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隆士は、一応は進学校と呼ばれている地元(の隣の市)にある公立高校に進学した。


小学校から中学校に上がるときと違い、360人の入学者の内、同じ中学出身者は隆士を含めても16人しかいなかった。

隆士はI組となったが、中学のときと違い、誰も知らない世界に一人ポンと放り出されたようなものであった。


本当の事を書くと、I組には隆士の他に、もう一人同じ中学出身者がいた……。

いたのだか、友達が少ない隆士のことである。

そのもう一人とは、案の定と言うべきか中学時代ほとんど話したこともなく、結局高校に進学してからもほとんど話すことは無かった。


入学して早々に実力テストがあり、同じクラスの人と話す機会が本格的にあったのは入学2日目からであったと思う。

その日、隆士は前に座っていた男子生徒に話しかけられた。

それは、所謂知らない者同士が行う当たり障りのない会話だった。

「何処の中学出身?」

「××中だけど」

「ふーん。知らんや」

というような内容の会話だったが、隆士は臆してうまく話せず、結局会話は全く盛り上がる事なく終わってしまった。


翌日、昨日隆士に声をかけてきた生徒が別の生徒と楽しそうに談笑していた。

結局、その生徒が隆士に声をかけてくることはもう無かった。


高校に入学して3日、4日、1週間と日にちは刻々と過ぎ去った。


始めは隆士と同じようにクラスと馴染めていないは他にも生徒もいた。

しかし、そんな生徒も日を追うごとに徐々に減っていった。

グループが出来始めると、そこに割って入って人間関係を構築することは隆士のようなタイプの人間には絶望的である。

隆士は高校生活の初めの第一歩でつまずくことになった。


しかし、クラスの人間の全てがどこかのグループにうまく属せる訳ではない。

自分と同じようにグループからあぶれてしまう者が他にもいるはずだ。

あぶれた者はあぶれた者同士でグループを作るはず。

そこに賭けるしかない。

さしあたり、隆士は岡崎という男に目を付けた。

何処となく隆士よりも引っ込み思案で人付き合いが苦手そうに見えた。


隆士は休み時間は毎回のようにトイレに行った。

トイレまでの道のりにある教室をちら見しながら、他のクラスにも自分と同じようにぼっちな奴がいないか探した。

しかしこちらも結局は同じだった。

始めはいた。

しかし時が経つにつれ少なくなり、そして見つけられなくなった。

休み時間、結局隆士はトイレに行くときと昼飯を食べるとき以外、ひたすら自分の机で寝たふりをすることしかできなかった。

高校になると、もう小学校のときのように班で昼食を食べるというルールは無い。

昼飯ももちろん自分の席で一人で食べるのであった。


そんなある日、隆士は岡崎がとあるグループの面々から声を掛けられているのを目撃してしまった。

どうやらそのグループは岡崎のことを不憫に思ってかはどうかはわからないが、彼をグループの一員に迎え入れることを決めたようだ。

温かく迎えられる岡崎……。

隆士は期待した。


岡崎が迎えられたのだ。

もしかしたらあのグループはまだクラスに馴染めていないぼっちを全員迎え入れることを決めた聖人君子のようなグループかもしれない。

明日には自分も声を掛けられるかもしれない。


……しかし、隆士の期待したことは起こらなかった。


岡崎と俺の、……いったい何が違うって言うんだ……。


そんな事を嘆いても隆士がクラスの誰とも馴染めていない最後の一人となってしまった事実は変わらない。


隆士は恐ろしかった。

こんな自分が、周りから奇異の目で見られているのではないかと。


どうして自分は皆と同じことができないのか。

どうせ自分は社会から必要とされていない人間、死んでも誰も悲しまない。


結局のところ、隆士は定型文のような文言で自分を卑下することしかできなかった。


隆士の高校一年生の日々はほとんど、このような状態で消費された。


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