会で暮らすわけにもいきませんから」
「え、ええ。そうですよね」
「ごめんなさい。話を聞いてませんでした」なんて言える空気ではない。
「エル、ちゃんと頑張るのよ?」
「大丈夫、下見もしておいた」
下見?
そういえば先日エルが一人でうちの店に来たな。下見ってアレのことか。
あれはエルなりの就活だったってわけだ。ただの迷子かと思ってたわ。
……こうして食事会は進み、想定外の『大事な話』に複雑な思いを抱きながら俺はご馳走になったのだった。
* * *
その夕方。
早速と風呂敷を背負ったエルが三日月亭を訪れた。
「よろしく」
「……ああ」
相変わらず不愛想な顔でこっちを見上げるエル。そしてゆさゆさと揺れる丸いしっぽも相変わらずである。
もう腹をくくるしかない。俺はこの狸幼女を雇うぞ。
「ていうかその荷物、もしかして……」
「住み込み」
あ、そう……。
部屋は余ってるしいいんですけどね?
しかし幼女とて従業員になるからにはしっかり働いてもらう。
「仕事はまた明日からとして……キッチンかホールか希望はあるか?」
「キッチン」
ふむ、たしかにエルは子供にしては手際が良かった覚えがある。
すくなくともルリの10倍、シャルの5000倍は料理が上手だろう。
「そうだな、キッチンを頼むな」
こうして三日月亭に新たな調理担当が誕生した。
……余談ではあるが、ルリはエルを大変に気にいったようだった。
ルリ曰く「カワイイは正義。つまりお父さんは悪」とのこと。
エルがかわいいと言いたいのか俺がかわいくなさすぎると言いたいのか分からなかったが、とりあえずルリの夕食はピーマン多めにしておいた。
そしてその夜、エルはルリの抱き枕にされて眠ったという。
どの会社でも新人は洗礼を受けるということだろう。
教会編、完結!
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