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召喚

「……ごふっ」


 腹を貫かれ、シドーは口から血を吹き出す。


「やって……くれましたねぇ……」


 シャントルは無言で腹から剣を引き抜く。

 それに合わせ、どくどくとシドーの腹部からも血が流れだした。


「敗北は認めよう。しかし、悪魔召喚は絶対だ。それだけは為さねばならない……。魂を……早く集めなければ……」


 シドーは腹を抑えながら走り出した。

 シャントルから離れる方に向かってだ。


(なんだ? 逃げたのか……?)


 だが逃げたというよりは、シャントルへの興味を失ったかのような挙動だ。

 シドーは教会の裏手に消える。


「魂……まさか!」


 急ぎシャントルもシドーの後を追う。


     「ぐわぁぁぁあああっっ!!」


 教会の裏の墓地で悲鳴が木霊した。

 この声にシャントルは聞き覚えがあった。いつか会話したゴースト、アンドリューのものだ。


「チッ……!」


 墓地ではシドーが狂ったようにゴーストを攻撃していた。

 ゴーストには物理攻撃はきかない。はずなのだが、シドーのダガーはゴーストたちを次々と抉っていった。


付与魔法(エンチャント)か……!)


 シドーはダガーに魔法特性を付与するスキルでゴーストへの攻撃を可能にしていた。

 シドーが重傷を負っていたおかげで動きはかなり悪く、まだ完全に倒されたゴーストはいなかった。


「てめぇ! なにしてやがる!!」


 シャントルが鋭い蹴りを入れる。

 横に大きく飛ばされたシドーはそれでもなお、シャントルに気を払うことなく立ち上がるとゴーストを狩り続ける。


「ひっ! いやぁ! こないでぇ!!」


 次の標的となった少女のゴーストが叫ぶ。

 シャントルは反射的に突貫した。


「ぐっ……!」


 そしてぎりぎりで少女をかばった。

 シドーのダガーがシャントルの右肩を切りつける。


(まったく、痛えな……!)


 シドーはそのままシャントルを蹴り飛ばし、再度ゴーストたちを狙う。

 力の十分に入っていない蹴りだったのもあり、シャントルはすぐに受け身を取り、シドーに切りかかる。だがシドーはシャントルの攻撃を避けようとすらせず、ゴーストを切りつけた。


(こ、こいつ……!)


 自分のダメージなど構うことなく、ゴーストを狩ろうとしている。

 やむを得ずシャントルはゴーストをかばう。そしてそのたびシャントルに傷が増えていった。


「シャ、シャントル君。我々のことはいいから逃げるんだ!」


 アンドリューが叫ぶ。


「君は元々我々(ゴースト)が苦手だろう!? 君が傷つくのは見たくない。逃げてくれ!」


「るっせえ!!」


 手負いのシドー相手とは言え、数十体のゴーストをかばいながら戦うのは無謀に等しかった。

 不意にシャントルの足がもつれた。

 これだけの戦闘をした結果、シャントル本人も気づかないうちに身体は限界に近づいていた。

 そこへシドーのダガーが迫る。


(あ、ヤバ……)


 あと数センチでシャントルの首に刺さるという所で、ダガーが突如飛来した矢に弾き飛ばされる。


「なんだ!?」


 矢の飛んできた方向を見る。

 その直後、雷光のような矢がシドーの片腕を吹き飛ばした。矢が通り過ぎた軌道上には残痕のようにバチバチと蒼い電流が走っている。

 

 矢を受けてなお動こうとするシドーにさらに天から無数の矢が降りかかる。

 避けることなど不可能。横目で見ていたシャントルにも分かった。


 一発一発がとてつもない威力の矢だった。


 無数の矢が地面を抉り、シドーを射抜いていく。


「ぬぅ……ああぁ……」


 ついにシドーは動きを止め、力なく地面に倒れ伏した。


「ごめんね!? みんなの避難に手間取っちゃった!」


 声とともに、ルリが空から降ってくる。片手には弓が握られている。


(ルリ! ……あんなに強かったのか)


 シャントルは驚きを隠せなかった。が、これで一件落着かとすこし安心した。


「あ……ぁう……」


 シドーがかすかに唸る。


「アイツ……あれでもまだ息があるんだな……」


 シャントルが半ばあきれたように呟く。


「悪魔は……召喚せねばならないぃ……。それは……絶対……だ…」


 突然、シドーは『心域』からグリットクロスを取りだした。

 そして自分の胸にその杖を突きたてた。


「なっ……!」


「……! まずい……! アイツ、自分の魂で悪魔を召喚するつもりだよっ!」


 ルリが矢を引き、グリットクロスを弾き飛ばす。だが一歩遅かった。

 シドーの胸の傷口から黒い霧があふれ出す。


「ク…フフ……顕現せよ、我ら魔神様の眷属よ……がふっ」


「【グランディス・インパクト】!」


 ルリの持つ《弓士(アーチャー)》スキルの中でも別格の威力を誇るスキルを放つ。レベル100程度の相手なら一撃で倒せる威力だ。

 風圧だけで地面を抉りながら、音速をはるかに超える速度で直進する。


「うおっ!?」


 衝撃波だけでシャントルは吹き飛ばされそうになる。

 着弾したところに激しい砂煙が上がる。


「な、なんつう威力だ……! あの賢者の従者、骨も残ってないんじゃねえの?」


「…………」


 ルリは神妙な面持ちだった。

 シドー程度ならともかく、悪魔相手だとルリでも打倒は難しい。

 もし召喚されたら逃げの一手しかない。だが手負いのシャントルは、いや、手負いでなくとも逃げ切る能力はないだろう。




『危ないところだ。あやうく死にかけたよ。君には常識がないのかね?』



 響くような声。紳士的でありながら不気味。


「召喚……されちゃったか」


 砂煙の中のシルエットの慇懃な声にルリは苦虫を噛み潰したような表情をした。

 死の淵でシドーは悪魔召喚に成功した。自分の命を代償にして。


『初めまして、レディ? 私は”智の悪魔”と申します。以後、お見知りおきを』


 砂煙の中から現れたモノクルに燕尾服、オールバックの青年がお辞儀をする。

 その背中には悪魔の象徴である漆黒の翼が生えていた。

 

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