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英文は、その辺のネット界隈から適当に取ってきました。
高校二年、最初の英語の授業。
The object was hovering in the air as if it ignored gravity.
「この英文を口に出して読むとき、例えば丁度hoveringを口に出して読んでるとき、皆さんはどの辺りの単語まで目で見えてますか?」
英語教師がそう問いかけ、何人かの生徒を指名していった。
各々の生徒が、
「gravityまで」
「ignoredまでは見えてます」
などと答える中で隆士は答えた。
「inまで」
教室中にドッと笑いが……、とまではいかなかったが、それなりの笑いが起こった。
どこからか、
「俺といっしょや」
という声も聞こえた。
隆士の雰囲気は真面目そのものであり、まあ言い方を変えれば何の面白みもないようななりであった。
そのギャップが笑いを誘ったのであろう。
兎にも角にも、この一件で隆士はクラスのいじられキャラポジションを獲得することに成功した。
人から声を掛けてもらえる。いじってもらえる。
これは隆士の承認欲求を満たすのに十分だった。
正直、隆士にとって高校二年の一年間は楽しいひと時だった。
しかし、そんなひと時も学年が変わることで脆くも崩れ去るのであった。
今になればなんとなくだがわかる。
なぜ一発屋芸人と呼ばれる人達がいるのか?
一発当てる。成功する。
それは一種の偶発的事故のようなもの。
もちろん、チャンスをつかもうとする姿勢は必要だろうが、実は誰にでも起こりうる代物なのであろう。
しかしその成功を持続させるのは並大抵のことではない。
それこそ不断の努力が必要である。
だが、隆士は努力する力、それが決定的に不足していた。
そしてその影響が大学受験時に如実に現れることになるのである。




