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キッチンファイター

執筆再開しました

 悪魔。

 魔神に仕える人智を超えた怪物。

 人型でサイズも人間と同じ。


 大きな特徴として、悪魔は何か一つ司るものがある。


 例えば『増殖』。

 『増殖』の悪魔はほとんど魔力を使わずに分裂して自分自身を増やす。

 本体(オリジナル)を倒せば消えるような分身ではなくすべて本物だ。


 『増殖』の悪魔を倒した時は、


「無双アクションみたいで気持ちよかったなぁ」


 おっといかん。

 変な独り言が漏れた。


 『増殖』の他にも『洗脳』、『誘惑』、『快楽』etc。


 悪魔は自分の司る概念、およびその能力に長けているだけではない。

 その悪用に長けているのだ。


 悪魔の目的は魔神の復活。

 魔神復活だけはなんとしてでも阻止したい。


 魔神は厄介だ。こびりついたあぶら汚れのように厄介だ。


「リブステーキみっつ入りまーす!」


 オーダーが入ったか。

 「はいよー」と返事を返しておく。

 あ~、もうすぐピークタイムだな。……やだな。




………………

…………

……




 と、考えていたのがわずか十分前のことである。


「チーズかつ定食二人前だ!」

「はいよ!」

「オムライスふたつとカレーライス一人前でーす!」

「はいはい!」

「カットステーキ四人前入ったぞ!」

「あいよ~」

「チキンステーキ、サーロイン、それぞれ一つずつ入りまーす」

「りょーかい!」

「ポテサラとハンバーグ入ったぞ!」

「おっけー!」

「キューケイ入りまーす!」

「わかった……って、どさくさに紛れてサボろうとすんじゃねぇ!」


 あのダメンクルスはピークでも容赦なくサボータジュするからな。

 ほんと、なんでああなった?


「う~……。わかっちゃいたが、キッチンも増員しねーとなぁ……」


 だが労働力っつってもな。

 この国には奴隷とかはいない。いや、いるにはいるのだが普通は地方の農園で働いているらしい。


 王都であるリールベンでは奴隷を買うのは難しい。

 美少女奴隷など、所詮は空想上の生き物なのだ。


「お父さん、ちょっとちょっと」


 美少女奴隷とちがって実在するサボタージュモンスターがひょこっと厨房に顔をのぞかせた。


「どうした?」


「なんかトラブルみたい」


「あ~、適当に謝っといて。料理は作り直すから」


「や、クレームとかじゃなくって、とにかく来たらわかるよ」


「うん??」


 要領も掴めないまま、とりあえずフロアに出る。

 と、お客さんたちはある一点を見つめていた。入り口の方だ。


「ほら、ちっちゃい獣人の女の子が……」


「ん? ……あっ!」


 エルだ!

 教会で絡んできた変な女の子のエルが入り口のところでオロオロしていた。

 見かねた常連のおっさんたちに絡まれて、委縮してしまっている。


 おっさんたちは酒を飲まなけりゃ気のいい人たちなので心配はないが、小さな少女にはゴツイ男に話しかけられるだけで結構な恐怖なのかもしれない。

 事実、エルは涙目で尻尾も丸まってしまっている。


 これにはさすがの俺も「あれぇ? 計算通りじゃないんですかぁ~?」という気にはなれなかった。


「よ、どうしたんだ?」


 俺が話しかけるとエルはくるんとこっちを向いて一瞬ぱぁっと笑ったが、すぐにいつものポーカーフェイスに戻った。


「探しましたよ彼女いないさん。ですがこの店にいることはお見通しです」


 いきなり調子づきやがったな。ま、いいけどよ。


「んで、もっかい聞くけどどうしたの?」


「来ました。呼ばれた気がしたので」


「……うん、全くもってお呼びじゃないんだがな。セラルタさんは?」


「一人で来ました」


 う~ん……。

 ここで帰すわけにもいかないし、仕方ないから仕事終わるまで預かっとくか。


「ほら、あとで美味いもん食わしてやるからこっち来てくれるか?」


 こくんと頷くのを確認し、エルを休憩室に連れていった。

 そしてクリームソーダを与えて俺は仕事に戻るのだった。


 エルの相手をしている間にもオーダーが溜まってしまった。

 この量をさばくのは無理だ……。通常は。

 よし、久々に奥義を開放するか。


 俺は【クイックスライド】で地下室の宝物庫から愛刀『ハバキリ』と『カグツチ』という炎を纏うグローブを取ってきた。どちらも神造級(ディヴァイン)で、賢者様の伝説級(レジェンダリー)の杖とは格が違うチート武具だ。


 注文された肉を鉄板の上に並べ、野菜類はまな板の上に置いた。

 肉は左からレア、ミディアム、ウェルダンに仕上げればいい。いけるな。

 左手に『カグツチ』を、右手に『ハバキリ』を持ち、構える。

 呼吸を整え、一呼吸の間に……為す!


 青い炎が肉を包み、程よく焦げ目が付いていく。野菜は均等に切りそろえられ、シャキシャキの状態を保ったまま整えられていった。これぞ俺の奥義。


 この状態なら一分で20品は作れる。


「ふっ、他愛ない」


 とはいえ、なんとなく精神的に疲れるのであんまりやりたくはないのである。

 かくして俺はピークを乗り切ったのだった。





 だが俺は気づいていなかった。

 休憩室からのぞく、ロリたぬき計算少女の瞳がチートモードの俺を見つめていたことに。


「……かっこいい」


 少女のそのつぶやきはだれにも聞かれることなく、消えていった。

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